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現代美術作家・髙橋大雅が手がけた
京都・祇園にある、立礼茶室「然美」
日本古来の美意識を再び現代に甦らせた茶室。

2022.2.18
現代美術作家・髙橋大雅が手がけた<br>京都・祇園にある、立礼茶室「然美」<br><small>日本古来の美意識を再び現代に甦らせた茶室。</small>

昔の京都の風情が蘇る祇園町に、現代美術作家・高橋大雅さんが手がけた総合芸術空間「T.T」内に予約制の立礼茶室「然美(さび)」が誕生。京都唐紙工房「かみ添」の和紙の壁紙に包まれながら、BGMのない静を極めた現代的な「茶の湯」の空間でいただく老舗和菓子司の職人技が光る茶菓子と創作日本茶のペアリングは、ここでしか味わえない。そんな現代美術作家・高橋大雅さんが日本古来の美意識を表現する立礼茶室「然美」の魅力とは・・・・・・。

現代美術作家
髙橋大雅(たかはし・たいが)
1995年生まれ、ニューヨーク在住。神戸市で育ち、2010年に渡英。「ロンドン国際芸術学校」を卒業後、2013年に「ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ」に進学。在学中にアントワープやロンドンのメゾンで経験を積み、17年に同校卒業後、自身の名を冠したアートプロジェクト〈タイガ・タカハシ〉をニューヨークで開始。2021年12月4日、京都・祇園にて総合芸術空間「T.T」、立礼茶室「然美」を設立。

日本の「美」を再解釈。

イサム・ノグチ日本財団理事長で石彫家の故和泉正敏氏による彫刻
Taiga Takahashi, 'Infinity Pillar', 2021, Basalt,
Left 8.3 x 8.3 x 78.7 in.
Centre 6.8 x 6.8 x 78.7 in.
Right 8.3 x 8.3 x 78.7 in.

人生の半分近くを欧米で過ごしていた高橋さんは、日本のものづくりとは何かという疑問があり、アートやファッションといった西洋発祥の文化の学びを通して、日本人としての自己表現を常に意識してきたと語る。

日本のものづくりは何か既にあるものをもとに、より発展させ独自のかたちにすることに長けていると気づき、本当のものづくりの価値は歴史の中にすでに存在しているのではないかという観点から、考古学者のように過去の歴史の背景や性質を研究し、自分の現代芸術作品の一部として日本の美術の源流とも言える「茶の湯」の世界を再解釈。

「日本古来の美意識を再び現代に甦らせる」をコンセプトに個と向き合う禅の精神性、神仏や自然への敬意を、茶と菓子の意匠を通して現代に甦らせる茶室となっている。

「然美(さび)」という言葉には、時の移ろいとともに、美しく変化することを意味がある。

枯れて風情が出る、古びて趣が出る。朽ちていく様子と、豊かで華麗な様子の相反する要素が交わりながら内面の奥底にひそむ本質が時間の経過とともに外へと滲み出る。

そんな日本古来の美意識を現代に取り戻すために、立礼茶室「然美」は存在する。

心身の清めの場「茶の湯」の世界空間を。

T.T

建物は大正時代の初期(1904年頃)に建てられた町家を改装し、数寄屋造りという日本の美の真髄ともいえる建築様式を取り入れ、古典の拡張を行っている。

近代化のなかで忘れ去られようとしている技術を伝承し、さらにその技術に磨きをかける。全てが規格化され、表層的になってしまった現代の建築資材に異を唱え、扱いが難しく、高度な職人技術を必要とする伝統的素材にこだわっている。

立礼茶室「然美」
唐紙工房「かみ添」による壁, ジョージ・ナカシマの家具を長年制作してきた「桜製作所」と髙橋の共作による椅子

壁は「型押し」という古典印刷技術を現代に受け継ぐ、京都の唐紙工房「かみ添」に特注した和紙で包み、椅子は高橋さんと20世紀を代表するデザイナーのひとりであるジョージ・ナカシマさんの家具を長年制作してきた「桜制作所」と共作。床は異なる細さの木を並べる乱張りという手法を用いることで表情を出し、うつわは、福村龍太など4人の作家が然美のために制作した一点物。

