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代々木上原「no.(ナンバー)」
“飲食”と”デザイン”を掛け合わせた、ふところの深い個性の発信基地

2021.11.1
<small>代々木上原「no.(ナンバー)」</small><br>“飲食”と”デザイン”を掛け合わせた、ふところの深い個性の発信基地

東京・代々木上原にあるカフェバーとクリエイティブオフィスが融合したスペース「No.(ナンバー)」。“日常のアップデート”を掲げる同店では、季節ごとにバーテンダーやバリスタ、シェフ、デザイナーが独自の視点で提案したメニューが展開される。各分野のスペシャリストとゲストによる、新たなクリエイティブが生まれる場とは?

あらゆるクリエイティブが融合する場

小田急線・千代田線代々木上原駅から徒歩約30秒、坂の途中に建つビルの3階、一歩足を踏み入れると飛び込んでくる、リキュールやコーヒーロースターが並ぶバーカウンターとほどよい賑わい。陽が差し込む昼間の店内には、テーブル席で談笑する二人組やパソコンで仕事をする人、カウンターで遅めのランチを楽しむ人……各々が自分の時間を自由に過ごしている。そして彼らの傍らに置かれているのは、オリジナルカクテルやオリジナルブレンドのコーヒー。カウンター内には昼間からバーテンダーが在中し、シェイカーを振る音が鳴り響いている。一見よくある風景のようで珍しい、ここが「No.」の面白いところ。

メニューは大きく分けて、カクテル、コーヒー、フードの3種類。カクテルは「Fugulen Tokyo」のバーマネージャーや数々の賞の受賞を経てドリンクコンサルチームABV+を立ち上げた野村空人氏がレシピ制作に携わる。コーヒーはオーストラリアやイギリスで活躍ののち、Raw Sugar Roastとして東京羽田に焙煎所を構えるバリスタ・小田政志氏がトータルプロデュース。料理は、複数のフレンチレストラン勤務経験があり現在フリーランス料理人・A ma faconとして活動する片山日菜氏シェフが腕を振るう。

また、シーズン毎に発表するメニューシリーズ「No. COLLECTION」では、ペアリングを採り入れたカクテルのパイオニアとして知られる「 BAROSSA cocktailier」の中垣繁幸氏をゲストバーテンダーに迎え、レシピを制作。料理は「タテルヨシノ銀座」などの名店で研鑽を積んだのち、現在「restaurant RK/REVIVE KITCHEN THREE AOYAMA」で活躍する井口和哉氏をゲストシェフに招き、ひと皿の中で変化が楽しめる料理を展開する。

カクテル、コーヒー、料理、それぞれに各分野のスペシャリストが配置され、「No.」内にいるクリエイティブチームとともにアイデアを出し合い、「コレクション」と銘打ち、季節に合わせたメニューを創作していくのが同店のスタイルだ。

「日本のコーヒーシーンとカクテルシーンは、海外と比べて分断傾向にあります」
そう語るのは、同店のオーナーであり運営元「301.inc」代表の大谷省悟氏。

「日本ではバーはカクテル好き、カフェはコーヒー好きのための場所という印象が強い。しかし海外ではその壁が取っ払われ、同じ空間でシームレスに繋がっている。バーがスペシャルな場ではなく、人々の日々の生活に馴染むカジュアルな場として成立していて、なぜ日本はうまく横断出来ていないのだろうと不思議でした。バーがひとつのカルチャーとして成り立ち、飲食シーンとクリエイティブシーンを引き寄せる場所を作りたいとずっと思っていて、そんなときにバーテンダーの野村空人さんと出会って意見が合致し、日本のカクテルシーンを変えていこうと、No.の構想に繋がりました」

バーテンダーとバリスタが同じ空間で仕事をする。このあまり見慣れないシームレスな環境の中、今までカクテルを飲んだことがないような人たちもメニューを気軽に手にとって飲みやすい状態を作ることで、ゲストと店の距離感も縮まっているようにも感じられる。

「クリエイティブが生まれる場所で提供されるものだから、妥協をしない」

「No.」は、2019年にオープン以来、人と人が出会う場としてのカフェバーと、その対話から生まれるアイデアをかたちにするクリエイティブオフィスを融合させたコンセプトスペースとして展開してきた。しかしながら、飲食へのこだわりぶりは、いわゆるコミュニティスペースとは一線を画する。その理由について大谷さんは話す。

「自分たちの仕事は、ミーティングが起きる前の段階から始まっていることが多いんです。だから“会話が生まれる場所”をつくりたかった。それがこのスペースが目指したことのひとつでもあります。しかし、新たなクリエイティブが生まれる場所で出される飲食が手を抜かれていては、メニューも一切妥協したくなかったんです」

