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若林佛具製作所《KAKEHASHI SERIES》
暮らしにほしい伝統工芸

2022.12.30
若林佛具製作所《KAKEHASHI SERIES》<br><small>暮らしにほしい伝統工芸</small>

慌ただしい日々の中で忘れがちな、家族や親族、祖先とのつながり。若林佛具製作所は、現代のライフスタイルに馴染むシンプルな仏具は心の安らぎや、文化を継承するきっかけをもたらしてくれる。

「KAKEHASHI SERIES」デザイナー
清水慶太(しみず・けいた)さん

1974年、東京都生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科、同大学院美術研究科修士課程修了。イタリア・ミラノでの活動を経て帰国。奇をてらわない機能美に富んだプロダクトデザインで、グッドデザイン賞を複数受賞

「KAKEHASHI SERIES」プロデューサー
蒔田勇輔(まきた・ゆうすけ)さん

コンストラクト代表。メーカーのコンセプト開発からブランディング、製品開発におけるディレクションとデザイナー・アーティストのアサインや販促戦略まで、一貫したプランニングを手掛ける

左から)蒔田勇輔さん、清水慶太さん

忘れがちな和の風習こそ、
次世代へつなぐために仏具をアレンジ

自分のルーツであるご先祖さま。もう会えなくなってしまった故人に手を合わせ、思いを馳せる機会は、時代とともに失われつつある。日本古来の風習もしかり。たとえば「お盆」。いまや単なる夏季休暇のように形骸化しているが、本来は故人の霊が年に一度、家に帰ってくるとされる行事だ。その期間に寄り添う仏具のひとつ・盆提灯をスタイリッシュにアップデートした製品が注目を集めている。
 
手掛けたのは、1830(天保元)年創業の京都「若林佛具製作所」。2018年にオリジナルブランド「KAKEHASHI SERIES」を立ち上げ、新感覚の仏壇・仏具を発表している。盆提灯を含むプロダクトの数々は、どのように生まれたのか。デザイナーの清水慶太さん、プロデューサーの蒔田勇輔さんにお話をうかがった。
 
「お仏壇や仏具というと、昔は代々継承されていくものでした。しかし昨今は、自宅には気に入ったものだけを置きたいという志向が強くなった。そこで、より家具に近い感覚のアイテムを製作するべく、家具デザインのキャリアに定評のある清水さんにお願いすることにしました」と蒔田さんは振り返る。一方、清水さんにとって「KAKEHASHI SERIES」の原点となったのは、東日本大震災。人々が手を合わせるシーンが繰り返し報道され、清水さんに強い感銘を与えた。「手を合わせることは、心のよりどころを見つける行為なんだと感じて。ブランドの第1弾として仏壇をデザインする機会をいただいたとき、“手を合わせよう”をコンセプトにしたいと思いました」。
 
盆提灯も「いつか絶対に手掛けたい」と清水さんが願っていたプロダクト。故人の霊が迷わず家に帰ってこられるよう、目印として灯されるものだ。従来品は和のイメージが強かったが、「ヨーロッパのモダンな住空間にあっても不思議ではない姿に」という思いでリデザイン。伝統的工芸品である岐阜提灯のメーカーとコラボレートし、ルームランプとして一年中使える盆提灯が誕生した。高いインテリア性が好評を博し、この業界では異例となる数百個単位の売上を記録したという。
 
2022年リリースされた盆飾りセット「TOU」も、お盆という行事を見つめ直すきっかけとなりそうな逸品。ナスやキュウリを馬や牛に見立てる“精霊馬・精霊牛”を、手仕事の温もりを感じる木工で表現した。家具や工芸として現代の住まいに美しく溶け込む仏具は、文化や精神性を次世代へとつなぐツールでもあるのだ。

パーツごとに産地の特性や得意分野を生かして製作
仏壇の製作は、良質の家具づくりで知られる北海道・旭川で。業界的には珍しい大ロット生産だが、金具を極力使わない構造に木工職人の高い技術がしっかりと込められている。盆提灯の本体は岐阜、スチールは新潟・燕三条で生産
日常空間に溶け込んだ、手を合わせる場をつくる
仏間はもとより、和室のない家も少なくない現代。モダンなリビングに置いても浮くことのない、家具の延長としての仏壇や盆提灯は、ますますニーズが高まりそうだ
“お飾り”を通して“お盆”を知る
新しいコミュニケーションツールも開発

子どもや孫と遊びながら、お盆の意味やご先祖さまへの想いを伝えられるお飾り。ゴザ状の“まこも”を手漉き紙に落とし込んだパッケージ付きで、使わないときは本のように立てて収納できる

盆飾りセット「TOU」
価格|1万6500円
サイズ・内容物|パッケージ/W297×D210×H33㎜
精霊馬/W80×D20×H100㎜
精霊牛/W100×D20×H72㎜
蓮の葉/φ140×H10㎜
おがら/W260㎜(5本入り)
冊子/A5サイズ(D148×W210㎜)8ページ

