佐賀県《大日窯》
有田焼のうつわが暮らしに心地よく馴染む
有田焼の窯元「大日窯(だいにちがま)」は、いわゆる有田焼とは一線を画するプロダクト。使うほどに手にしっかり馴染む「飯碗(くらわんか碗)」をはじめ、何げない食卓の風景を紡ぐ大日窯のうつわに迫る。
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3代続く有田焼の窯元
「初代は初期伊万里が大好きで、小学生の頃から道端に落ちていた破片を集めていたとか。作家業の合間につくっていた日用食器が柳宗悦さんの目に留まったみたいですね」と話すのは、「大日窯」の2代目・久保徹さんの妻である久保トシエさん。
現在は親子ほど歳の離れた今泉貴子さんと二人で窯を切り盛りしているが、ここに至るまでには紆余曲折があった。というのも、20年ほど前に若くして徹さんが急逝。トシエさんは息子の博志さんとともに窯元を守る必要に迫られたのだ。
62年の歴史に終止符を打った
大日窯の再出発
初期有田を踏襲した大日窯のうつわは、いわゆる有田焼とは一線を画すプロダクト。徹さん亡き後も注文が絶えることはなく多忙を極めたというが、気力体力ともに限界に達して仕事を楽しめなくなったトシエさんは、2020年に廃業を決意。大日窯は62年の歴史に終止符を打ったのである。
ところが「廃業するなんてもったいない」と、トシエさんの同級生である貴子さんの父が手を差し伸べたことで、大日窯は2022年に返り咲く。貴子さんが博志さんのポジションを引き継ぐことで、新生・大日窯として再出発を果たしたのだ。
有田焼の中でも独特
“大日窯らしい”絵付け
とはいえ、生まれ変わったからといって大日窯が初代から守ってきた作風は何ひとつ変わらない。中でも窯のアイコンとも呼べる小ぶりでぽってりと厚い「飯碗(くらわんか碗)」は、見る人が見れば大日窯のものとわかる特徴的なフォルム。高台が広く安定感のあるかたちは、使うほどに手にしっくりと馴染んでくるからおもしろい。
「ここの絵付けは、有田焼の中でも一種独特。シンプルだからこそ少しでも線の描き方が異なると、まったく違うものになってしまうんです」と、大日窯らしい絵付けを体得しようと貴子さんは奮闘中。
だが、オリジナリティがあってもいいとトシエさんは話す。「私の絵柄は初代とも夫とも違うため、彼らに似せたほうがいいのだろうかという葛藤も昔はあったんです。私にしか描けない絵柄だと思えるには時間がかかりましたよ」と、代々受け継がれてきた大日窯の絵柄は一見すると変わらないように見えるが、実は代替わりするごとに微妙に変化し続けているという。
柳宗悦の説いた美が宿る
暮らしを紡ぐうつわ
「お客さまの中には『祖母が使っていたうつわが懐かしくなって』と、同じものを買いに来られる方もいるんです。これからも代々受け継がれるようなうつわでありたいですよね」と、廃業という小休止を挟んだいまは、貴子さんと過ごす日々が楽しくて仕方がないといった様子のトシエさん。何げない食卓の風景を紡ぐ大日窯のうつわには、柳宗悦の説いた“雑器の美”が確かに宿っている。
使うほど馴染む
窯のアイコン「飯碗」
飯碗(大)【格子赤】
大日窯にしか出せない海老茶に似た赤が特徴。酒や汁物にも使われてきた歴史から、いまでも有田では大きな飯碗を汁碗として使う文化が残る。
飯碗(小)【格子青】
山から採取した原料でつくられる天然の呉須の色合いは、淡く柔らか。厚手で重心が低く、数十年使用しても割れない堅牢さも自慢。
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