「GEM by moto」千葉麻里絵さんの「この夏、この冷酒」〜仙禽 ナチュールアン~。
名店の店主が語りたい1本
恵比寿に店を構える日本酒バー「GEM by moto」。その店主を務めているのが、日本酒業界でも一目置かれている千葉麻里絵さんだ。千葉さんにとって「仙禽」は、日本酒と料理のペアリングを考える今の自分につながっているお酒だと言う。そんな彼女が「仙禽」の魅力について語る。
以前働いていた「日本酒スタンド酛」で、冬にはじめて「仙禽」を飲み、翌年の夏になんとなく同じ銘柄を飲んだんです。そのとき、一升瓶を開けたら王冠がパァーン! て飛んでびっくりして。
同じお酒なのにガス感が違ったから、何を思ったのか蔵に直接電話したんです。まだ何も日本酒のことを知らなかったから「これ同じお酒ですか?」って(笑)。その電話に偶然出たのが現蔵元の薄井一樹さん。いろいろお話してSNSで私のことを知ってくれていたみたいで、後日、蔵見学に行くことになったんです。
直接お話して感じたほかとの違いは〝甘酸っぱさ〟を大事にしていること。当時誰も言ってなかったマリアージュの話をされて、「昔と違っていまは食卓にマヨネーズやドレッシングが普通にあって、フレンチやイタリアンもカジュアルに食べられている時代だから、〝酸〟は食卓に欠かせない」という話に目から鱗が落ちました。そこから料理と日本酒の合わせ方を意識しはじめたので、「仙禽」はいまの自分につながる新しい気づきを与えてくれたお酒なんです。
その「仙禽」の酸の魅力は、たとえば冷酒ならクエン酸系、燗酒なら乳酸系等、温度帯でニュアンスが変わるところ。ハーブや果物、ダークチョコレート、チーズなどと相性がいいのもおもしろい。
その中で3年前からはじまったのが「オーガニックナチュール」シリーズ。90%精米の亀の尾を蔵付き酵母で醸した生酛なので、昔の酒造りに近いスペックなのですが、それをモダンなスタイルで表現している。エレガントな香りがあって、完熟した桃のようなフルーティな味の余韻が響き、飲み心地もいい。
お店では、ジューシーなニュアンスになる冷酒なら、フルーティさで同調させて季節の果物の白和え、燗酒ならミントたっぷりの鶏肉のバターソテー等と合わせるのをおすすめしています。
その豊かな味わいだけではなく、このお酒がすごいのは、真摯に微生物と向き合っているところ。精米歩合90%でほとんど磨いていないので、発酵力が強くなり、緻密に温度管理しないとすぐ辛口になる。さらに生酛なので、乳酸菌に寄り添いながら蔵付き酵母がくるまで待たないといけない。
もっと簡単に日本酒造りができる技術があるにもかかわらず、古から紡がれている蔵付き酵母でクラシックな酒造りをされている姿勢が本当に素晴らしいと思います。それは昔の人へのリスペクトがあるからこそ。ただ美味しいだけじゃなく、酒造りで大切な〝温故知新〟の物語が体感できるんです。
自分の中で、理屈じゃなく「美味しいという感覚が走る」日本酒の代表ですね。
文=藤谷良介 写真=上樂博之
2019年1月号 特集「風土を醸す酒」
「仙禽 ナチュールアン」
店頭価格:900円/80㎖
原料米:亀の尾
精米歩合:90%
使用酵母:蔵付き酵母
製造区分:純米酒
アルコール度数:14度
問:せんきん
Tel:028-681-0011
1|仙禽 ナチュールアン -「GEM by moto」千葉麻里絵さん
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