INFORMATION

《スペシャル対談》
星野リゾート代表 × 愛知県知事

愛知発の「休み方改革」とは?

2023.6.19 PR
<small>《スペシャル対談》<br>星野リゾート代表 × 愛知県知事</small><br>愛知発の「休み方改革」とは?

愛知県が今年度から推進している「休み方改革」プロジェクト。その舵を取る愛知県知事と、以前から休みの分散化を提唱してきた星野リゾート代表が対談した。

星野リゾート代表
星野佳路さん(ほしの・よしはる)
1960年、長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。海外でのホテル開発事業に従事した後、1991年に家業の星野温泉(現・星野リゾート)社長に就任。「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO」「BEB」の5ブランドを中心に、ホテル運営を行う。趣味はスキーで、年間の滑走日数は70日が目標

愛知県知事
大村秀章さん(おおむら・ひであき)
1960年、愛知県碧南市生まれ。東京大学法学部卒業。農林水産省を経て1996年、第41回衆議院議員選挙で初当選(当時36歳)。以来、5期連続当選。2006年に内閣府副大臣、2008年に厚生労働副大臣。2011年、愛知県知事当選。2023年2月、同4選。大学時代はアメリカンフットボール。現在の趣味は読書とサッカー

観光需要の平準化が
問題解決のキーとなる

©︎ Studio Ghibli

ジブリパークの開園で、国内外から注目が集まる愛知県。チケットが予約制で、平日の集客に成功していることも特筆すべき点だ。そんな愛知県が推進する「休み方改革」や、星野代表がこれまで提唱してきた「観光需要の平準化」をテーマに語り合った。

大村 ジブリパークは、来ていただいたすべてのお客様に施設をゆったりと見ていただけるよう、日時指定の予約制とし、入場者数を制限しています。 運営的に大変ではあるのですが、これが功を奏し、平日も多くのお客様に来場いただき、観光需要の平準化につながっています。

星野 平準化は、観光の多くの問題を解決するキーだと思っています。日本の産業全体で見ると、観光消費額は大きく、総額で28兆円にも上ります。そのうちの22兆円が日本人による国内観光なのです。ただ、それが土日、ゴールデンウィーク、お盆、年末年始など、1年のうちの1/3に集中します。一日ごとに決算したとすると、年間1/3が黒字で、残る2/3が赤字になります。その影響が観光産業全体の雇用状況に出ていて、非正規雇用が75%も占めています。消費者側から見ても、ゴールデンウィークは値段が高くなる上に渋滞は起こるし、値段が高いから、「旅行はしない」という人も出てきます。そこを平準化することで、働き手だけでなく、お客様にとってもプラスになります。そういう意味で、今日は知事が進める休み方改革の話を聞くのを楽しみに来ました。

大村 私も、昨年のゴールデンウィークに孫のお宮参りのため関東方面に出掛けたのですが、混んでいて高くて、サービスの質が落ちている現状を目の当たりにしました。これはおかしいと休み方を変える必要性を痛感したのです。愛知県の主要産業である製造業が生産量の平準化を進めることで生産性を高めてきたのとは対照的です。

星野 その通りです。だから製造業では正社員の比率が高いわけです。本来、観光立国を目指すなら、どれくらい収益を上げて、その収益をどう社員に還元していくかを考える必要があるのです。

大村 全産業の非正規の割合は37%ですが、宿泊業・飲食サービス業はその倍。今、観光産業はみんな人手不足で需要に応えられていない。悪循環ですよね。やはり休みをできるだけ平準化することで、ハッピーな人が増えるのではないでしょうか。

星野 そうなんです。多くの課題が解決されます。これ、私も長年提言していることなのですが、28兆円という日本の観光消費額は、規模でいうと5番目に大きな産業で、建設とか金融とあまり変わらない。にもかかわらず、ほかの産業と比べて利益を出せていない。今までの日本の観光政策っていうのは、「インバウンドを何人呼ぶか?」という集客の議論になりがちですが、一番重要なのは、いかにして日本人による国内観光を平準化で快適にし、観光産業が収益力を上げられるようにするかに着目すべきです。

 
ジブリパーク
スタジオジブリ作品の世界観を表現した公園施設が2022年11月「愛・地球博記念公園」内に誕生。第1期開園は、「ジブリの大倉庫」「青春の丘」「どんどこ森」の3つのエリア。自然や既存施設と共存しながら施設を整備しており、ジブリパークの目印となるエレベーター塔(上の写真)はもとあった建物を活用してデザインした。チケットは日時指定の予約制で、ゆったりと園内を楽しめるシステムになっている。第2弾として、「もののけの里」「魔女の谷」が2023年度中に開園予定。

所在地|愛知県長久手市茨ケ廻間乙1533-1 愛・地球博記念公園内
Tel|0570-089-154
営業時間|平日10:00~17:00、土・日曜、休日9:00~17:00
(ただし学校の長期休業期間中の平日は9:00~17:00)
定休日|火曜(祝日の場合は翌平日休)
チケット|日時指定の予約制(料金は施設・曜日により異なる)

「あいちウィーク」、
「ラーケーションの日」を新設

大村 同感です。実は、愛知県では、今年度から11月27日を「県民の日」とし、その日を含む21日からの7日間を「あいちウィーク」とします。県内の公立学校(小・中・高)では、学校長の判断で期間中の任意の1日を「県民の日学校ホリデー」として休校日にしていただきます。また、2学期からは、学校に来なくても欠席にならない「ラーケーションの日」(ラーケーションはラーニングとバケーションを組み合わせた造語)を導入します。いずれも、保護者の有給休暇の取得を促し、家族で過ごす時間につながればいいと考えています。