日本の作り手がこだわり、手間暇かけられたクラフトを積極的に採用している。また、茶室の床の間には高橋さんが収集した古美術や骨董品が月替わりで展示されている。

職人の技術光る「工藝」

立礼茶室「然美」
唐紙工房「かみ添」による壁, ジョージ・ナカシマの家具を長年制作してきた「桜製作所」と髙橋の共作による椅子

茶の湯の世界では、「好み」あるいは「好む」という独特の言葉が使われる。

茶人が意匠などを指示して道具をつくらせる。その道具は、茶人の名前を冠して「誰々好み」と称される。好み物とは茶人の独自の設計と、その意志を理解した職人の技術との、共同作業によって生み出されたもの。

茶人の創意工夫による独自のデザインが職人に提示され、茶人の意志を理解した職人の技術によって生み出されたものが多くあるのだ。茶人の創意と職人の技術との共同作業によって生み出されるという一面が、茶道具を含めて工業的な目的ではなく、一個人の思想が時代を越えるものづくりの精神性に繋がっていったのではないかと高橋さんは語る。

伝統と革新が融合した「菓子と茶」

2月の菓子
左から)香雪、椿餅、雪間草、花信風、名残

近代茶道の先駆者と称される裏千家11代家元の玄々斎が日本の急激な西洋化の流れの中、明治元年に考案した立礼式茶法があった。この茶法を再び現代に蘇らせるため、人生の半分以上を海外で過ごし芸術を学んできた髙橋さんの観点で再解釈して誕生した立礼茶室「然美」。

インスタレーションとしての室礼、パフォーミング・アートのように魅せる所作など、現代美術(コンテンポラリー・アート)の観点で日本古来の美を再び甦らせる。

そして老舗和菓子司の職人の技がつくり出す伝統と芸術が融合した菓子と厳選した茶葉を使用した日本茶やカクテルなどの茶菓懐石を味わえる。

茶菓子と日本茶のお品書きは毎月全て変わり、来るたびに新しい茶菓子と日本茶が味わえる。工藝と現代美術の間を行き来する陶芸家達の作品を、茶器や菓子器として使用することで、食べる/見るを両方楽しめることが出来る。

2月の茶
左から)玉露 甘露、くきほうじ茶、京香、玄冬の庭、いり番茶

《菓子》
香雪/冬空に気高く香る梅の花
原材料|味噌チーズ最中、梅、昆布、レーズン

椿餅/去りゆく冬と訪れる春の喜び
原材料|玄米餅、小豆餡、からすみ

雪間草/雪間に芽吹く小さな春の兆し
原材料|薯蕷きんとん、丹波産白小豆粒餡、松の実、ディル

花信風/春の陽気をまとった風が新しい季節の到来を告げる
原材料|発酵ヨーグルトソース、いちご、焼き麩、乾燥漬物

名残/遠山に微かに残る雪の果て
原材料|チョコレート羊羹 レモン皮 ヘーゼルナッツ 銀箔

《茶》
玉露 甘露/香り立つ、甘露の溜まり。旨味引き出す水出しにて
原材料|一保堂 玉露 甘露

くきほうじ茶/味わいの細部に宿る匠の技。茎の甘みの余韻に浸る
原材料|一保堂 くきほうじ茶

京香/静寂の中 淑やかに古都の香りを聞く
カクテル原料|国産グレーンウィスキー知多、くきほうじ茶、シナモン
モクテル原料|くきほうじ茶、シナモン

玄冬の庭/杯の中に見る冬日陰の坪庭
カクテル原料|国産グレーンウィスキー知多(カクテルのみ)、いり番茶、豆乳

いり番茶/京人の日常を彩る、個性的で芳烈な香り
原材料|一保堂 いり番茶

髙橋大雅, '無限塔', 2021, 玄武岩,
左 21.3 x 21.3 x 200cm
中央 17.4 x 17.4 x 200cm
右 21.3 x 21.3 x 200cm

京都へ訪れた際には、立礼茶室「然美」(さび)」で日本古来の美意識や伝統工芸、職人技が光る茶菓子を体感してみはいかが。

立礼茶室「然美」
住所|京都市東山区祇園町570-120
完全予約制|13:00〜18:30
www.rustsabi.com

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