青森《弘前れんが倉庫美術館》
地域の発展を伝える美術館
|体験できる近現代名建築
既存の建築を生かしつつ、用途を変化させて活用する「コンバージョン」。育まれてきた歴史と現在の営みが重なる空間に滞在することで、その地域の風土に出合う。そんな建築の再生・活用事例を建築史家の倉方俊輔さん監修のもとご紹介。今回は、青森県にある「弘前れんが倉庫美術館」を紐解いていく。
建築家・田根剛氏の改修で美術館へ

日本酒工場、シードル工場、倉庫として活用されていたこの建物。内部の壁には、防虫・防腐効果のある「コールタール」という液体が塗られていたり、貯水タンクや古い階段が残っていたりと、当時の面影も残っている
photo: Masayuki Hasegawa
青森県弘前市、土淵川沿いに赤煉瓦の建物が連なる一画がある。「弘前れんが倉庫美術館」は、1907(明治40)年から1923(大正12)年に建てられた煉瓦造の建物を活用し、美術館として再生した施設。リンゴの町として知られる弘前にあり、酒やシードルの醸造に使われてきた煉瓦建築が街に残されてきた経緯を、素材の存在感そのものによって示している。
改修は、パリを拠点に活動する建築家・田根剛氏が担った。場所に蓄積された使われ方や痕跡を出発点に建築を組み立てる姿勢は、この計画でも軸になった。既存の煉瓦造がもつ輪郭や質感を読み取り、現代の美術館に必要な動線や滞在のための場が新たに設置された。

外観でまず目を引くのが、屋根の更新だ。老朽化していた屋根はチタン製の菱葺屋根へと置き換えられ、「シードル・ゴールド」と名づけられた色調が、天候や光の変化に応じて表情を変える。煉瓦の重量感の上に、光を反射する屋根が加わり、異なる時代の要素が重なって見える。
改修の意図が最も明確に表れているのが、新規に追加された入り口。煉瓦を互い違いに積み、上部をアーチ状にまとめた構えは、田根氏が「弘前積みレンガ工法」と名づけた独自のディテールだ。雪や雨の多い地域の条件を踏まえつつ、煉瓦という素材を使って、来館者を迎え入れるための新しい入り口のかたちがつくられた。

使用されている煉瓦やその積み方にも注目したい。建設当初のものから、増改築によって使用された新しいものまで、焼きムラを調整したり、積み方を不揃いにしたり……。新旧の煉瓦が調和する工夫が施されている
Photo: Kuniya Oyamada
内部では、倉庫が備えていた大きな空間が、そのまま展示体験のベースとなり、作品のサイズや設置方法に幅をもたせている。展示室は均質に整えられることなく、コールタールを塗った壁など、煉瓦倉庫がもっていた表情を残した仕上げが用いられている。鑑賞者は、作品を見ると同時に、建物が積み重ねてきた使われ方の痕跡を感じながら館内をめぐる。
展示室だけではなくカフェやスタジオも

展示室、スタジオ、ライブラリー、カフェなどを擁する美術館に生まれ変わった。ライブラリー部分の天井には、一面に木造の小屋組みが。建物を未来につないでいくため、部分的に梁の入れ替え・補強なども行っている
Photo: Kuniya Oyamada
美術館の機能は展示室に限らない。市民ギャラリーやスタジオといった市民活動のための場が重ねられ、カフェやミュージアムショップが設けられている。こうした構成によって、かつて醸造所として使われていた建物は、鑑賞のためだけでなく、人が集い、滞在する場所として街に開かれている。
弘前れんが倉庫美術館は、煉瓦倉庫として使われてきた建物を、現代美術の場として読み替えることで、街の中での役割を広げている。田根氏の改修が示したのは、過去の姿をそのまま残すことではなく、蓄積された素材や構成を手掛かりに、新しい公共での使われ方を組み立てる方法だった。赤煉瓦の量感、新しい積み方、光を受ける屋根、空間ごとに異なる内装。それらをたどりながら歩くことで、訪れる人は、弘前という街が積み重ねてきた時間を、建築の中で経験することになる。
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〈概要〉
青森県弘前市出身の実業家で、醸造家の福島藤助が建設した煉瓦建築。酒や日本初のシードルの醸造を行った後、美術館として生まれ変わった。
〈建築データ〉
竣工年|1923年
改修年|2020年
設計|不詳
改修|田根 剛
構造形式|煉瓦造、鉄骨小屋組
〈施設データ〉
住所|青森県弘前市吉野町2-1
Tel|0172-32-8950
開館時間|9:00~17:00(12〜3月は9:30〜)
休館日|火曜(祝日の場合は翌日休)、年末年始
料金|展覧会ごとに異なる
hirosaki-moca.jp
text: katakura shunsuke
2026年3月号「訪ねる建築 暮らす建築」



































