愛媛県宇和島「木屋旅館」
歴史とデザインが織りなす異空間。
有形文化財を再生した一棟貸し旅館

愛媛県宇和島市にある築100年の「木屋旅館」は、犬養毅や司馬遼太郎をはじめとする偉人が宿泊した歴史ある宿。一度は廃業に追い込まれた宿が、一棟丸ごと貸し切りで楽しめる新たな滞在型の名所としてよみがえった。かつての趣を残しながら驚きの仕掛けで感性を刺激する宿をご紹介！

地域活性化のシンボル

愛媛県宇和島市の中心街にある木屋旅館は、1911（明治44）年の創業以来、多くの偉人に愛されてきた。政治家では後藤新平、犬養毅、作家では司馬遼太郎、吉村昭、五木寛之のほか、国語学者の金田一春彦らが宿泊した。しかしながら、建物の老朽化に伴って1995（平成7）年に一度廃業。明治時代の旅籠の面影が残る木造２階建ての建物は長らくそのまま保管されていたが、2012（平成24）年に滞在型の観光名所として生まれ変わった。

再オープンの背景にあるのは、宇和島の地域活性化を目指して立ち上げられた「木屋旅館再生プロジェクト」。リノベーションは建築家・永山祐子氏が担当。アートと歴史を融合させた新たな木屋旅館は、国登録有形文化財にも認定された。プロデューサーは国内外の人気店を手掛けるトランジットジェネラルオフィスの中村貞裕氏、クリエイティブ監修は茶人・木村宗慎氏が務めるほか、ランドスケーププロダクツ代表・中原慎一郎氏やグラフィックデザイナー・鈴木直之氏などもプロジェクトメンバーとして参加している。

歴史ある外観と驚きの異空間

築100年以上となる建物は、長い年月をかけて熟成された状態から引き算をすることで、新しい木屋のかたちを生み出す。

趣のある石畳の土間に上がり框（かまち）のある古きよき旅館の風情ある玄関。軒先には、創業当時の門灯が残っている。玄関を入ると３間続きの部屋と広いバスルーム、２階に上がると４つの部屋と書斎が設えられている。サニタリールームは各階にある。なんとこの広々とした木造２階建てが一日一組（２名から最大10名まで）限定で一棟まるごと貸し切れるというのだから驚きだ。

チェックイン時にスタッフから鍵を渡された後は自由に、建物を思いのまま使える。館内事務所のスタッフも夜は常駐しないので、自分たちだけの空間を堪能できるのだ。このほどよい“ほったらかし感”こそが同旅館の最大の魅力。情緒ある日本旅館の中で新たな滞在スタイルが楽しめる。

床の一部が畳グリッドに合わせてアクリル板に！

感性をくすぐられるアートな仕掛けにも注目したい。２階の床の一部が透明のアクリル板になっており、天井板が取り払われ、１階から２階よりさらに上の屋根の梁まで見えるようになっている。通常の日本家屋は水平に視線が抜けるが、ここでは上下の視線という新たな抜けを生んでいる。これはコンセプトのひとつである「引き算」によってもたらされたアイデア。

２階にある４部屋は、リモコン操作で屋根裏空間から四方を囲うようにスクリーンが下りてくる。さらに操作すると、天井に設置されたLED照明がスクリーンをさまざまな色に照らし、異空間をつくり出す。スクリーンはプロジェクターを映して使用することもできるので、建物の雰囲気と掛け合わせて、新たなアート空間をつくることもできる。

建物の歴史やかつて訪れた人物たちに想いを馳せながら、エキセントリックなアートが楽しめる木屋旅館。明治と令和がつながる異空間は、唯一無二の滞在体験をもたらしてくれそうだ。

木屋旅館
住所｜愛媛県宇和島市本町追手2-8-2
Tel｜0895-22-0101
利用人数｜2名～最大10名まで利用可 ※11名以上の場合は要事前確認
料金｜1泊2万2000円＋1名につき5500円（夕食別、軽朝食込み）
IN｜15:00　OUT｜11:00
設備｜セミダブル布団（最大10名分）、冷蔵庫（各室）、液晶テレビ、ダイニングテーブル、Bluetooth搭載機器対応オーディオ、Wi-fiほか
アメニティ｜シャンプー、コンディショナー、ボディシャンプー（tamanohada）、バスタオル、フェイスタオル、ハブラシ、ドライヤー
駐車場｜2台
アクセス｜電車 JR宇和島駅から徒歩約15分、車 宇和島朝日ICから約10分
http://www.kiyaryokan.com