レストランは“食”がゴールとなるが、同店はカジュアルなコミュニティの場であり、ゴールは出会いや会話から新たなプロジェクトが誕生すること。だが、より精度の高いものが生まれるため、提供するものはレストランクオリティを目指す……それがNo.の図式なのだ。

気軽さと深掘り要素を兼ね備えた同店。初めて訪れたゲストも常連客も多様なスタイルで楽しめるからこそ、店のビジョンや思想の理解深度にも当然差が生じる。しかしながら、初心者は感覚的に、常連は深掘りできる仕組みがあるのだ。

ビジョンや思想の理解深度を深める
2部構成のメニューブック

同店ではスペシャリストたちが季節ごとに追求したメニューが、まるでファッション業界の新作発表会のように提供することから、「コレクション」と銘打ち、渾身のメニューを展開している。それらは「アイデアの力で身近なコト・モノの尊さや素晴らしさを伝えていきたい」という想いのもと、トレンドではなく、あえて慣れ親しんだ“ベーシックなもの”から新しい視点を見出し、具現化されている。

そんな作り手の想いや物語、料理やドリンクのビジュアルの美しさ、そしてそこから見えてくる同店の思想を可視化できるのが、一冊のメニューブックだ。

本は前半がビジュアルメインのいわゆるカフェバーやレストランのメニュー表、後半が商品一つひとつにフォーカスした読み込み要素満載の内容構成となっている。初めて訪れたゲストは前半のビジュアルから感覚的にNo.のコンセプトに触れ、常連客や前半が深く琴線に触れた人は、後半で開発プロセスやクリエイターの思考から一品一品の物語を、小説を読むように楽しめるのだ。デザインや紙質にもこだわり丁寧に作り込まれた一冊には、なんとメニューのレシピまで記載されている。

シンプルで削ぎ落されたカクテル「Tommy's Margarita」は、一杯目にも締めにもはまる、オールマイティーなテイスト(2021 SUMMER COLLECTIONより)
押麦を使ったトウモロコシと、によどマッシュルームのリゾット。味や食感の絶妙な不均一さとコントラストは、最後のひと口まで変化を楽しめる(2021 SUMMER COLLECTIONより)
「Summer Blend」。豆の個性である酸味を引き出しながらも、伝統的なコーヒーらしいボディと甘味も譲らない。夏の爽やかさを表現した一杯(2021 SUMMER COLLECTIONより)
フレッシュなメロンジュースに上品なバニラアイスを加えた、メロンソーダフロート。ホワイトラムとシェリーが香る、大人のデザートだ(2021 SUMMER COLLECTIONより)
ずっしりと重厚感のあるズッキーニに、焼きナスタルタルや桃ピクルスを添えた一品。多層的ソースが生む甘味・酸味・塩味のバランスは、「焦げ」という苦味によって皿の上で完成する(2021 SUMMER COLLECTIONより)

ライトにもディープにも楽しめる多様なゲストに開かれた店であることがメニューブックからも感じられる「No.」。ボーダーレスなこの空間では、ゲストとスタッフ、ゲスト同士、またスタッフ同士の対話の中から日々アイデアが生まれ、繋がり、共有し、そして多彩なコラボレーションが生まれていく。境界のない場は、自然に訪れた者の個性を引き出してくれる。ふところ深く開かれたこの空間は、あなたのアイデアをかたちにするヒントも与えてくれるかもしれない。

No.(ナンバー)
住所|東京都渋谷区上原1-33-11 TOPCOURT4 3F
時間|9:00~24:00(第1月曜9:00~15:00/17:00~24:00、第2・3・4月曜9:00~15:00)※L.O.はフード21:00/コーヒー23:00/カクテル23:30
定休日|年中無休
席数|33席
http://no.301.jp
https://www.instagram.com/no.tokyo/

text=Discover Japan

SDGs視点で読み解く
産業と技術革新の基盤をづくりに取り組む東京

2021年8月現在
解説協力:サステナブル・ラボ株式会社

人間、地球及び繁栄のための行動計画として、持続可能な開発目標として国際的に採択されたSDGs。17の目標のうちゴール9の「産業と技術革新の基盤をつくろう」にも関わる「発明者数割合」に注目すると、東京都は全国1位。

しなやかな創造性でバーテンダーとバリスタの垣根を取り払い、カフェバーとミーティングスペースを融合させた「No.」から、ワクワクするようなアイデアや、次世代の発明家やアントレプレナーが生まれる日はそう遠くないかも!?現代の東京は地域付き合いが希薄になりがちだったり、忙しさで自分が属するコミュニティ外での出会いが限られたりすることもありますが、ここを訪れれば人とのつながりとインスピレーションが授かれそうな気がします。

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