世代を超えて使い続けたい
KAKEHASHI SERIES

スマートなビジュアルに、画期的な試みがちりばめられた「KAKEHASHI SERIES」。特に盆提灯は、デザイナーの清水さんもはじめて挑戦するアイテムだった。「無駄を省きながら構造美を追求する、椅子に近い感覚でデザインしました」。火袋を無地にしたりと装飾を削ぎ落としながらも、伝統的な盆提灯の特色である上部の雲手(くもで)(取っ手)はあえて残した。第1弾のコンパクトな置き型に続く翌年の新作は、置き・吊りの2WAYに対応。マグネットで脚を着脱する「AGASATO」の構造は、テーブルのデザイン経験から生まれたアイデアだという。強度とデザイン性、機能性を満たせるよう、提灯メーカーと何度も相談を重ね、盆提灯の新しいスタンダードが完成した。
 
ブランドの出発点である仏壇にも、家具デザインのノウハウが随所に。故人のイメージや空間に合わせてファブリック張りの背板の色は選べるようにしたり、扉付きのモデルは設置場所を選ばないよう戸袋を設けたりと、住み手の目線が集約されている。無垢の木から削り出した位牌も含め、家具の5大産地のひとつ・旭川のメーカーに製作をオーダー。柔らかな風合いに心が和む。暮らしの中で手を合わせる習慣を、この先も守っていきたい。

伝統を守りながら、
従来の盆提灯をアップデート

「AGASATO」
現代の多様なライフスタイルに溶け込むデザインと、置き・吊りの両方で使える機能性を併せもった盆提灯。上部を固定する“かんざし”など、従来の提灯にない構造。名称は「吾が郷(あがさと)」の意味

盆提灯
価格|2万7500円
サイズ|φ360×H775㎜(置き型)、H463㎜(吊り型)
素材|木部/センノキ、脚部/スチール、火袋/紙張り、ライト/電池式LED(単3電池2本)

家族や親族が集まる日、門前灯として玄関に吊るす際には、スチールの脚をマグネットで簡単に取り外し可能。シンプルで合理的な構造も、使い続けたくなる魅力のひとつ

+αの機能性まで考えられた
デザイナーズ盆提灯

「TSUDOI」
取り外し可能な吊り手で、上下を逆にして置き吊り両用で使えるモデル。ワイヤーのテンションで形状を保つという清水さんのアイデアに、提灯メーカーも驚いたそう

盆提灯
価格|1万2100円
サイズ|φ195× H320㎜(置き型)、H465㎜(吊り型)
素材|木部/ムクゲ(外側)、合板(内側) フレーム/鉄線、ピンクゴールドメッキ加工 、火袋/和紙 ライト/電池式 LED(単4電池2本)

「AKASHI」
2020年に発売された、盆提灯のファーストモデル。ソリッドの木材を台座に使用し、“提灯感”を抑えたナチュラルな風合い。雲手(取っ手)は繊細な真鍮のラインで表現

盆提灯
価格|9900円
サイズ|W123× D98×H293㎜
素材|火袋/紙張り、台座木部/オーク材、ライト/電池式 LED(単4電池2本)

本棚やデスクにも馴染む、インテリアになる仏壇

「HAJIME」
シリーズ第1作となる、オープンタイプの小型仏壇。室内での採光を考え、天板の奥行きを抑えたデザインに。背板のファブリックは5色から選べるほか、持ち込みの生地を張る特注にも対応

小型仏壇(半月型の仏様用の台付き)
価格|4万9500円
サイズ|W346×D150×H350㎜
素材|タモ、ウォールナット

「OMOKAGE」
LEDの光源を手前に配置し、さらに上部にルーバーを設けることで柔らかな照明を実現。開いた扉は左右の戸袋にすっぽり収まるため、すぐ横に壁がある場所にも設置できるのがうれしい

置き型仏壇
価格|14万8500円
サイズ|W450×D257×H540㎜
素材|タモ or ウォールナット

ひとつとして同じものがない
無垢の木の位牌

「KATACHI」
角を丸めない洗練されたフォルムが新鮮。無垢材の温かな風合いを、ジョイント部分の箔がキリリと引き締める。ウォールナット材には金、メープル材には銀のジョイントを使用

位牌
価格|2万9700円
サイズ|W76×D45×H162㎜
素材|メープル or ウォールナット

若林佛具製作所 本店
住所|京都府京都市下京区七条通新町東入
Tel|075-371-3131 
営業時間|9:00〜18:00 
定休日|水曜
www.wakabayashi.co.jp

text: Aya Honjo photo: Katsuo Takashima
Discover Japan 2022年12月号「一生ものこそエシカル。」

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