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デザイナー・陶芸家《石本 藤雄》
マリメッコ、アラビアで50年間活躍
日本で挑戦するものづくり【後編】

2025.1.17
デザイナー・陶芸家《石本 藤雄》<br>マリメッコ、アラビアで50年間活躍<br>日本で挑戦するものづくり【後編】

愛媛県出身のデザイナー・アーティスト、石本 藤雄いしもと ふじおさん。2006年で定年退職をするまで、フィンランドのデザインハウス「マリメッコ」で働き、その後フィンランドから日本へ戻り、愛媛県松山市に「Mustakivi(ムスタキビ)」をオープン。また、1989年から陶器メーカー「アラビア」で作陶をはじめ、陶芸家としても数々の作品を世に送り出してきた。精力的に制作を行う石本さんの原点、そして50年ぶりに戻ってきた日本でのものづくりについてうかがった。

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石本デザインを日本の技で
暮らしにタイムレスな美しさを

土と向き合う陶の作品は、窯から出てくるまでどうなるかわからない不安とおもしろさがある。積極的に実験を重ね、色の検討には多くの時間を要するという

石本さんが陶芸に目を向けはじめたのは1980年代。「若い頃はあまり興味がありませんでしたが80年代に民藝・骨董ブームがあり、帰国するたびに丹波立杭焼や小鹿田焼、沖縄のやちむんなどの産地を訪ねるようになりました」。

1989年にアラビア文化基金の奨学制度を知り、マリメッコを半年休職しアラビアのアート部門へ。その後、陶器制作は日常の一部となり、マリメッコを退職した後もアラビアの工房で作陶を続けた。

「ONNEA」シリーズのゴブレット。石本さんが陶芸をはじめた頃、ろくろでつくった作品のアイデアを元に砥部の工房で再現した。全6サイズ、豊富なカラーバリエーションで商品化。写真はLサイズ(5500円)

「いつかは日本に帰って制作活動をしようと思っていた」という石本さんは2020年に帰国。以来、陶芸家として毎年のように作品展を開催している。新たな展示に向けて手掛けているシリーズのひとつに「冬瓜」がある。

「2013年、愛知県奥三河の温泉宿ではじめて見た冬瓜がとても印象的で。白い半紙の上にちょこんと置いてあったんです。野菜をこんなにも大切にありがたく飾る感覚というのは、日本人にしかないものだと思います。たとえば布の上にカボチャを置いたり、物を神格化し大切に扱うその精神に感心しました」。また、最近では泰山木の花にも魅力を感じ「たいさんぼく」シリーズを発表している。

日常の食卓に彩りを添える石本デザインのテーブルウェア。中央のフラワーベース「PLEATS」(2万2000円)はフィンランドで作陶していた時代に、一枚の紙で山折り谷折りを繰り返して筒にするアイデアから生まれた。色違いのブルーも展開中

「実家に泰山木があり、よく木登りをしていたのですが、なぜか当時は花の印象がなかったんです」。数年前に東京の公園の一角で見た白く大きな花がとても印象深く、それが泰山木であることを知り、その姿を陶の作品で表現してみたいと思うようになったという。

アートとデザインの分野を横断しながら、好奇心たっぷりに前進する石本さん。日本の伝統柄を再解釈した表現や、フィンランド時代から温めていたデザインの中からアイデアを抽出するなど、季節の移ろいや思いがけず路地や野山で出合った草花といった記憶の中にある、心動かされる一瞬がアートピースとなり、作品やプロダクトデザインに落とし込まれる。可憐でありながらも力強い、そんな魅力あふれる作品は、手に入れた人それぞれの手元で新たな風景を描くだろう。

次回個展に向け、新作となる桃のオブジェを試作中。頭の中にあるイメージを頼りに、さまざまな削り道具を駆使しながら丸みや窪みを微調整していく

おすすめ作品をご紹介

TUULI カップ BLUE
フィンランド語で「風」を意味する「TUULI」シリーズ。風に揺れるしなやかな草をダイナミックな筆のタッチで表現。約W9(底面)・φ8.5(飲み口)/×H7.5㎝。4180円

KASANE 角皿
「KASANE」シリーズは釉薬の重なりから生まれる、色の表情が特徴。シンプルなかたちと落ち着きのある色合いは、どんなインテリアにも。約W16×D16×H2.5㎝。4400円

PERUS プレート たいさんぼく
石本藤雄展「たいさんぼく」(2024年6月開催)を記念して制作された。優しく温かみのある線で描かれたドローイングプレートは勝手のよいサイズ。約φ24×H2㎝。4950円

CHUSEN てぬぐい
石本さんも長年の海外生活で愛用してきた身近なファブリック、てぬぐい。アイデアスケッチの中から飛び出した新作や、日本の伝統柄を再構築したものなどを伝統技法・注染で仕上げた。各2200円

FUJIWO ISHIMOTO ポストカード
フィンランドで制作したレリーフ作品を、繊細なイラスト表現に定評のある廣済堂で印刷。季節の草花を楽しむようにフレームに入れて飾るのもおすすめ。各250円

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2024年9月に松山城のふもとの通りにオープンしたMustakivi house。石本デザインのアイテムのほか、日本とフィンランドで見つけたクラフトやヴィンテージアイテムなどが揃う

Mustakivi house
住所|愛媛県松山市大街道3-2-34
Tel|089-993-7497
営業時間|10:00〜18:00
定休日|水曜
https://mustakivi.jp/

text: Junko Shimizu photo: Hiroaki Zenke
2025年1月号「ニッポンのいいもの美味いもの」

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