《空也/くうや》
アップデートした伝統の味を世界へ!【後編】
和菓子の魂ともいうべきあんをANKOとして世界に広めるため、新しい味に挑戦する東京・銀座の「空也」。後編では、令和のいまも愛され続ける理由と、“スパイスつぶあん”をはじめ老舗の味と革新の味が融合した、空也の和菓子ラインアップを紹介しよう。
老舗の味と革新の味、
あんこの魅力を多彩に伝える
今回の取材は、さまざまな分野の長寿の秘訣をうかがう特集だと聞き、空也当主・山口彦之さんは困ったような、照れたような顔をした。
確かに和菓子の世界では400年、500年と続く店もある。だが空也の……というより、当主である山口さんにこそ、令和のいま、聞くべき老舗が〝100年続く理由”があるのではないかと思う。
「特別、何か新しいことをやってやろうとかじゃないんですよ。ただ、あんの魅力をもっともっと、多くの人に知ってもらいたいっていうだけで」
空也の息子として生まれた山口さんにとって、子どもの頃からおやつといえばあんの入ったお菓子だった。
「和菓子店だからってケーキは一切食べないなんてことはなかったですし、駄菓子も食べましたよ。でもやっぱりうちのあんが美味しいと思っています」
店は連日の行列。最中をはじめ店でつくられる菓子たちは飛ぶように売れていく。しかしふと気づけば世の中には「和菓子? 食べたことない」という若い世代が増えてきた。
「それを知って、もっとあんの美味しさを知ってもらいたいと思ったんですが、空也には空也の味を求めてくださるお客さまがいて、守るべき味があるし、ここではつくれる量が限られている。いろいろ考えて別ブランドとして誕生させたのが『空いろ』でした」
空也のものづくりの魂を大切にしつつ、いまの若い人に馴染みのある洋菓子の魅力を取り入れた、あんを使った新ブランンド「空いろ」。いまも一番人気のクッキーにあんを挟んだ「TSUKI」は、洋菓子職人と一緒にあんの味はもちろん食感までクッキーに合わせて調整するなど、ただ単に空也のあんを使うのではなく、新しい菓子としてあんの美味しさを伝えるように工夫した。
「あんこの美味しさをもっとシンプルに伝えたくて、瓶詰めにしたあんを売り出したりもしました。いまでこそ瓶詰めのあんは珍しくなくなりましたが、当時はまだそんなになかったですよね」
実は空也でも「あんだけ売ってほしい」という声があった。空也では最中をはじめとする和菓子用のあんを製造するので精一杯だが、その声に「空いろ」で応えることができた。
「いま、一番新しいところでは、スパイスとあんを組み合わせたスパイスつぶあんがおすすめ。スパイスを提案してくださった香辛堂さんは、実はあんが好きではないそうです。だから『あん好きじゃない自分が食べたいあんとは?』を考えて、スパイスをブレンドしてくださって、それを受けて私がスパイスに合うあんを考えました」
老舗の跡継ぎとなると、暖簾に傷をつけない、歴史を守る、変わらぬ味など、縛りがありそうだが、山口さんはどのように考えているのだろうか。
「変えちゃいけない部分はもちろんあります。たとえばいい材料、丁寧な仕事、そういったものは空也の根幹ですから。最中は、おそらく創業当時からほぼ味は変わっていないと思います。でも製造過程ではガス釜からIHに替えたり、皮にあんを入れる工程に機械を使ったり、時代に合わせて変わっています。味に影響のない、働く人が楽になったり、効率がよくなることはいいことで、すべてを手作業にこだわる必要はないんです」
時代といえば、オーガニック、SDGsといったキーワードは、和菓子にも関係あるだろうか。
「そういうのを売りにするというのも、アリだとは思いますが、空也にはあまり関係ないと思っています。ブームはすごく力がありますが、流行がそのまま定番になるものは少ない。本質を見失わず、奇をてらい過ぎず、いい材料を使ってつくっていくのが、時間はかかるけれど最終的に評価されていくんじゃないかと。無頓着に世に合わせるより、自分たちがやってきたことを粛々とやっていくだけですね」
読了ライン
美味しいあんこを世界へ届ける
3変化ラインアップ!
<空也>
空也の名を不動のものとした
銀座土産の王道中の王道
空也創業当時からあったといわれる空也最中は、自宅用にはもちろん手土産としても大人気。銀座界隈の商店の中には空也の最中を箱買いし、上得意さまに差し上げているという店も。予約して購入することは必須と知れ渡っており、手土産にすれば「こんないいものを!」と喜ばれる、銀座土産の王さま的存在でもある。喫茶店で「空也最中」をお茶請けに出していることを自慢にしている店もあるほど、誰もが心そそられる逸品なのだ。
空也最中
価格|10個入り自宅用1100円
空也
住所|東京都中央区銀座6-7-19
Tel|03-3571-3304
営業時間|10:00〜17:00、土曜〜16:00
定休日|日曜、祝日
<空いろ>
空也が伝えるあんの美味しさを、
かたちを変えて世界へ
山口さんの「あんの美味しさをもっと多くの人に知ってほしい!」という思いから、洋菓子職人を招聘し、洋菓子とあんを組み合わせる「空いろ」が誕生した。あんとの食感のバランスを考え、口に入れるとほろりと崩れる柔らかめのクッキーに、あんを挟んだ。「空いろ」のあんは空也よりも結晶時の粒が大きいザラメを使うなど、空也のあんとはまた違ったあんこの魅力を開発している。あんを自由に味わってほしいと、いまでは一般的になった瓶詰めのあんをいち早く生み出したブランドともいえる。期間限定で、あんにフルーツの果汁を加えるなど、自由な発想で商品開発を積極的に行っている。
つき TSUKI
価格|8個入り2270円
※購入は空いろオンラインショップまたは公式ウェブサイトをチェック
あめつち特製 銀座空也×香辛堂 コラボ
スパイスつぶあん「#02 MOROCCO BLEND」
当主・山口さんが「実はあんが嫌い」という香辛堂店主とタッグを組んで誕生したあんこペースト。スパイスという新しいパートナーを得て、あんこの味の可能性はさらに広がった。種類は#02のほか#01、#03もある
香辛堂
住所|東京都目黒区自由が丘1-25-20
Tel|03-6770-7173
営業時間|11:00〜19:00
定休日|水曜、第4木曜(ほか不定休あり)
https://koushindo.net
販売場所|香辛堂、青山ファーマーズマーケットあめつちブース(毎週土・日曜)、あめつちオンライン
読了ライン
text: Ichiko Miyatoya photo: Asami Endo
Discover Japan 2023年6月号「愛されるブランドのつくり方。」