中国ラグの専門店「MUNI南青山本店」
大熊健郎の東京名店探訪
「CLASKA Gallery & Shop “DO”」の大熊健郎さんが東京にある名店を訪ねる《東京名店探訪》。今回はクラシカルチャイニーズラグの製法を甦らせ、現代にアップデートしながら継承する「MUNI南青山本店」を訪れました。
大熊健郎(おおくま・たけお)
「CLASKA Gallery&Shop “Do”」 ディレクター。国内外、有名無名問わずのもの好き、店好き、買い物好き。インテリアショップ「イデー」のバイヤー&商品企画、「翼の王国」編集部を経て現職。
www.claska.com
畳や床に直接座る生活を長く育んできた日本人にとって椅子の生活や家具に囲まれて暮らすのが普通になったのは実はここ半世紀程度の話。それがお隣中国となると話は違う。明時代の中国家具の質の高さは世界的なものだったし、12、3世紀には椅子の生活がすでに一般的だったという。
ルネサンス以降、中国陶磁器が西欧の人々を魅了していたことはよく知られているが、西欧的な空間やしつらえに東洋の家具や調度を取り入れ、折衷させた室内装飾の在り方は、いまもヨーロッパの趣味人たちに脈々と受け継がれている。
その調度品のひとつに中国のじゅうたん、中でも明朝末期から清朝初期(17〜18世紀)に宮廷への献上品として製織され、今日クラシカルチャイニーズラグと呼ばれる逸品がある。あのココ・シャネルも自宅リビングで愛用していたというその幻のラグに魅了され、復元に挑んだ日本人がいる。
MUNIの代表を務める楠戸謙二さんが香港ではじめてクラシカルチャイニーズラグに出合ったのは1980年代。その魅力に取りつかれた楠戸さんはなんとその復元を決意。紆余曲折を経ながらも楠戸さんの志に共感したパートナー・張力新さんとの出会いもあり、’89年ついに幻のラグ復興プロジェクトがスタートした。
楠戸さんがこだわったのはあくまでもクラシカルチャイニーズラグがつくられた当時のやり方で復元を目指すこと。昔の文献や資料にあたることはもちろん、ラグをコレクションするメトロポリタン美術館や国立故宮博物院等の協力も得ながら徹底的にリサーチした。
素材となるウールは最高品質の寧夏産・灘羊の毛を使う。ストレートで繊維が長くカシミヤ並みの光沢と肌触りを生む。それを手紡ぎで糸にし、植物染料のみで染め上げ、さらに手結びで織り上げる。こうして堅牢かつしなやかで最高のじゅうたんが出来上がる。実際に小さなものでも製作に8カ月はかかるという。製作はすべて中国の甘粛省にあるMUNI CARPETSの工房「漢氈居」で行う。
南青山にあるギャラリーで実際にじゅうたんを体感させてもらった。オリジナルを忠実に再現したものから、より現代性を融合させたラインなどデザインもさまざまだが、共通するのはひと目でその上質感が伝わってくること。とりわけ目を引いたラグがある。
自然発酵させた藍で染めたもので、藍色の深みが美しく、ベルベットのような光沢と触感だった。新品だとばかり思っていたら20年使用したものだと聞いて驚いた。楠戸さんいわく「本当の魅力が出てくるのはまだまだこれからです」。世代を超えて受け継がれる銘品とはこういうものをいうのだろう。
MUNI南青山本店
住所|東京都港区南青山4-1-15 ベルテ南青山102
Tel|03-5414-1362
営業時間|10:00〜18:00
定休日|火曜
www.muni.co.jp
photo : Atsushi Yamahira
2019年7月号 特集「うまいビールはどこにある?」