星野 平準化の策はこれまで国にお願いしてきた部分があるのですが、愛知県の取り組みを見ていると、地方から起こる休み方革命のようなものを感じます。知事が提案された「あいちウィーク」を他県が同じようにやり出すと、自然に観光需要が分散していくのではないでしょうか。

大村 おっしゃる通りですね。実は昨年、私が提案し、リーダーを務める「休み方改革プロジェクトチーム」が全国知事会に設置されました。全国知事会で県単位の動きをつくり、国民運動にしたいですね。

星野 ラーケーションはすごい取り組みだと思います。というのは、地理とか日本史とか散々学校で習うのに、現地に行ってみる体験が多くない。海外の研究で「子どもの頃に家族旅行が多かった人の方が、大人になってから旅を続ける率が高い」っていう統計が出てるんですよね。ラーケーションは、日本の人口減少時代に、日本人による国内旅行市場22兆円を維持するために有効な策だと思います。

大村 ただ、学校って、子どもたちが規則正しく通って社会生活を学ぶところでもあるので、ラーケーションに関しては様々なご意見があります。しかし、私はやれるところからはじめ、徐々に広げていきたいと思っています。

星野 ラーケーションに関しては、観光産業が協力できる部分もたくさんあると思うんですよね。たとえば、普段とは違った、子ども向けのアクティビティを提供したり、価格面で優遇したりということは充分可能だと思います。平日の需要をつくり、分散に協力するということは、観光地にとっても本当にプラスなので。

大村 あと、製造業では、製造ラインで働いている人だけでなく、工場が休みのときに設備をメインテナンスする人たちもいます。その方々は、土日やゴールデンウィークに仕事をするケースが多く、子どもと一緒に過ごせないわけです。全国的に見ても、有業者のうち、土曜に働いている人はおよそ2人に1人、日曜に働いている人も3人に1人いるという統計があります。つまり、子どもの休みと保護者の休みが一致していない現状があり、これに対応する必要があります。

しかし、それは行政だけでは解決できないので、3月にこの地方の経済界・労働界・教育界の方々と、ともに休み方改革を進めていこうという同意書に署名しました。

星野 それはすごい。革命的ですね。知事の取り組みは観光産業の需要のあり方を変える可能性があると強く感じています。あとひとつ、ヨーロッパの観光の強さについてお話しさせてください。

ヨーロッパの観光が強いひとつの理由は、国ごとに休みをずらしていることにあります。スペイン、ドイツ、イギリスの休暇がずれることで、平準化ができている。 その中でフランスは、周辺国の休みがない2月に休暇を設定しています。季節柄、スキーに出掛ける方が多いのですが、おかげで、フランスのスキーリゾートは、2月は周辺国からの顧客が来ない替わりに、フランス国内から来ます。しかも、フランス全土を一斉に休みにするのではなく、3地域に分けて休暇を設けているので、一層の平準化が図られています。

こういう風に国単位で起こっているヨーロッパの状態を今、愛知県からはじめて、全国に広げようとしているわけです。これはものすごく大きな最初の一歩。 愛知県の「あいちウィーク」に期待しています。

大村 ありがとうございます。愛知県では、現在、観光コンテンツや宿泊施設の高付加価値化にも取り組んでいます。このうち、宿泊施設については、補助金を創設して、ワーケーション施設などの整備を後押ししているところです。休み方改革による観光需要の平準化に加え、こうした、ハード・ソフト両面での観光資源の高付加価値化により、観光を一層盛り上げていきたいと考えています。

読了ライン

対談後は「なごやめし」に舌鼓

グルメも愛知県が誇る観光資源。中でも「なごやめし」は、観光客だけでなく出張客にも人気だ。星野、大村両氏も、対談後に、きしめん、天むす、味噌かつをほお張った。

<愛知県の観光地1>
あいち航空ミュージアム
「あいちウィーク」に、ものづくり文化に触れる

愛知県が今年度からはじめる「あいちウィーク」では、各校の判断で「県民の日学校ホリデー」が設けられる。これを機会に、「あいち航空ミュージアム」など県内の施設で愛知県のものづくり文化などに触れ、郷土への理解を深めてほしいとのねらいがある。

<愛知県の観光地2>
日間賀島(ひまかじま)
「ラーケーションの日」に、貴重な体験を

産業県のイメージが強い愛知県だが、実は自然も豊富。離島や山里に家族で出掛け、その暮らしを体験することなどは、「ラーケーションの日」の格好の題材になり得る。知多半島の沖に浮かぶ日間賀島はフグやタコが名産で、地元の食文化も味わえるおすすめスポット。

<愛知県の観光地3>
蒲郡温泉郷
ワーケーション施設の整備で休み方改革を後押し

コロナ後でも、テレワークなど多様な働き方をいかにして定着させるかが重要。愛知県では、宿泊施設の高付加価値化改修を支援する中で、旅館やホテルにおけるワーケーション施設やサテライトオフィスの整備を促進している。県内最大の温泉地である蒲郡温泉郷でも取り組みが進行中。

 

今夏より展開!「あいちスキ旅キャンペーン」
愛知県では、「空いてる時に、好きな場所へ、出かけよう」を合言葉に、「あいちスキ旅キャンペーン」を今夏から展開。県内の観光関連事業者に対し、閑散期の旅行者への特典提供を働きかけるとともに、県では、テレビCMや新聞広告、SNS広告などを展開し、県民に「スキ旅」を呼び掛ける。

 

≫詳しくはこちら

 

読了ライン

text:Hiroko Yokozawa photo:Keiichirou Natsume(SPINFROG)
Discover Japan 2023年7月号「感性を刺激するホテル」/W特集「ローカルが愛する沖縄」

愛知のオススメ記事

関連するテーマの人気記事