浮世絵から知る、
江戸時代の夏の過ごし方
(住まい・必需品)
|江戸っ子の納涼の知恵
両国に夕涼みに出掛けて花火を楽しむ、風鈴を吊るして朝顔を愛でる、振り売りが売り歩く麦湯を飲んでひと息つく……。電気のない時代に、五感で涼をとった江戸の人々。いまこそ、その豊かな感性や粋な涼の知恵に学びたい。
《住まい》
打ち水で地面を冷やす

(部分)須原屋茂兵衛、須原屋伊八『東都歳事記』1838(天保9)年/東京都立図書館蔵
茶の湯の礼儀に端を発した打ち水は、庶民の習慣として広く浸透。涼を呼び込むだけでなく、道に土埃が舞わないようにという目的もあった。江戸の俳人・宝井其角は「水うてや蝉も雀もぬるる程」という句を詠んでいる。
すだれ、よしず、
朝顔で日差しを遮る

小林鉄治郎『東京十二景 入谷の朝顔』1881(明治14)年/ 東京都江戸東京博物館蔵
武家や豪商は、夏になると障子や襖を竹や葦で編んだすだれに取り替えて屋敷に風を通す工夫をした。また小さな店や長屋暮らしの町人は、出入り口によしずを立て掛けて夏の強い日差しをしのぐ。「夏の風物詩として、市場や朝顔売りから買った朝顔を飾って涼を得ていました。江戸では、下級武士が内職として朝顔を栽培したのですよ」と沓沢さんは話す。
《必需品》
趣向を凝らしたうちわは必須!

歌川国芳『団扇絵 当国三ツの狩 ほたるかり』江戸末期/東京都江戸東京博物館蔵
持ち手から骨まで一本の竹を割いてつくった、サイズも大きな「江戸うちわ」は、100万人都市となり、特に密集した町人地に涼をもたらした。江戸後期には歌舞伎役者の浮世絵が刷り込まれるなど、いまの“推し活グッズ”のような存在にもなった。
風鈴、虫、緑……五感で
涼を取り入れる

歌川豊国『夜商内六夏撰 虫売り』江戸末期/ 東京都江戸東京博物館蔵
夏の江戸には、澄んだ音色を響かせる風鈴売り、秋風を運ぶ鳴き声の虫を売る虫売りが往来を行き交った。「江戸の人々は風鈴や虫を買い求めて、涼しい音色に触れて暑さを和らげていたのです」。また草市で買ったハスの葉やひょうたんを軒下に吊るし、狭い住居にも自然を取り込み、見た目に涼を呼び込んだ。

歌川国芳『縞揃女弁慶[三井寺の鐘]』1844(天保15)年/ 東京都立図書館蔵
蚊の対策が不可欠だった

鈴木春信『蚊帳を吊る母子』江戸後期/東京都江戸東京博物館蔵
江戸の夏は、食中毒や伝染病など、気をつけることも多かった。特に人々が怠らなかったのは、蚊への対策。蚊遣りと呼ばれる、カヤの木やヨモギ、杉の葉を火にくべ、立ち上る煙で蚊を追い払っていた。また武家や経済力のある商人たちは麻製の蚊帳を、長屋暮らしの庶民たちは紙製の蚊帳を吊って眠った。
熱中症を防ぐ薬湯も

(部分)須原屋茂兵衛、須原屋伊八『東都歳事記』1838(天保9)年/東京都立図書館蔵
暑気あたりの薬として知られるのが、定斎売りが商っていた延命散だ。「天秤棒に担いだ薬箱の引き出しをカタカタ鳴らし、町を練り歩く定斎売りは、夏の江戸を彩る風物詩のひとつでした」と沓沢さん。暑さに負けない薬を売っていた定斎売りはその効能を示すために、炎天下でも決して笠を被らなかったとか。
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text: Yukiko Mori
2026年7月号「納涼、しましょ。」


































