《静岡県立美術館》
日本平の麓で富士山・南アルプスとロダン彫刻を堪能
旅の機運が高まりつつあるいま、おすすめしたいのがアート×自然で非日常を体験できる旅。自然豊かな場所に建つ美術館は、アート作品だけではなく建築、ロケーションからも感性を刺激してくれる。
静岡県静岡市の丘の麓にある「静岡県立美術館」は、富士山や南アルプスを望む緑に包まれた美術館。2022年4月にリニューアルオープンしたこの場所ではどんな体験ができるのか、ひも解いていこう。
豊かな自然の中に建つ
自然光を生かしたドーム型建築
静岡県静岡市の南部にある日本平は、駿河区と清水区の境界に立つ景勝地。駿河湾の沿岸近くにある有度山(うどやま)の山頂とその一帯で、富士山や駿河湾越しに伊豆半島が見え、北には南アルプスこと赤石山脈も望む。眼下には清水区の街並みと清水港が広がり、美しい夜景が見られるスポットとしても親しまれている。
「日本平」という地名は、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)伝説に由来すると言われている。この場所で野火攻めにあった日本武尊が、倭姫命(ヤマトヒメノミコト)から授かった「天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)」を使って周囲の草を薙ぎ払い、活路を見出した後、山頂に登り四方を見回したという伝説から名が付いたと言われている。
そんな日本平北側の麓に建つ「静岡県立美術館」は、自然石を使った2階建ての本館とドーム型のロダン館からなる広大な自然に囲まれた美術館だ。
開館は1986年4月、静岡県立美術館は県議会100年記念事業の一環として設立。1994年3月には新館としてロダン館がオープンした。17世紀以降の東西の山水・風景画や富士山の絵画、ロダンと近代彫刻、現代美術、静岡県にゆかりのある作家や作品をコレクションの柱として、2700点を超える幅広い作品を収蔵している。現代美術では、海外作家はモーリス・ルイス、ジョアン・ミッチェル、アンゼルム・キーファー、イサム・ノグチ、ドナルド・ジャッド、国内作家は、山口長男、斎藤義重、草間彌生、桑山忠明、高松次郎など、現代の優れた作家の作品が収蔵されている。常設展のほか企画展や講演会、ワークショップなども開催している。
第1・2駐車場から美術館正門へ続くプロムナードには、国内外の彫刻家による作品12点が並び、周囲の自然と一体になり来館者を迎えてくれる。
この彫刻プロムナードと本館の設計を手がけたのは、設計共同企業体 静岡設計連合。ロダン館は株式会社日総研が設計した。
静岡県立美術館本館の入口は狭く絞り込まれ、明るい外部から無窓の内部空間へと誘導される感覚を生む。またエントランスホールの大空間をより強調し、空間のリズムをつくり出す役割も果たしている。ロダン館は天井高9ⅿのガラス屋根から自然光が降り注ぎ、まるで彫刻のある公園を散歩するように気ままに歩ける。美術館の外を季節の草木の中を散策する遊歩道は、見晴らし台のようにウイング全体を見渡せるため、ユニークな建築が堪能できる場所でもある。
地獄の門、考える人、カレーの市民…
32点のロダン作品が並ぶ
1986年の開館後、静岡県立美術館では彫刻による人体表現にも目を向け、ロダンの代表作「カレーの市民」をエントランスホールに設置。これを契機にフランス国立ロダン美術館と静岡県との間に友好関係が成立し、ロダン作品の収集と展示が開始された。その後ロダン館が開館し、現在では常時32体のロダン作品が展示され、世界でも屈指のロダンコレクションを展示する美術館となった。彫刻作品は全部で51点を常設し、一堂に鑑賞できる。それら全彫刻作品の解説が入った音声ガイドの無料貸出も行っている。
オーギュスト・ロダン
1840年、フランス・パリに生まれる。彫刻家を志し、エコール・デ・ボザール(フランス国立美術学校)を受験するが何度も失敗。彫刻家カリエ=ベルーズとともにベルギー・ブリュッセルで公共彫刻を制作する。1880年、フランス政府から装飾美術館の門扉の制作を依頼され、ダンテの『神曲』を主題として《地獄の門》を製作する。ロダンが発表する作品は、その斬新さから常に世間にスキャンダルを巻き起こした。1917年、亡くなる10ヵ月ほど前に内縁の妻ローズ・ブーレと結婚。現在、ロダンの墓には《考える人》が置かれている。
史上6番目に鋳造されたロダンの代表作
《地獄の門》
1880年、フランス政府が新美術館の門扉としてロダンに制作依頼した作品。ダンテの『神曲』をてテーマにした200体以上の人物像からつくられている。
この作品の前で人は、しばし立ち尽くす
《考える人》
もとは《地獄の門》の中にあった作品で、当初は“詩人”というタイトルで発表された。人気を博して門から独立した後、門の中のものと同じサイズ(中)、そして大・小の像がつくられた。
市民の悲嘆が聞こえてくる
《カレーの市民》
カレー市がロダンに、英仏の百年戦争の英雄である6人の市民像を依頼。しかしロダンが試作したものは、それと正反対である嘆きや苦しむ姿の人間像だった。本作品はロダンの死後に認められた。
収蔵品情報をアップデートした
デジタルアーカイブ
改修工事のため約半年間の休館を経て2022年4月に再始動した静岡県立美術館。リニューアルに際して、場所や時間を問わずアートがウェブサイトにて閲覧できるデジタルアーカイブを構築。所蔵品約2700点のうち8割を公開している。《地獄の門》の3Dモデルや池大雅《蘭亭曲水・龍山勝会図屏風》(国指定重要文化財)の超高精細画像も公開。美術情報の検索利便性が高まることで、小中高校生のためのオンライン教材や、美術館の新たな楽しみ方を提案している。
施設紹介
アート鑑賞後はレストランで、こだわりのパスタやパンを味わうのもおすすめだ。パスタは生パスタを使用し、本格的な食感が楽しめる。また、熟成湯だねを使用したパンは、ベーカリーカフェから取り寄せたこだわりの一品。美術館と併せて堪能したい。
美しい自然に囲まれた環境の中で、美術作品や建築の世界観に没入できる同館でアート散策を楽しんでみてはいかがだろうか。
静岡県立美術館
住所|静岡県静岡市駿河区谷田53-2
時間|10:00~17:30(最終入館は17:00)
休館日|月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
料金|一般300円、大学生以下無料
アクセス|電車 JR草薙駅から静鉄バス5分・県立美術館下車、車 東名高速日本平久能山SICから約15分
Tel|054-263-5755
http://www.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp