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現代の暮らしを彩る《今昔民藝品たち》
愛され続ける秘密は、
世界に誇る技術力とアレンジ力にあり

2023.8.6
現代の暮らしを彩る《今昔民藝品たち》<br><small>愛され続ける秘密は、<br>世界に誇る技術力とアレンジ力にあり</small>

「現代のつくり手が、古いものから刺激を受け、自分なりの解釈でリデザインしたものはどこか輝いています。消えつつある道具も、これなら残していける、という願いを込めて選びました」。

民藝をこよなく愛する蒐集家の郷古隆洋さんが厳選した、古いもののどっしりとした佇まいと、現代の生活に馴染むよう軽やかに進化した現行品の美しさをご覧あれ。

Swimsuit Department 代表
郷古隆洋(ごうこ・たかひろ)さん

蒐集家。アパレル業界を経て、2010年に「Swimsuit Department」を設立。国内外から集めた雑貨を販売する「BATHHOUSE(バスハウス)」を東京、名古屋、福岡で運営。店舗のインテリアコーディネートなども手掛ける

高い技術を要する芸術的な模様を
日常の食卓で楽しみたい

いずれも掛谷さんの手掛けたうつわ。色の異なる粘土の合わせ方で、こんなにも豊かな表情が。外側と内側の模様が同じで、時を重ねるごとに味わいが深まっていく

濱田庄司ら民藝運動家たちも惚れ込んだ、名工・武内晴二郎のうつわ。戦争で左腕を失った武内は、型物を中心に重厚でモダンな作品を生み出した。異なる色の粘土を、金太郎あめのように組み合わせていく「練り上げ」は、高い技術を要する。岡山・大原美術館の初代館長・武内潔真(きよみ)の息子という境遇で、いいものをたくさん見てきたことで美的センスも超一級。練り上げの制作に取り組んでいた掛谷康樹さんは、そんな武内のうつわに衝撃を受けたという。掛谷さんの作品は、高価な美術品ではなく、日常の食卓で使えるうつわが中心。「練り上げの魅力は柄の出し方と、その技術ですね。どんな作業をしたら、縄をなったような柄やニットのような模様になるのか」と郷古さん。手を動かす中で見つけた模様を組み合わせているという掛谷さんのセンスが光る

[classic]
武内晴二郎の「うつわ」
参考価格|22万円(※)
サイズ|W175×D175×H90㎜

[new]
掛谷康樹の「うつわ」
参考価格|1万1000円(※)
サイズ|φ130×H68㎜
問い合わせ|べにや民芸店
Tel|03-5875-3261

伝統という制約の中でこそ生きる、遊び心の妙

400年以上の歴史がある大分の小鹿田焼。集落の中を川が流れ、その水を利用して陶土を砕く唐臼の音がコトンと響き渡るこの里が大好きだと郷古さん。もともと大きな甕や壺をつくる窯場だが、現在は10軒の窯元がその技を受け継ぎ、陶器を制作。「飛び鉋(かんな)や刷毛目といった特徴的な装飾と、雑器の間にある感じが魅力です。古小鹿田焼は、骨太さとなんとも言えない色合いがいい。茂木さんは、そこに櫛(くし)描きを加えて絵付けに工夫をされています。柄の組み合わせは男性的なカスタム感があって格好いいんです。創さんは、白い釉薬を点のように落として櫛描きを施している。伝統的な技法を用いながら自分なりの作風を築いています」

[classic]1940年代
古小鹿田焼の「大皿」
価格|2万2000円
サイズ|φ402×H93㎜
問い合わせ|スイムスーツ・デパートメント
Tel|03-6804-6288

[classic]1970年代
坂本茂木の「大皿」
価格|4万1800円
サイズ|φ385×H71㎜
問い合わせ|スイムスーツ・デパートメント
Tel|03-6804-6288

[new]
坂本創の「大皿」
参考価格|1万1000円(※)
サイズ|φ302×H70㎜
問い合わせ|坂本工窯
Tel|0973-29-2404

季節を感じ、壁を飾るための家具をより軽やかに

民藝家具の中でも吊り棚はユニークな存在。意匠は多様で側面が波のようなかたちだったり、装飾が凝っていたり。現代、壁に掛ける家具はハードルが高いが、そこを乗り越えてほしいと郷古さん。「目に入るところに好きなものを置くと、生活が劇的に変わります。季節で花を替えたり、夏はガラス、冬は温かみのある木や漆のうつわを飾るもよし」。夫婦で営む工房「ヨネモノ」の吊り棚は、あえて主張をしないことで、どんな部屋にも馴染む

[classic]
松本民芸家具の「吊り棚」
価格|8万8000円 
サイズ|W580×D180×H730㎜
問い合わせ|スイムスーツ・デパートメント
Tel|03-6804-6288

[new]
ヨネモノの「吊り棚」
価格|7万1500円
サイズ|W680×D155×H880㎜
問い合わせ|ヨネモノ
Tel|090-7127-6452

メールの時代だからこそ手紙の文化も大切

状差しとは、すなわち手紙入れのこと。「書斎に漆塗りの状差しがあって、そこに封筒が挿さっている風景はいいなと思う。道具としても美しいですよね。その用途も含めて選びました。我が家では子どもの保育園からの便りを入れていますが、意外と目につくので重宝しています」。立山連峰のふもとにある「KAKI CABINET MAKER」では針葉樹を用いたボックスを製作。クラシックな雰囲気を残しつつ、カジュアルダウンした感じがいい

[classic]
民藝家具の「状差し」
価格|右4万4000円、左5万5000円
サイズ|右W152×D70×H265㎜、左W135×D89×H520㎜
問い合わせ|スイムスーツ・デパートメント
Tel|03-6804-6288

