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温泉ビューティ研究家・石井宏子さんが考える
温泉ワーケーションのススメ【総論】

2023.4.10
<small>温泉ビューティ研究家・石井宏子さんが考える</small><br>温泉ワーケーションのススメ【総論】

ワーケーションという切り口で温泉地の愉しみ方が広がる!? 温泉ビューティ研究家・石井宏子さんが考える温泉ワーケーションとは? というテーマのもと、序章では石井さんが実践している温泉ワーケーションでの過ごし方、前後編では石井さんがおすすめする温泉ワーケーションスポットを教えてもらいました。

選・文=石井宏子さん
温泉ビューティ研究家・旅行作家。年間200日ほど温泉を旅する。温泉や食、自然環境を通じて美しくなるビューティツーリズムを提唱。中医学の観点で調査を行い、温泉入浴で身体・心・肌がととのうかを研究して発表している。お気に入りの温泉は青森県にある蔦温泉

「休み+少し仕事」が休暇の可能性を広げる

編集部:コロナ禍を経て、ワーケーションという言葉も一般化してきているように思います。ホテルや旅館など、その滞在先はさまざまありますが、温泉地でのワーケーション、という選択はかなり魅力的だと思っていて、実際、ギュッと忙しい校了後に、仕事も持ち込みつつ温泉で癒されるのが、いい仕事の切り替えになっているなと感じています。そこで温泉地でのワーケーションの可能性について、本日はお話をおうかがいできればと思います。
 
石井さん:そうですね。昔で言う常宿とはまた違う、セカンドプレイスみたいな使い方ができる温泉宿が増えてきました。そもそもワーケーションって最初はリモートワークの延長と考えられていたと思っているのですが、ワーケーションとは「休暇の延長」だと思っています。会議があるからって休暇を諦める必要はないんです。1泊2日での温泉旅でもリフレッシュできますが、2連泊すると移動のないゆとりの1日がつくれます。とはいえ3日フルでは休めないという方も、仕事を持ち込むことで温泉に連泊滞在することが可能になるかもしれません。休暇の中でちょっと仕事する時間をつくるから、心置きなく休暇が取れる。この考え方こそがワーケーションの主流になると思うんです。
 
編集部:実際のところ、ワーケーションという言葉が出てきた頃は「東京ではない場所で仕事しよう」という考え方がベースにあったと思うのですが、ワーケーションというスタイルへの考え方自体を、もっと柔軟にしてもいいですよね。
 
石井さん:そうですね。ワーケーションではオンオフを自分で切り替えられるのがよいところかと。たとえば、このメールだけ返信してしまえば、あとは心置きなくゆっくりできる、そういう思考が、これからの人生の豊かさにつながるのではないかと思っています。温泉に行ってフルで働くなんて、ナンセンスじゃないですか?(笑)
 
編集部:本当ですね(笑)。
 
石井さん:逆に仕事のオンタイムで温泉にいる人ってなんだかずるい人ってイメージになるかと思うのですが、休暇なのに会議に出てくれた人って、いい人って思いません?
 
編集部:確かに! とらえ方が全然違ってきますね。
 
石井さん:そうなんです。働いているのだから、仕事の日扱いしてよって考えではなくて、気持ちよく休めたほうが気分いいですよね。

編集部:ちなみに、リゾートホテルではなく、温泉もしくは温泉宿でワーケーションすることのよさってなんだと思いますか?
 
石井さん:やっぱりメリハリがはっきりできることが一番のよさと思っています。温泉に入ることで、瞬間的にリセットできるというよさがあるのと、人間のDNAとして水に入ることはすごく気持ちがいいことで、その土地の水に浸る時間をつくると、身体も心も脳もリセットできる感覚になれると思うんです。だからリゾートでいえばプールに入るのもそう。温泉だと水ではなく湯であることも重要で、入ったらもうぼーっとするしかない。スマホも持ち込めないし、身体ひとつで無になれる。あと温泉に入っているときのあの腑抜け感。あれってなかなか日常ではできないことですよね。放電しているって感じ。
 
