《魚カタログ》
もちろん魚以外も!甲殻・軟体類②
|シャコ / マダコ / ヤリイカ
豊かな魚文化が根づく日本。海水魚や淡水魚、魚以外の甲殻類や軟体類まで……。知っているようで知らない、美味しい魚について生物ライターの平坂 寛さんに教えてもらった。美味しい魚介は何も魚類ばかりではない。甲殻類や軟体動物も食卓の主役を飾れる食材たちだ。ここではその中でも白眉といえる種をいくつか紹介しよう。
《シャコ》
エビに似て、エビにあらず
「第三の甲殻類」
食用甲殻類といえばエビとカニがそのほとんどを占める。その点シャコは例外的な魚介といえる。シャコエビ、ガサエビなどの別名もあるが明確にエビ類とは異なる分類群に属す。味わいもややエビに似るが、やはり別物。シャコはシャコで唯一無二の食材なのだ。ちなみに江戸前寿司職人らの符牒ではシャコを「ガレージ」というとか。車庫だけに。
〈美味しい食べ方〉
ゆでむき身を江戸前寿司のネタとして用いる。美味だがいまや高級品。
《マダコ》
歯応えと旨みを楽しむ
「価格高騰中!いずれ高級食材に……?」
マダコは意外に怪力で、時に荒磯にしがみつき、時に大きなイセエビをも仕留める。あの独特の歯応えはそうした生態ゆえに鍛え抜かれた筋肉によるものなのだ。さらに、旨み成分であるグリシンやベタインを豊富に含むことから味にも優れ、栄養価も高い。この味と食感を両立できる食材はほかにないだろう。しかしその漁獲量は減少を続けており、需要を賄う輸入タコも高騰しつつある。いずれ気軽に手を伸ばせない高級食材となってしまうかもしれないが、どうにか日本のタコ食文化を末長く残していきたいものだ。なお北海道ではミズダコを「マダコ」と呼ぶ場合があるので注意。
〈平坂 寛のマダコのトリビア〉
マダコは食物が多く捕れるとその一部を吸盤に張りつけて弁当のように持ち歩き、空腹時に食べる。妙に愛嬌と知性を感じる習性である。
〈美味しい食べ方〉
風味を楽しむには加熱したほうがよいが、刺身でも。生食は食感に優れる。
《ヤリイカ》
イカの旨さを知るにはこれ
「繊細かつ鮮やかな旨さが特徴」
沖縄を除く日本各地で捕れるイカ。同じく広く流通するスルメイカに比べて肉質が柔らかく、刺身ではほどけるような食感が楽しめる。さらに加熱しても硬くなりにくいため、どう調理しても美味しい万能食材だ。肉薄で透明感のある見た目に反して、皿の上ではほかの食材に負けることなく鮮明に味を主張してくれる。国内で流通するイカ類は多種にわたるが、その味わいは上位に位置する。甘みと旨み、食感のバランスがよいので、イカ選びに困ったら本種を指名すれば間違いがない。余談だが、イカを釣り餌として用いる場合も、スルメよりヤリイカのほうがずっと魚の食いつきがいい。
〈平坂 寛のヤリイカのトリビア〉
ヤリイカとはシルエットが槍の穂に似ることからついた和名だが、同様の由来で英名も「スピアースクイッド」。考えることは皆同じか。
〈美味しい食べ方〉
凍らせると旨みが増す。鮮魚は刺身で食感を、残りは冷凍し味を楽しむ。
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監修・文=平坂 寛
Discover Japan 2024年12月号「米と魚」