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瀬戸焼の聖地・愛知県瀬戸市
陶都千年のものづくりをめぐる旅へ
前編|瀬戸焼の歴史と発展のカギとは?

2026.3.24
<small>瀬戸焼の聖地・愛知県瀬戸市</small><br>陶都千年のものづくりをめぐる旅へ<br>前編|瀬戸焼の歴史と発展のカギとは?

「せともの」という言葉のルーツ、愛知県瀬戸市はその名の通り、焼物の都。1000年余り、陶器や磁器を生む窯が栄えてきた街を体感しに出掛けよう。前編では、瀬戸焼の歴史や発展した理由や背景などを31代続く唐三郎窯の加藤さんに教えてもらった。

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1000年以上続く
瀬戸焼の特色とは?

1000年以上にわたり、焼物づくりが続く「日本六古窯にほんろっこよう」のひとつ、瀬戸。その二大特色は、陶器にいち早く釉薬を施したこと、陶器・磁器の両方を生産していることだ。背景には、なんといっても瀬戸の良質な陶土の存在がある。白く粘り気のある土は扱いやすく、かたちを保つ可塑性に優れる。

中でも瀬戸で製土される「蛙目粘土がいろめねんど」は、少し加えるだけで可塑性と強度が高まるため、全国の窯業用土にもブレンドされるほど。また、瀬戸周辺では“サバ”と呼ばれる風化した花崗岩を産出しており、これを粘土に混ぜると磁器用の土になるため、陶器・磁器両方を地元の土でつくることができる。

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瀬戸焼の起源と歴史

瀬戸焼の起源といえるのが、古墳時代にはじまった猿投窯さなげよう。いまの愛知県名古屋市の東山丘陵周辺で、須恵器すえきの生産が行われたのがはじまりとされる。10世紀後半になると、本格的に瀬戸で焼物がつくられはじめ、その後、中世には、施釉陶器「古瀬戸」が誕生した。

瀬戸の陶祖が奉られる「陶彦社」

鎌倉時代には瀬戸の「陶祖」とされる人物が現れる。陶工・加藤四郎左衛門景正(藤四郎)は中国に渡り、焼物の技法を学んで帰国。製陶に適した土を求めて全国をめぐっていた。「瀬戸の深川神社で『辰巳の方角へ』という神のお告げを聞き、見つけたのがこの地の優れた土だったそうです」と教えてくれたのは、藤四郎の末裔で31世となる加藤唐三郎さん。藤四郎は瀬戸に移り住み窯を築き、繁栄の祖となったと伝わる。

その後戦国時代には、「黄瀬戸」、「志野」などさまざまな釉薬の技法が確立。江戸時代に入ると、徳川義直が名古屋城の御深井丸おふけまるの庭で焼物をつくらせる。これが瀬戸名産のひとつ、御深井焼となる。「19世唐三郎も徳川家に呼ばれた一人で、城で使う茶道具などをつくったようです」と加藤さん。

唐三郎窯 31世 加藤唐三郎さん。鎌倉時代に宋に渡り、帰国後瀬戸に窯を築いた「陶祖」加藤四郎左衛門景正(藤四郎)を初世とし、尾張徳川家の御用も務めた名門の窯元。約800年の歴史を継ぐのが、写真の31世加藤唐三郎さん。伝統の技にモダンな意匠を加えた作品は、格調高く温かな風合い

さらに江戸時代後期には、後に「磁祖」と呼ばれる加藤民吉が磁器の製法を肥前で学び、瀬戸に持ち帰った。これを機に、瀬戸では磁器の生産も盛んになっていく。

明治になると国内外の博覧会をきっかけに、陶磁器の輸出が盛んに。その後、飛躍的に伸びたのが、「ノベルティ」と呼ばれる人形や動物などの置物だ。細かな造形を精緻な型の技術でかなえたノベルティは瀬戸焼の一時代を築いた。