編集部:確かにそうですね。リゾートだと、プールもあればゴルフもあるからとにかく動こうって感覚になりがちですが、温泉宿だと温泉に入ることが目的だから、その時間を使って考えごとをしたり、物思いにふけることができるのがいいんですよね。
 
石井さん:リフレッシュするためとはいえ、ゴルフだと何時間もかかってしまうけれど、温泉ってそんなに時間を必要としないから、気楽なんですよね。
 
編集部:確かにそうですね。その気楽さがあるから、作業があっても合間に温泉入って切り替えて、作業してまた温泉に入ることもできるわけですね。あと温泉のお湯の温度って結構重要ですよね。泉質も含めて。
 
石井さん:そうですね。気合い入れるときはあつ湯に入るなどできるといいですね。ただ、ぬる湯に浸かっちゃうと、脱力してしまってその日は仕事できなくなる(笑)。その場合は2泊以上必要ですね。なので、ぬる湯は、もう心身が限界です……ってときのストレスリリースにおすすめです。
 
編集部:もう頭も肩がガチガチに固まってどうしようもない人こそ、ぬる湯へ! ですね。
 
石井さん:本当に、そういう人にこそワーケーションをしてほしい。ワーケーションというキーワードは、1泊ではなく連泊をするというハードルを越えるひとつの手立てになるので、おすすめしたいですね。

ワーケーションは食事処と自由度が重要

編集部:石井さんが温泉にハマりはじめたきっかけはなんだったのでしょう?
 
石井さん:そもそも私は宿でゆっくりする旅が好きで、今度どこに泊まろうかな、というところから旅の計画がはじまり、そのうち自然に、せっかく泊まるなら温泉に入ろうっていう考えになりましたね。それで、温泉ってすごいなと思ったのは、鳴子温泉郷ですね。隣同士の温泉が全然違ったりするその多様さに、いままで入っていた温泉とはレベルが違うなと感じました。
 
編集部:以前、鳴子温泉郷の「旅館大沼」さんにうかがったことがあるのですが、最近ワーケーション施設を新たにつくられたとか?
 
石井さん:そうなんです、先月末にリニューアルが完了しました。畳に座椅子ではなくテーブルと椅子がある客室もあるし、全館しっかりしたWi-Fiが入っていて快適です。ラウンジではオンラインイベントもできるほどの設備があります。そもそも旅館大沼さんは湯治の宿なので、長期滞在する人へのサポートがしっかりしているんですよね。

編集部:なるほど、湯治の宿はいいワーケーションスポットですね。連泊で温泉ワーケーションをする際のチェックポイントってなんでしょう?
 
石井さん:そうですね。快適なWi-Fi環境や、使い勝手のいいラウンジ、客室に広いデスクがあるといいですね。あと、最近のトレンドとしては温泉地の中の空き家だったところをコワーキングスペースにしているところがあって。たとえば鉄輪温泉の空き家をコワーキングスペースにしていたり、由布院の町にもあります。あと、湯河原には最近スタイリッシュな日帰り温泉施設「湯河原惣湯 Books and Retreat」ができて、ここにもすてきなコワーキングスペースがあるんですよ。
 
編集部:湯河原は近くていいですね! 行ってみたいです。
 
石井さん:湯河原温泉は結構新しいものができています。グランピング施設ができたりしていて、変わってきている印象ですね。あとチェックアウトの時間もポイントです。チェックアウトが11時や12時だとそれまで宿で仕事ができるのですが、10時チェックアウトの宿が多いので、そういうときは温泉地にコワーキングスペースがあると便利です。10時から会議が入っていると、その前に出て作業できる場所を探さないといけない。外にコワーキングスペースがないと路頭に迷うことになっちゃうんです。

編集部:うわー、それ出張先でよくやりがちです。チェックアウトする前に電源とWi-Fiスポットを探しています。
 
石井さん:チェックアウト日の予定を考えて宿を選ぶとよいかもしれませんね。
 
編集部:あとワーケーションに向いている温泉宿の条件ってありますか?
 
