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京都「茶室/茶藝室 池半」の
お茶のおもてなし【後編】

2021.11.12
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京都「茶室/茶藝室 池半」の<br>お茶のおもてなし【後編】

千利休の昔より茶の湯の文化が息づく京都。客人をもてなす場には、いつもお茶がありました。型こそ違っても、その精神は同じ。今回訪れたのは、個性豊かな各地の茶葉を自由な感性で楽しむ気鋭の店「茶室/茶藝室 池半」。日本と台湾、中国それぞれのエッセンスを取り入れた新しいスタイルのおもてなしに迫ります。

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自由な発想で、お茶のある時間を愉しむ

茶葉の味わいやイメージに合わせて使い分ける茶道具にも注目したい。オーソドックスな茶壷に代えて、蓋碗を用いることも。「白茶や東方美人など、新芽を使った繊細な茶葉には湯を直接当てたくない。その場合、縁からそっと湯を注ぎ入れられる蓋碗が向いています。口が開いているので、ほどよく熱を放散できるのもメリットですね」。

茶葉はすべて無農薬・無化学肥料栽培で育てられたもの。特に、テロワールが色濃く表れる在来種に着目している。品種茶でも古樹や製茶後に長期熟成させたものなど、ポテンシャルの高い茶葉を積極的に買い付ける。気になる茶農家の話を聞くため現地を訪ね、茶畑の環境を知り、つくり手と意見交換を重ねる。茶摘みや整枝作業の手伝い、時には中国茶エキスパートの石橋さんが加工の助言を求められることも。市中の店にとどまることなく、理想の茶葉を追求する。

さらに、異なるふたつの空間もまた印象的だ。ゲストがまず招き入れられる1階は、ダークトーンの和紙が壁面にあしらわれ、にじり口のような低い窓を備えた“陰”の趣。ここで2種類のお茶をいただいたら2階へ。階下と対照的に窓が大きく切り取られ、晴れやかな“陽”を表現。鴨川の眺望が開け、ドラマティックな場面転換がなされる。

最後のお茶とともに、2つ目のお菓子を。内容は随時替わるが、この日は黒ゴマ団子、栗羊羹など3種盛り。お茶は最初の1煎のみ淹れてもらい、あとは自分たちのペースで過ごせる。同一時間帯(90分)1組限定で安心

自宅でのおもてなしで参考にしたいポイントも。たとえば茶道具。台湾茶用の茶壷があると便利だが、そのほかの道具は最初から専用のものを買い揃える必要はない。ぐい呑みやショットグラスなど小ぶりな酒器は茶杯に見立てられるし、茶海はピッチャーや片口で代用できる。演出のアイデアも随所に。「複数の茶葉を小さなうつわに出して並べ、お客さまに選んでいただくスタイルは取り入れやすいと思います」と石橋さん。お茶請けも甘いお菓子だけでなく、塩昆布やナッツなどを併せて出すことでメリハリが生まれる。

ちなみに石橋さんは茶処・静岡出身で、一人暮らしのときも急須を愛用していたそう。小嶋さんもお茶には思い入れが強い。「味わいはもちろん、コミュニケーションツ—ルという点でもお茶に惹かれています。私自身、多感な思春期でも『お茶を淹れるよ』と声が掛かれば食卓に集う習慣がありました。そんな不思議な力が、お茶にはあると思います」。

川畔の秘めやかな庵で茶葉の香味をたしなみ、心を通わせるすがすがしいひととき。お茶の楽しみに、新しい風をもたらしてくれそうだ。

日本茶のコースの流れ

茶葉を3種類選ぶ
約10種類の茶葉について、サンプルを前にわかりやすく説明。ゲストの興味や好みをしっかりカウンセリングし、これから味わう3種類をセレクトする。

1種類目を淹れてもらう
流れるような所作で1種類目をサーブ。気負うことなく、香りや味わいの印象を自由に伝えてみよう。なお1種類の茶葉につき、好みで何煎も楽しむことができる。

2種類目を淹れてもらう。
茶器も替わる
茶葉が替わると、茶器も替わる。飲み比べではないので、茶杯もチェンジ。味わい方に少し慣れ、より香味を楽しめるようになる。淹れ方を覚える楽しみも。

甘味とともに、2種類目を愉しむ
ここで最初のお菓子が登場。この日は台湾の豆花を思わせる豆腐の甘味。好みで黒蜜を。日本茶のコースでも和菓子の縛りはなく、うつわ使いなどで演出を変えている。

日本茶コースの組み立ての一例

1種類目
湯屋谷在来野放白茶
非加熱・微発酵の春茶らしく淡く澄んだ水色。香りはイグサや花を思わせ、青みがある。2煎目から香りがぐっと開き、フルーティな余韻を残す。コース料金に+1000円(税別)。

2種類目
みなみさやか烏龍茶
フローラル、具体的にはジャスミンやクチナシをイメージさせる華やかな香りにうっとり。軽めの発酵ゆえ青々しくクリアな味わいで、スッとのどを通る。

3種類目
大福谷古樹手摘在来煎茶
葉が大きく、1煎目はやや淡泊。2〜3煎目でゆっくりと開き、浅蒸しならではのさらりとした持ち味が楽しめる。旨みは少なめながら土地のパワーを静かに感じさせる味わい。

台湾茶のコースも

同じスタイルで台湾茶のコースも。限りなく緑茶に近い味わいの包種茶や、高地の岩盤で栽培されミネラル感の強い高山茶など、個性的な茶葉が揃う。珍しい台湾紅茶も複数。

(写真上段左から順に)
野放老樹白茶
文山包種茶
奇莱山高山茶
梨山高冷茶
炭焙煎凍頂烏龍茶
木柵正叢鉄観音
東方美人茶
清境高山紅烏龍
金木犀蜜香烏龍茶
花蓮蜜香紅茶
原生種紫芽山紅茶
日月潭紅玉紅茶

竹垣に覆われた外観が目印。茶席コースは日本茶、台湾茶ともに1名4000円(税別)、1〜4名で利用可

茶室/茶藝室 池半
​​住所|京都府京都市下京区都市町143-11
Tel|非公開
営業時間|昼の部12:00〜18:00、夜の部20:00〜22:00
※HPから要予約
https://ikehan.jp

text: Aya Honjo photo: Sadaho Naito
Discover Japan 2021年11月号「喫茶のススメ お茶とコーヒー」

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