こうして瀬戸は陶磁器の大生産地となり、「せともの」が焼物の代名詞に。長い歴史の中で「せともの」回りの職人のほか、陶芸道具店など、窯業関連のあらゆる人々が集住するようになり、彼らがいまも陶都・瀬戸を力強く支えている。

唐三郎窯
住所|愛知県瀬戸市窯元町80
Tel|0561-82-4832
http://touzaburougama.com
※不在でない限りギャラリーの見学可。

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瀬戸焼のすべてが集結しているのが、
発展のカギ

瀬戸では原料となる土にはじまり、道具も職人も揃っている。粘土づくりから焼物を納める箱の製造まで、全工程が市内で完結。

①採掘

瀬戸焼の根幹となる良質な陶土(原土)は、名古屋鉄道尾張瀬戸駅から約2㎞と中心街に近い鉱山で採掘される。地元で「瀬戸のグランドキャニオン」と呼ばれるこの広大な採土場は、日本各地の焼物の産地を支えている。ここに眠る豊かな粘土は、5000万年前にマグマが隆起してできた猿投山の花崗岩が風化したもの。

②製土

鉱山から採れた原土は、多くがさまざまな工程を経て窯業用土になる。「加仙鉱山」では原土を砕いて水に溶かし、珪砂けいしゃ雲母きらなどの不純物を丁寧に除き精製、脱水の上天日で乾かし「水簸すいひ蛙目粘土」をつくる。

加仙鉱山
住所|愛知県瀬戸市湯之根町47
Tel|0561-82-2110
※見学不可だが、不定期に鉱山ツアーを開催。

③成形

瀬戸焼は多彩な製法で成形する。上の写真は粘土を水に溶かした「泥漿(でいしょう)」を石膏型に流し込んで成形する鋳込み製法だ。全国に顧客をもつ「村上金物店」では、成形に使うろくろやヘラをはじめ1000種類以上の陶芸道具を扱う。

村上金物店
住所|愛知県瀬戸市銀杏木町56
Tel|0561-82-2749
営業時間|9:00~18:00
定休日|日曜、祝日
https://ceramictools.shop

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④施釉

瀬戸焼は日本の焼物としては最初期にあたる中世に釉薬を取り入れた。素焼き後の施釉は表情を深め、耐久性を高める。「梶田絵具店」では釉薬の原材料から陶磁器用の上絵具・下絵具、酸化金属まで多彩に揃え、つくり手を支えている。

梶田絵具店
住所|愛知県瀬戸市陶原町2-22
Tel|0561-82-2765
営業時間|7:00~19:00
定休日|日曜、祝日
www.kajita-enogu.com

⑤焼成

施釉後しっかり乾燥させたら、1200℃以上の焼成温度が出せるガス窯や電気窯で本焼きをする。築炉専門の「大沢ガス炉商会」では、プロの窯焚き師が窯の設計から、焼成指導まで丁寧に行う。

大沢ガス炉商会
住所|愛知県瀬戸市南菱野町106
Tel|0561-82-2100
営業時間|8:00~17:00
定休日|日曜、祝日
www.ohsawa-gasuro.sakura.ne.jp

⑥梱包

上等な焼物はひも付きの木箱に納めて届けられる。窯元も信頼を寄せる「マツバラ」では、個々のうつわや注文主の希望に応じて桐・杉・モミなどの木を選び、一つひとつ手づくりしている。唐三郎窯もマツバラの木箱を長年愛用している。

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マツバラ
住所|愛知県瀬戸市新明町125
Tel|0561-82-6658
営業時間|8:30~17:00
定休日|日曜、祝日
https://wood-box.biz/company/index.html

 

型の技術から生まれる瀬戸焼
 
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瀬戸焼の聖地をめぐる旅へ
前編|瀬戸焼の歴史と発展のカギとは
中編|型の技術から生まれる瀬戸焼
後編|伝統を体感するおすすめスポット5選

text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Takashi Gomi
2026年4月号「地域の“旬”感へ」

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