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麹の溶け込んだ濃密な旨味と香り感じる
板倉酒造「天穏 秋ひやおろし 純米生詰原酒」

2020.9.12
<small>麹の溶け込んだ濃密な旨味と香り感じる</small><br>板倉酒造「天穏 秋ひやおろし 純米生詰原酒」

酷暑が続きますが暦の上では秋。日本酒には、季節によってそれぞれの楽しみ方があり、秋の到来を告げる「ひやおろし」という旬の酒がある。そこで、いち早くニッポンの秋を満喫するために、「ひやおろし」を紹介。秋の味覚とともにお愉しみください。

そもそもひやおろしとは?

秋の足音が近づくと、酒蔵がこぞって発売するのが「ひやおろし」という日本酒だ。ひやおろしとは、冬に仕込んだ酒に火入れという保存性を高める加熱殺菌を施し、そのまま秋まで熟成させて冷や(常温)のままタンクからおろして瓶詰めされた酒のことである。通常、火入れは酒を搾った後と、瓶詰め前あるいは瓶詰め後の二度行うが、ひやおろしは最初の一度だけに限定するため、「生詰め」に分類される。(最後だけ火入れをした酒は生貯蔵酒と呼ぶ)

しかし近年は、酒蔵の設備が向上したために、火入れをした後に常温ではなく冷蔵庫で熟成するなど、前述のひやおろしの定義に当てはまらない酒も多く、それぞれの酒蔵が考える秋の酒を、ひとくくりにしてひやおろし、あるいは「秋あがり」と名づけることが一般的になっている。また、ここ数年はファッションを先取りするように、まだ暑さ厳しい8月辺りからひやおろしを発売する蔵もあり、秋を象徴する日本酒として各蔵の商戦が目立ってきている。

いずれにせよ、ひやおろしは、しぼりたての酒をじっくり熟成させるので新酒に比べると円熟味があり、まろやかで落ち着いた味わいなのが特徴。どちらかというと常温や燗に向くような酒質が多く、秋刀魚やキノコなどを使った料理など秋の味覚とすばらしく合う。秋の夜長に、ゆっくりちびちびと飲むことをおすすめしたい。

島根・出雲
板倉酒造「天穏 秋ひやおろし 純米生詰原酒」

創業150年を迎える板倉酒造の「天穏(てんおん)」は、日蓮宗の教えにある「天が穏やかであれば窮することはない」という意味をもつ“無窮天穏”から命名された銘柄。名前の通り、穏やかな味わいで飲み飽きしない日常酒として、特に燗酒ファンから定評がある酒だ。原料はほとんど地元である奥出雲産の五百万石や佐香錦、改良雄町などを使用し、「天穏」の酒質を形成する柱である、米の中心に麹菌を生やす突き破精三日麹(一般的には二日麹)を造るなど、伝統的な出雲杜氏の技法である「山陰吟醸造り」で酒を醸す。

数あるラインアップの中でもひやおろしは、厚みのある旨味が特徴。毎年、五百万石で造った酒の中から厳選したものをじっくり貯蔵させることで、さらに口当たりがなめらかになり、深みのある味わいに。天穏のラインアップの中では、フルボディタイプの酒だ。常温で飲んだ後は、ぜひ燗酒にしたい。熱燗から燗冷ましまで、温度の変化によって表情が変わる魅力があり、どの温度帯でも楽しめるだろう。

価格|1485円(720㎖)
原料米|五百万石
精米歩合|60%
日本酒度|+4
酸度|1.8
アルコール度|18度
 

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text: Kiyoko Yamauchi photo: Kazuya Hayashi
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