京都人、馴染みの店のあの、ひとしな
京都で生まれ育った、生粋の京男・京女がいつも通っている美味しい店って、どんなところ? のぞいてみたい……そんな私たちのワガママな願いをかなえるべく、各界で活躍中の京都人の皆さんに、こっそり教えてもらいました。
【教えてくれた皆さん】
葵太夫さん(写真)
2歳半で太夫の世話をする禿(かむろ)、12歳で太夫の見習いの振袖太夫に。タレントや地下アイドルの活動のかたわら修業を続け、2014年母の司太夫が嶋原に開いた置屋「末廣屋」からデビュー。
畑 元章さん
10歳で祇園祭長刀鉾稚児に。創業300余年の「香老舗 松栄堂」専務取締役として、本店新装や香文化発信拠点「薫習館」立ち上げも。
稲岡亜里子さん
創業550年超の蕎麦老舗「本家尾張屋」16代目当主。1999年にNYの美術大学を卒業後、写真家に。2011年に帰国し家業も継ぐ。
原田 雅史さん
1934年創業、ウインナーコーヒーが名物の純喫茶「築地」の3代目店主。初代の祖父がデザインした調度品に囲まれた、クラシカルな店を2001年から担う。
葵太夫さんの馴染みの店乙文(おとぶん)「お昼ごはん」
公家や大名がかつては足繁く通ったという花街・嶋原。ここで幼い頃からお座敷を務める葵太夫に案内してもらったのは、嶋原大門近くに佇む「乙文」。嶋原のお茶屋への仕出しを一手に担う会席料理店だ。
「子どもの頃から家族ぐるみで仲ようしてもうてて。娘さんは一緒に禿もしてたんです」
そんな葵太夫の一番のお気に入りは「お昼ごはん」。会席の品々が少しずつ集うような、目にも美しい膳には、折々の旬の魚や野菜が丁寧な仕事を施され、盛り込まれている。創業は1946年頃。寿司の名店「乙羽」より独立した初代から引き継ぐ昔ながらの手づくりで、添加物は一切使わず素材の滋味を引き出す。
「どれを食べても、ほんまに美味しい」
嶋原をはじめ市内各地へ仕出し料理を届けるかたわら、近年は屋形にも積極的にお客を迎えているそう。2階には落ち着いた座敷があり、宴会もできる。
「お連れすると皆『また来たい』て。味がいいのはもちろん、女将さんのお人柄やと思うんどすけど、空気があったかくて。毎年お座敷をしてくれはる方に紹介したら、えらい気に入りはって『夏はここ!』と言うてはります(笑)」
花街で90余年、信頼を得てきた店に母・司太夫も太鼓判。親子二代で、心から寛げる一軒なのだ。
【DATA】
乙文(おとぶん)
住所:京都市下京区花屋町通壬生西入ル薬園町158
Tel:075-351-2792(要予約)
営業時間:11:00〜19:00(L.O.)
定休日:水曜・第3木曜
畑 元章さんの馴染みの店Bistro l'est「自家製ソーセージ 盛り合わせ」
ああ、また食べたいなと思う一番の店、と畑さんが語るのは、岡崎近くのビストロ レスト。オーナーシェフ・萬木卓也さんの味に出合ったのは約5年前。
「寺町二条にあった前のお店を教えてくれたのは、当時交際中だった妻でした。移転後も、家族や親しい友人と来ています」。香老舗を担う立場柄、会食の機会が多い畑さんだが「お酒が飲めないせいかもしれませんが、美味しいフレンチって少年マンガ誌みたいにパンチあるな! という店が多い気が。でもこちらは心地よいエッセイのようで、脂や香草の量、塩気もちょうどよく、居心地・味・リズムともに揃ってるんですよね」。
アラカルトの中から、畑さんがほぼ毎回メインに選ぶのが「自家製ソーセージ」だ。
「数種から3つ選ぶのですが鹿肉があれば必ず。クリスマスの時のトリュフ入りも美味しかった」
鹿は岡山・美作の猟師が仕留めたものを、約4日かけて萬木さんが加工する。中でも子鹿の肉は軟らかく、この日も畑さんは極上の味に満面の笑み。「子鹿のロース肉のローストもいいですよ」と言う萬木さんは、シャルキュトリー(食肉加工)に力を注ぎたく2016年に移転オープンした。
「妻の誕生日には子どもも一緒だったので個室を使わせてもらい、アラカルトをいろいろシェア。毎回皆大満足です」
