《魚カタログ》
もちろん魚以外も!甲殻・軟体類①
|クルマエビ / ノコギリガザミ / イセエビ / サクラエビ
豊かな魚文化が根づく日本。海水魚や淡水魚、魚以外の甲殻類や軟体類まで……。知っているようで知らない、美味しい魚について生物ライターの平坂 寛さんに教えてもらった。美味しい魚介は何も魚類ばかりではない。甲殻類や軟体動物も食卓の主役を飾れる食材たちだ。ここではその中でも白眉といえる種をいくつか紹介しよう。
平坂 寛(ひらさか ひろし)
1985年、長崎県生まれ。生き物を五感で楽しむスタイルで、生物ライター、YouTuberとしても活動。『釣って 食べて 調べる 深海魚』(福音館書店)など著書多数
《クルマエビ》
日本を代表するエビ
「養殖が各地で盛ん」
言わずと知れた食用エビの代表格。近縁でより安価なブラックタイガー(ウシエビ)やバナメイエビが市場にあふれているが、やはり味のよさではクルマエビに軍配が上がる。これは旨み成分であるグリシンやアルギニンといったアミノ酸が他種より多いためである。
その商品価値の高さから、沖縄をはじめ日本各地で盛んに養殖されており、現在では流通するほとんどが養殖ものとされる。絶命すると冷蔵してもたちまち鮮度が落ちてしまうが、おがくずに埋め込んでおくと長時間生かしたまま流通させることができる。小型の個体は釣り餌として出回ることも。
〈平坂 寛のクルマエビのトリビア〉
体を丸めた際に腹部の縞模様が車輪のように見えることが和名の由来。なお英語圏ではこれを虎柄に見立てタイガーシュリンプとも。
〈美味しい食べ方〉
刺身で、塩焼きで、フライで……。どう食べても失敗しないエビだ。
《ノコギリガザミ》
最強のカニ
「強い」は「旨い」
温暖な海域の河口に暮らす大きなワタリガニの仲間。味はほかのカニを凌ぐ絶品だが、高価で流通量も少ない。また、挟む力が非常に強く気性も荒いため扱いに注意が必要だ。指の骨を折られたという話はよく聞くし、時にはうそか誠か、誰それが指をねじ切られたという逸話も……。恐ろしいことだが、この怪力は彼らの美味を裏づけるものでもある。カニの爪の肉とはすなわち筋肉であるから、挟む力が強ければ強いほど肉付きがよく身が締まっているわけだ。沖縄や高知の市場へ行けば生かしたまま販売されている個体にありつける。みそも味わい濃厚で素晴らしい。
〈平坂 寛のノコギリガザミのトリビア〉
出荷時に事故防止のため、ハサミがビニール紐や結束バンドで固定される。海外では輪ゴムも用いるほか、専用の拘束具も販売されている。
〈美味しい食べ方〉
シンプルに塩ゆでし、ワイルドに殻をかち割って肉とミソを貪るべし。
《イセエビ》
味よし縁起よし
「祝いの席には欠かせない」
誰もが知る大型のエビ。伊勢に多産したことからこの名がついた。そこから伊勢神宮に結びつき、腰の曲がりが老人と結びつき長寿を祝う意味合いをもつ。ゆえに縁起物として祝いの席や正月飾りとして欠かせないものとなっている。大きいためさまざまな料理に使える。シマイセエビ、ニシキエビ、ゴシキエビなど近縁種も多いがいずれも高価だ。
〈美味しい食べ方〉
味噌汁にすると、プリプリした食感とミソ、殻の出汁をすべて堪能できる。
《サクラエビ》
海の宝石
「暗海に舞う桜吹雪」
駿河湾に多産する小型のエビ。淡いピンク色で春先に捕れることからこの名がついた。小粒ながらその甘みは深く、さまざまな料理に生かされる。大井川港と由比港でのみ水揚げが許されており、漁期になると現地では新鮮なものが出回り、時に刺身にもありつける。別種の小型エビを赤く着色した「なんちゃってサクラエビ」には注意しよう。
〈美味しい食べ方〉
釜揚げがありつきやすく安定した美味しさ。パスタに和えてもよし。
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監修・文=平坂 寛
Discover Japan 2024年12月号「米と魚」