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片口に惹かれる理由。
高橋みどりの食卓の匂い

2020.11.15
片口に惹かれる理由。<br><small>高橋みどりの食卓の匂い</small>

スタイリスト・高橋みどりさんがうつわを通して感じる「食」のこと。五感を敏感に、どんな小さな美味しさ、楽しさも逃さない毎日の食卓を、その空気感とともに伝える《食卓の匂い》。今回は実は多様な用途がある片口を紹介します。

高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。新刊の『おいしい時間』(アノニマ・スタジオ)が発売中

食器棚を眺めると一目瞭然、自分の好みがわかる。種類、大きさにより積み重ねての収納だが、片口だけはうずたかく崩れそうになっている。定期的に見直してはいるのに、いつもこの高さを保つ。

加飾なものよりも、道具としての機能をもつほうが好きなのは性分に合う。根が貧乏性なのかもしれない。うつわを求めるときに思うことは、美味しそうと感じること、つまりこれに盛りつけたい料理が浮かび、美味しそうなシーンが見えるもの。それに加えて片口では、使っているシーンを思いめぐらすことが楽しい。

伊藤環さんの柞灰、村木雄児さんの白化粧した砂色の片口は手に収まりがよく水切れもいい。これは道具としてはとても大事なことで、いくらかたちが好きでも、この機能を備えていなければストレスになるばかりだから。朝の納豆や青菜のおひたし用に、めんつゆ、日本酒を入れ注ぐ。煎茶を淹れるときの湯こぼしに使うことも多い。

サイズ違いを持つ古い平清水焼の片口は、その白くぽってりとした感じがのんびりとしていて重宝する。大きいほうは煮物、和え物に使い、ことに気に入った使い方としてヨーロッパの白い皿と合わせ、あえてサラダやざく切りのさまざまな大きさのトマトを盛る。日本の食卓で、ましてや和洋折衷の我が家の日々の食卓にはうつわとてそんなミックス感がちょうどいい気分。

成島焼独特の外が黒釉で中が海鼠釉の片口を、運よく口の欠けの直しが銀色なのも気に入って、骨董市で求めた。海鼠釉のどろっとした感じがなく、むしろ民芸たる匂いと、そこに差したわずかな銀色が素敵と感じるのはまったく個人的な気に入り方だとは思うけれど、好きなうつわのひとつ。同様に東北のものと思われる素朴な片口は外が濃い茶色で中が明るい茶色のもの。かつて庶民の台所で、大きな樽から醤油などを移し替える道具として用いられていたのではないか、本来のメジャーカップの役割を担っていたに違いない。料理道具のボウルとして、水を張りゆでる前の菜っ葉の水揚げにもよく使う、そんな普段使いの姿がよく似合う。

好きな映画のひとつでもある『バベットの晩餐会』。すべてのシーンが好きだけれど、特に荒涼とした景色の中、吹きっさらしの風になびく魚の干物。簡素な暮らしをする姉妹が、水を張った陶器の中でその干物をほぐしている。木のテーブルの引き出しから、干からびて硬そうなパンをちぎりながら加える。ああ、こうしてふやかして煮込んでスープにするのだ……と、せつなさを思うシーンがあった。ベルギーのアンティークマーケットで求めたと聞いた味わい深い片口に、いつもその絵を重ねては、栄養満点な総菜を盛る自分に苦笑することがある。たっぷりとした気取りのないかたちと素朴な素材感は、何を入れても動じない。バスケット代わりに、ジャガイモだったり素朴なリンゴをごろごろと盛っても絵になる。もはや枯れて味わいのある茶色の釉薬には、深い緑色の野菜料理もいいし、赤ワインで煮込んだ肉料理もいい。食いしん坊には、こんなめくるめく料理が浮かぶうつわがあれば幸せだ。

 

text&styling : Midori Takahashi photo : Atsushi Kondo
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