【DATA】
ビストロ レスト
住所:京都市左京区東門前町503-4
Tel:075-771-8894
営業時間:15:00〜22:00(L.O.21:00)
定休日:月曜(祝日の場合は火曜)
稲岡亜里子さんの馴染みの店 Farmoon「野菜料理」
蕎麦老舗を率いつつ、世界を舞台に写真家としても活躍する稲岡さんが教えてくれたのは、銀閣寺近くの住宅街に佇む「ファームーン」。友人でもある料理家・船越雅代さんのオープンスタジオで、昼はカフェ、夜は紹介制のプライベートレストランとなる。夜のメニューは、ゲストの好みに応じて組み立てていくという。この日は、野菜好きの稲岡さんのために、賀茂ナスや園部トマトなど、京都近郊で栽培された自然農法の野菜を使ったひと皿が供された。
「彼女は、その日の食材を最大限に生かした調理や味つけをするので、同じ料理は二度とない。だから、好きなメニューはこれ! とは言えないけれど、いつ何を食べても、かつて旅した場所の記憶につながるんです。今日の野菜のグリルは中東やイタリア、ソースは台湾を思い出します」
船越さんは彫刻を学びに渡米後、料理の世界に転身。海外を転々としながら腕を磨き、レストラン立ち上げのために京都にやってきた。その後独立し、ここを2018年5月にオープンした。
「彼女の経験から生み出される料理は、芸術作品。その発想や感性に、同じアーティストとして刺激を受けることも多い。新しい何かに出合えて、世界を感じることができる、私にとっての唯一の場所です」
【DATA】
Farmoon(ファームーン)
住所:京都市左京区北白川東久保田町9
Tel:非公開
営業時間:12:00〜17:00(L.O.16:30)夜は紹介制
定休日:月〜水曜
www.instagram.com/farmoon_kyoto
原田 雅史さんの馴染みの店 H du Pont「イカ墨のパエリア」
その店は、先斗町通に佇む雑居ビルの奥にあった。
「京都は裏に入ればいい店がある。子どもが生まれてから行けてないけど、多いときは週1で、店を閉めてから行っては深夜まで」
喫茶店主・原田さんの20年来のなじみの店は地中海料理の「アッシュ デュ ポント」。ドアを開ければ、酒瓶がずらりと並ぶバー風のカウンターが迎えてくれる。店主の明石泰典さんはかつて雑貨買い付けの仕事でたびたび渡航。フランス、スペイン、イタリア、ポルトガルなど地中海沿岸を食べ歩いて1995年に創業した。「酒好きで、この素晴らしいワインに合う料理は? と考えはじめたのが原点です」と明石さん。
同じく酒好きの原田さんがまず頼むのは、テキーラサンライズ。
「のどが渇いているからくーっと。カクテルにはフレッシュな果物を搾って入れてくれます」
そしていち押しのメニューは「イカ墨のパエリア」だ。「アスファルトみたいに真っ黒だけど、これが美味しい! イカ墨特有の臭みは全然ない」。細かく刻むことでしみ出す魚介の旨みとスパイスがほどよく溶け合う味は、明石さんの現地での研究の賜物とか。
「ほぼ一人で調理してサーブ、話しかけたらいくらでも喋ってくれる明石さん。好きなようにやってはる感じも心地よくて、店にはその人柄が満ちあふれています」
原田さんの店「築地」も表通りからやはり一本入った路地にある。同じ匂いを感じてか、いまは子育てで忙しい原田さんに代わり、スタッフが足繁く通っているそうだ。
【DATA】
H du Pont(アッシュ デュ ポント)
住所:京都市中京区先斗町通三条下ルA橋下町133-1 エメラルド会館1F
Tel:075-255-4577
営業時間:18:00〜翌2:00
定休日:火曜、月1回水曜休
この記事は2019年3月30日に発売したDiscover Japan『プレミアム京都 2019』の記事を一部抜粋して掲載しています。
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