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京都「茶室/茶藝室 池半」の
お茶のおもてなし【前編】

2021.11.12
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京都「茶室/茶藝室 池半」の<br>お茶のおもてなし【前編】
今年8月に改装を終えた2階。「お客様さまから水面が見えるように」と、ピクチャーウィンドウを床ぎりぎりの低さに。水鳥が遊び人々が行き交う、鴨川の日常が垣間見られる

千利休の昔より茶の湯の文化が息づく京都。客人をもてなす場には、いつもお茶がありました。型こそ違っても、その精神は同じ。今回訪れたのは、個性豊かな各地の茶葉を自由な感性で楽しむ気鋭の店「茶室/茶藝室 池半」。日本と台湾、中国それぞれのエッセンスを取り入れた新しいスタイルのおもてなしに迫ります。

ほの暗く、和の茶室を思わせる1階。内装に使用した和紙はすべて和紙職人ハタノワタルさんが手掛けたもの。小嶋さんは江戸から昭和にかけて尾張瀬戸で製陶していた窯元の11代目にあたり、「池半」の屋号をこの店で継承。茶道具など先祖伝来の品も

京都の町家でひそやかに行われる
1組限定のお茶のプレゼンテーション

京都・五条大橋のほど近く。鴨川の流れをすぐそばに望む町家で、小さな茶会が幕を開けた。静謐な空間で迎えるのは小嶋万太郎さん。一棟貸しの町家宿の亭主でもあり、「宿泊のお客さまを、お茶でおもてなしする。それが『池半』の原点です」と語る。茶葉のセレクトやしつらえの美学が評判を呼び、昨年11月から宿泊客でなくても利用できるようにした。こちらでぜひ体験したいのが、フルサービスの茶席コースだ。

その作法は、小ぶりな茶壷(急須)や茶海(湯冷まし)、茶杯を使う「工夫茶」。妻の石橋慧さんがかつて台湾で暮らし、茶藝館(喫茶店)での勤務経験もあるため自然とこのスタイルを取り入れた。茶葉は日本、中国、台湾各地のものを用意。「ルーツをひも解けば、日本茶も中国大陸にたどり着きます。小ぶりな杯で何煎も楽しむスタイルは、茶葉の国を問いません」。屋号に「茶室/茶藝室」と冠するゆえんだ。

小嶋さん(左)が宿でのもてなしに台湾茶を取り入れようと現地の茶農家に赴いた際、通訳として同行したのが石橋さん(右)だったそう。まさに茶が取り持つ縁

日本茶と聞けばまず緑茶をイメージするが、「池半」が提案する日本茶とは「日本産」のお茶。同じ「茶の木」を材料に、緑茶は茶葉を摘んですぐに発酵を止めたもので、生のまま萎凋させ半発酵させると烏龍茶に、さらに全発酵で紅茶となるのだ。茶葉はすべてシングルオリジン。「日本のお茶文化においては、茶匠のブレンド技術による味わいの安定した茶葉によって、味わいだけでなく、飲み手の自己の内面と向き合う精神性も重んじてこられました。それは大切な日本文化ですが、品種や産地ごとに異なるお茶それぞれの個性も楽しんでいただけたら」。

コースでは茶葉ごとの特徴について丁寧なレクチャーを受けた後、好みを伝えつつ3種類を選び、淹れてもらう。「最初の蒸らしの段階で、香りを確かめてみてください」。茶壷の蓋を取ると、胸を満たす芳香。淡くフレッシュな印象の茶葉にはじまり、高発酵で力強いタイプへと移っていくなど、3種類を淹れる順番も的確だ。

緑茶、烏龍茶、紅茶……日本全国の茶園から厳選した
無化学肥料、無農薬の茶葉を用意

葉っぱそのままのかたちをとどめるものから針状のもの、色合いも発酵度合いでさまざま。3種類を選ぶのが悩ましい

(写真上段左から順に)
湯屋谷在来野放白茶
京都・宇治田原産。山中に自生している在来種の茶樹から一芯二葉(新芽とその下の葉2枚)を手摘み。自然な環境で萎凋・乾燥させ、わずかに発酵させた非常に稀少な白茶。

大福谷古樹手摘在来煎茶
100年超の古樹から収穫。手摘みならではの繊細な味わい。煎茶だが蒸しは浅く、煎ごとの変化を楽しめる。宇治田原特有の香り「ホトロ香」を引き出すため高温で抽出。

二ノ谷在来煎茶
緑豊かな宇治田原で育つ在来種の宇治茶。浅蒸しでほんのりとフローラルな香り。葉が大きく、やや淡泊な印象だが味わうほどに身体にしみ渡るような旨みがある。

(写真中段左から順に)
在来蒸し製ぐり茶
自然栽培。やや深蒸しで、煎茶のような精揉工程がないためランダムに丸みを帯びた「ぐり茶」。低めの温度で抽出することで甘みが出る。バランスの取れた熊本の在来種。

やぶきたかぶせ茶
日本国内で大多数を占めるやぶきた品種。その名の通り、7〜10日間にわたって茶畑を被覆し日光を遮る。低温で淹れることで豊かな旨みと甘みを感じさせ、渋みは少ない。

(写真下段左から順に)
さきみどり手摘み釜炒り茶
宮崎で有機栽培・手摘みされたさきみどり品種。中国から伝来した釜炒り製法でつくられ、ほどよいコクと香ばしさを感じるのが特徴。葉が大きめで、煎のもちがとてもいい。

みなみさやか烏龍茶
発酵度合い低めで仕上げられた、宮崎産の烏龍茶。品種特有の花香があり、ジャスミンやクチナシのよう。緑茶のニュアンスも感じさせるクリーンな持ち味の茶葉。

かなやみどり熟紅茶
​​煎茶用の品種・かなやみどりを完全に発酵させ、紅茶に加工。さらに6年の歳月をかけてじっくり寝かせ、熟成させて深みのある独特の香味に仕上げた。熊本産。

(写真右上段)
在来紅茶
熊本産。自然栽培の在来品種でつくられた紅茶。軽やかで癖が少なく、すっきりとした味わい。最初は淡泊な印象だが、3煎頃からフルーティさが増し、変化が楽しめる。

(写真右中段)
玄米茶
有機栽培。番茶をベースに、絶妙な割合で玄米をブレンドして仕上げた、昔ながらの玄米茶。お茶本来の豊かな風味を残しつつ、焙煎と炒り米が放つ香ばしさもともに味わえる。

(写真右下段)
在来烏龍茶
宮崎産、有機栽培。発酵が軽めの清香タイプ。台湾の文山包種茶を思わせるような上品な花香が感じられるのが特徴。さっぱりとして清涼感があり、飲み飽きさせない烏龍茶。

 

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text: Aya Honjo photo: Sadaho Naito
Discover Japan 2021年11月号「喫茶のススメ お茶とコーヒー」

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