石井さん:そうですね、連泊をする上で問題になってくるのが、お昼をどこで食べるか。宿にお願いすることができるのか、周辺に食事処が豊富な場所にあるのかは、チェックしておきたいですね。
 
編集部:なるほど。温泉宿って朝ご飯の品数が豊富なところが多いですよね。夕食もしっかりあるから、お昼はもうおにぎりひとつでも十分だったり。
 
石井さん:そうそう。だから連泊している人向けに、お昼はダイニングでパンやサラダなどの軽食を出しているところもありますよ。
 
編集部:確かに、自分で食事の量や時間帯を自由に調整できるのもポイント高いですね。
 
石井さん:あと、2泊以上するようになると、やっぱりどこか散歩したくなりますよね。そうなったとき、私はカフェや喫茶店に入るのが好きです。温泉ってやっぱりそう長くは入れないので、時間を気にせずぼーっとしたいときに行っています。
 
編集部:最近そのように過ごした温泉地ってありますか?
 
石井さん:最近だと有馬温泉ですかね。有馬は食事もしっかりしていて少々お高めの旅館が多いのですが、「小宿」という仕組みを温泉街でつくっていて。リノベーションした空き家を温泉宿が管理し、アパートメントタイプのような感じで1部屋を利用できるようになっています。部屋に温泉はないのですが、その部屋を管理している温泉宿の温泉には入れたり、外湯をめぐったりもできる。温泉宿が管理しているっていうのがよくて、だからアメニティやリネンもしっかり揃っているし、掃除も行き届いている。あえて暮らす気分で過ごしたい人にはこういう小宿を利用するのもおすすめです。

編集部:ほかにもそういった温泉地はありますか?
 
石井さん:由布院温泉ですかね。「束ノ間」という宿がつくった「湯倫舎」は、中に客室が3つくらいあるのですが、トイレとキッチン、洗面所が共同。この宿ならではの蒸し窯もあるので、食材を買ってきてみんなで調理してもいいし、宿の食事処を利用してもいい。束ノ間さん自体、うちは旅館ではなく、一定期間とどまる場所、逗留する場所と言っていました。由布院はいま街全体で温泉保養地としての在り方をしっかり決めて取り組まれていますね。
 
編集部:本当に、温泉地ひとつとっても泊まり方の選択肢が増えましたね。
 
石井さん:ゲストハウスではないけれど、自由度はあるような、滞在型の泊まり方ができる選択肢が増えてきている感じですね。
 
編集部:最後にワーケーションできる宿として、こんな要素があると最高! っていうのはありますか?
 
石井さん:やっぱり絶景は欲しいですよね。部屋に風呂が付いているとうれしいです。大浴場はもちろん行くのですが、何時でも入れるのが理想です。温泉宿に泊まるときは、温泉が何時まで入れるのかを気にする人もいますよね。あと気が利いている宿はデスクに加えて、デスクライトが調光できるようになっていたり、延長コードが置いてありますよね。
 
編集部:延長コード、とてもうれしい気配りですよね。
 
石井さん:照明も仕事との切り替えには重要で、仕事したいときは明るく、癒されたいときは暗くできるようになっているといいんですよね。
 
編集部:確かに! 照明重要ですね。
 
石井さん:どこまで仕事したいかにもよってくると思っていて、がっつり仕事したいなら、広々とした本気デスクも欲しいですよね。
 
編集部:あと椅子もですかね……。
 
石井さん:椅子も大切ですね。書斎デスクがあったり、書斎の部屋があると部屋内でも切り替えもできるし。あとはデスクの向き。ホテルだと壁に向いていることが多いのですが、温泉宿はお茶したりする寛ぐためのデスクとして置かれていることが多いから、意外に絶景デスクが多いんですよ。
 
編集部:絶景デスク! そのワードはとても惹かれますね。
 
石井さん:テンションが上がりますよね。テンションが上がるといえば、仕事が終わった後の楽しみが充実している宿もワーケーションにはぴったりで。最近楽しかったのは新潟県のカーブドッチ トラヴィーニュ。ブドウ畑が目の前の立地で、レストランにはここでしか飲めないヴィンテージワインもあるんです。仕事を終えたらしっかり楽しむ。これも重要なことですね。

編集部:頑張った分楽しまないとですよね。次の旅先候補の幅が広がってわくわくしてきます! ありがとうございました!

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text: Ryosuke Fujitani photo: Kenji Okazaki, Norihito Suzuki
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