《五ツ星お米マイスター》が厳選 2024年度、食べておきたい新米!【後編】
米の最前線で活躍し、あらゆる銘柄を知り尽くした「五ツ星お米マイスター」の4人が、2024年食べたい新米を厳選!
全国各地の生産者とコミュニケーションを取り、米の“いま”をキャッチしながら消費者に発信するエキスパートたちが食文化としての米の魅力について熱く語り合った。注目の米や現代の多種多様な米文化とは?
王道から稀少銘柄まで、注目の米とは?
――2024年度産で注目している米を教えてください。
小池 まず、おすすめしたいのが岐阜の「銀の朏(みかづき)」。「いのちの壱」という品種なのですが、粒が大きく、鮮烈な旨みが体感できます。今年は日中と夜の温度差が大きく、米が夜にしっかり登熟※1できたようなので、昨年よりさらに美味しくなっていますね。
片山 さすが、いきなりマニアックですね(笑)。
小池 あと、玄米ですが、茨城の「カミアカリ」。巨大胚芽米で、今年は粒に張りがあって去年より出来がいい。玄米を食べているとは思えないサクサクとした食感も魅力です。また、うちでリピーターが多いのは高知の「にこまる」。本山町という標高の高いところで稲に負担をかけずきれいな水で育てられていて、コクがあり旨みが舌に残る上質な米です。噛み続けると、じんわり旨みが広がる岡山の「朝日」も今年はいいですね。コシヒカリより歴史の長い米で、無農薬栽培で育てられています。
※1 登熟……穀物の種子が次第に発育、成熟すること。
澁谷 私が今年推したいのは栃木の「とちぎの星」。ぷっくり丸いフォルムが特長で、暑さにも寒さにも強い〝鈍感力のある米〟といわれています。今年は素晴らしい出来映えで、甘みと旨みのバランスがよく、噛むと弾力のあるもっちり感が楽しく、お米一粒ひと粒に存在感があります。
小林 懐が深い米ですよね。鯛茶漬けで食べたらすごく美味しかった。
澁谷 そう、汁気と相性がよいです。あと、新潟の新ブランド米「新之助」は、2017年のデビューから毎年食べてきた中で今年が一番美味しかった。まず粒感が強く、口当たりは上品でなめらか。噛むと濃厚な旨みがほとばしります。細長くシャープな炊き上がりが美しく〝炊き映え〟するのも魅力。生産者は長岡の農家の方なのですが、温暖化で収量が減っている現状にもめげずに、最高の米を届けてくれたことに感銘を受けました。
片山 私は、収量が多く広域的に販売されているゼネラルブランドの米を推薦したいです。中でも今年、印象に残っているのは、まず福島・会津の「コシヒカリ」。昼と夜の温度差がしっかりとあり、歯応えとほどよい粘りのあるコシヒカリらしい特長が引き出されていました。あと、宮城の「ひとめぼれ」もよかった。宮城は本来「山背」という冷たい親潮の風が入ってくる冷害対策地域だったのですが、今年は温暖化でそれもなく、台風も通らなかったので、甘み、旨み、食感ともに、とてもバランスのよい米に仕上がっています。同じ東北の秋田の「サキホコレ」も高温による影響も少なく、出来がよかったです。
小林 高温耐性のために愛知の品種と掛け合わせた米ですよね。「あきたこまち」のようなふっくら感がある。
片山 そこが実に秋田らしいですよね。生産者が限定された特別栽培米で、今年はそのスペックが楽しめる仕上がりになっています。
澁谷 東北なら山形の「雪若丸」も見逃せないです。大きく弾力があって、食べて楽しい米。旨みは強いですが、甘みは際立っていないので味の濃いおかずにも合う。
片山 「つや姫」に並ぶ山形の特別栽培米ですね。あと、最後に挙げたいのが北海道の「ゆめぴりか」。今年は独特の甘みと旨みのポテンシャルが最も引き出されているので、まさに当たり年です。
小林 僕が今年の新米で印象に残っているのは、「コシヒカリ」発祥の地である福井県の農業試験場で生まれた「いちほまれ」。極めてバランスのよい米で、甘さの出方が上品。今年は高温障害を比較的受けなかったので、特に粒の張りと甘み、旨みが十二分に引き出されています。あと、意外なエリアでいうと愛媛の「ひめの凜」。昨年、はじめて食べましたが、大粒で軟らかく、張りがあって噛んだときに甘みがドンッとくる。昨年まで玄米の県外流通がなかったのですが、県庁に掛け合って今年は流通するようになりました。もともと高温耐性米として開発されたので、今年も間違いなく美味しい。米は早く成長するものが「早生(わせ)」、遅いものが「晩生(おくて)」、その中間が「中生(なかて)」で、皆さんそうだと思いますが、中生、晩生が美味しくないですか?
小池 確かに中生、晩生のほうが比較的、味がしっかりのって個性の違いがわかりやすいですね。
――そういった米の個性を引き出す炊飯方法はあるのでしょうか?
片山 炊飯器は、大きく分けてマイコン、IH、圧力IHの3種類。その中でマイコンは、原則的に下からしか火が入らないベーシックな炊飯方法で最もニュートラルに炊けるので、ストレートに米の特徴が出ます。味の違いを試したいときはおすすめです。
現代は多種多彩な米が味わえる新時代!
――米業界の最前線から見て、今後日本の米文化はどうなっていくと感じていますか?
小池 生産地は危機的状況です。農家の高齢化、跡継ぎ問題で余裕がない中、今年の米騒動が起こるなど、とにかく疲弊しています。
澁谷 米はいつでも手に入るので無関心な方が多いのですが、災害時は食糧の中で一番注目を集めます。その興味を普段からもっていただけるように、魅力を発信していくのが私たちの役目。いま、都市部でおにぎり専門店が増えていますし、いまはこれだけ多種多彩な美味しい米があるので、未知の味を楽しんでほしいです。
片山 私も食糧としていつでも買える〝主食〟の米と〝嗜好品〟としての米を分けてとらえると食体験がより豊かになると思います。
小池 確かに我々専門店が嗜好品として楽しむ層の裾野を広げると、文化として底上げされますね。
片山 そのためには食育も大事なので、うちの新店舗の隣にワークショップスペースをつくって、小学校低学年の子どもが自分でおにぎりを握るイベントなどを開催しています。アメリカでマクドナルドがおもちゃで子どもの心をつかみ、何世代も受け継がれる食文化をつくったように、子どもが楽しめる〝米のマクドナルド化大作戦〟をはじめています。
小林 素晴らしいです。そもそもいま、米って高いといわれていますが、平均的な米を一食で換算すると菓子パンよりも安い。しかもどんどんおもしろい品種が出ている。それだけでわくわくしますよね。最終的に未来の食文化を守ることにつながるその行動で享受できるのが「美味しい」って本当に幸せなことだと思うので、楽しみながら食べていきましょう!
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text: Discover Japan
Discover Japan 2024年12月号「米と魚」