[new]
KAKI CABINET MAKERの「ウォールボックス」
価格|各8250円
サイズ|右W260×D100×H260㎜、左W140×D125×H300㎜
問い合わせ|KAKI CABINET MAKER 
Tel|076-482-1433

古典的な染色の技と紙箱のワクワクする出合い

型染作家の名取敏雄さんは、染色工芸家・芹沢銈介の弟子の一人。日本の伝統的な染色技法のひとつである「型染」で布や紙に表現している。これは紙粘土で箱をつくり、型染めした紙を貼り付けた箱。「独特な色の切り替えが特徴で、箱がこんなに楽しくなるのか、と思えるほど存在感がすごい。そこそこの厚みがあり、和紙の質感や角のカーブの具合も絶妙です。大切な手紙や気に入ったものをしまっておけるという箱の魅力もありますね」

[new]
名取敏雄の「型染箱」
参考価格|(右)大5万5000円、(左)小2万2000円(※)
サイズ|大W190×D110×H121㎜、小W135×D81×H74㎜
問い合わせ|べにや民芸店 
Tel|03-5875-3261
(型染箱の販売は数年に一度の展示会のみ)

日本民藝館に現存する
かつての革製の火消服が原型

倉敷のガラス作家・石川昌浩さんがライフスタイルブランド「LATHE」に依頼し、仕立てられた革のはんてん。「西洋人が半纏を具現化したらどうか」という観点でつくられている。「消防の現場で革のはんてんというのは、火や熱に強い革の性質を考えれば納得です。かつての火消しのはんてんや組の旗印である纏(まとい)には、各組ごとに紋のような模様が入っていて、それがハッとするくらい格好いい。祭りで着る法被にも通じます」

[new]
山内武志の「型染め暖簾」
価格|4万8400円 
サイズ|W780×D1420㎜
問い合わせ|スイムスーツ・デパートメント
Tel|03-6804-6288

文様を身近に取り入れる“自宅暖簾”のススメ

暖簾が商家の軒先に吊るされ、家紋など独自の意匠を入れるようになったのは室町時代から。後に多様に発展することになるのだが、暖簾こそ自宅での使用がおすすめだと郷古さん。「アトリエぬいや」の山内武志さんも芹沢銈介に師事した一人。普遍的なモチーフをモダンにあしらった作品からは遊び心が感じられる。「バスルームや寝室に暖簾を掛けるだけで、戸を開けていても中は見えません。風が抜け、風になびく姿も美しいのです」

[new]
LATHEの「米式革半纏」
価格|55万円
サイズ|横幅1500×着丈1000㎜
問い合わせ|LATHE
Instagram|@lathegrindfacekahueandou

<国を越えて受け継がれる民藝の文化>

おおらかさや、いい意味で粗さをもつメキシコやアジアの暮らしの道具。そこに日本人のつくり手の感性が加わることで、日本の民藝は何十年も前から、独特の世界観を広げていった。

大胆なメキシコ民藝に品のよさが加わる
円や三角に抜いた鉄板を筒状に整形し、中からガラスを吹いた「鉄枠ガラス」。穴から膨らんだガラスがなんとも愛らしい。古いメキシコのガラス工芸をリキュール瓶に落とし込むのは、広島・生口(いくち)島に工房を構える西川孝次さんだ。「西川さんはガラスが吹けるだけではなく、金属の加工もできるというのが特徴。メキシコや沖縄のガラス同様、おおらかな雰囲気に加えて、綿密な仕事からにじみ出る品のよさを兼ね備えています」

[classic]
メキシコの「鉄枠ガラス」
参考価格|グリーン1万1000円、ブルー8800円(※)
サイズ|グリーンφ60×H97㎜、ブルーφ73×H89㎜

[new]
西川孝次の「リキュール瓶」
参考価格|各3万5000円(※)
サイズ|グリーンφ70×H123㎜、ブルーφ58×H124㎜
問い合わせ|工芸喜頓
Tel|03-6805-3737

古いかたちや技法が混ざり、何風でもない独自の世界に
「岩井窯の山本教行(のりゆき)さんは、日本だけではなく世界各国の古いものの引き出しを頭の中にお持ちです。山本さんの手にかかれば、新しいものが生まれ、まさに民藝が時代に合わせて変化してきたことを物語っているのだと思います。」こちらは台湾の木製の水くみ桶を参考にした鉢

[new]
岩井窯の「白掛線描赤絵手付鉢」
参考価格|11万円(※)
サイズ|W280×D240×H90㎜
問い合わせ|クラフト館 岩井窯
Tel|0857-73-0339

韓国でも少なくなった美しいスッカラを日本の技で
「僕はカツカレーにはスッカラが一番と思っています。カツを切るのに便利だから。新潟・燕市の大橋保隆さんのスプーンはスッカラのような見た目ですが、柄の継ぎ目やオーバルのかたちなどがいま風でおもしろい」。韓国のかつてのスッカラは、ジャガイモの皮がむけるくらい薄い。その美しさが、約200年続く新潟の鎚起(ついき)銅器の技術の中で生きている

[classic]
韓国の「スッカラ」
価格|3530円
サイズ|W48×D210㎜
問い合わせ|巧藝舎
Tel|045-622-0560

[new]
大橋保隆の「真鍮スプーン」
価格|3960円
サイズ|W50×D210㎜
問い合わせ|大橋保隆
Tel|090-8610-7017

(※)郷古隆洋さんの私物につき、販売不可

読了ライン

text: Yukie Masumoto photo: Shimpei Fukazawa
Discover Japan 2023年6月号「愛されるブランドのつくり方。」

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