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日本のとろみ食材・吉野本葛の秘めた可能性
はじまりの奈良『井上天極堂』

2020.7.28
<b>日本のとろみ食材・吉野本葛の秘めた可能性<br>はじまりの奈良『井上天極堂』</b>
葛の代表的な食べ方の葛切りは、ツルリとした舌触りが魅力。京都などでは、上品な甘さの黒蜜につけて味わう、夏の風物詩だ。乾燥タイプならば、家庭でも手軽に味わえる

初代神武天皇が宮を造られ、日本建国の地とされている奈良県。連載《はじまりの奈良》では、日本のはじまりとも言える奈良にゆかりのものや日本文化について、その専門家に話を聞いていきます。今回は古来から広く利用されてきた吉野本葛の歴史や隠された可能性について、葛ソムリエの川本あづみさんに話を伺いました。

「井上天極堂」が開発したパウンドケーキ、その名も「くずの子パウンド」。吉野本葛と大豆粉をブレンドし、小麦粉は不使用なので、小麦アレルギーのお子さまも安心して食べられる。しっとりと優しい口当たりで、奈良土産としても喜ばれている

料理中、とろみをつけたいとき、何を使うだろうか? 片栗粉? コーンスターチ? いやいや、日本古来愛用されてきた葛粉をお忘れではないだろうか?

葛とは、大豆などと同じ、つる性のマメ科の植物。夏の終わりには、赤紫色の花を結び、その美しい姿は万葉集にも読まれたほど。葛粉は、3年ほど育った根を原料として、手間と時間をたっぷりかけてつくり出される貴重なものである。高価でもあり、家庭で使われる機会は減ったが、葛には高いポテンシャルが秘められている。

そもそも、葛とは、奈良県吉野郡の吉野川上流にある地名、国栖に由来するといわれる。国栖とは、日本書紀や万葉集にも登場する古い地名であり、山に住んでいた人を国栖人ともいう。この山で生活する人々が、葛の根に含まれる効能を知り、生活に取り入れていたと考えられている。

しかし、古代日本では、葛を粉にした記録はなく、もっと原始的な摂取方法だったのだろう。本格的な葛粉生産がはじまるのは、江戸時代から。九州の農学者・大蔵永常によって『製葛禄』が書かれ、葛粉の精製方法が広まっていった。葛自体は、全国各地で育つため、静岡の掛川葛、福岡の秋月葛、宮城の白石葛、島根の西田葛などがあり、中でも有名なのが奈良の吉野葛である。

ちなみに、製葛は鉱山との縁があり、産地が近く、道具の併用や穴掘り技術の応用など共通点が多い。また、葛が鉱夫の疲労回復や栄養補給に役立っていたのかも。葛粉は、葛の根をつぶして繊維状にし、そこから得られるデンプンを何度も水にさらして精製していく。この製法を吉野晒と呼び、江戸時代から守られている。この製法には、大量の美しい水が必要であり、吉野川を抱える吉野山中が葛粉生産のメッカになったのだろうと推測できる。

2週間から1カ月間をかけて真っ白になった葛粉は塊になり、その後、切り出してから寒風にさらし、約3カ月間かけて乾燥させることで、ようやく完成となる。

こうしてつくられた葛粉は、とろみづけに使われるほか、葛切りや葛餅、胡麻豆腐などに利用されている。ちなみに、かつて、サツマイモデンプンを用いたものを葛粉と呼んでいた慣例が残るため、現在は、葛根から採れる原料のみを用いたものを吉野本葛と呼び、そのほかのデンプンを含むものを吉野葛と呼び分けている。

「吉野本葛は、奈良が誇ることができる名産品です。もっと葛粉に親しんでもらいたい」と言うのは、来年、創業150年を迎える「井上天極堂」の川本あづみさん。小学校への出前授業など、葛ソムリエとしての活動に力を入れている。

そもそも、葛根は生薬の原料として使われており、葛根湯は聞き覚えも多いはず。また、葛に多く含まれるイソフラボンから、更年期障害の予防や緩和、骨粗しょう症の予防などの作用が期待される。さらに、葛花も、乾燥させたものを水に煎じて飲めば、二日酔いにいいとか。

「葛粉100%のロールケーキやパウンドケーキなどに加え、葛根から採取した乳酸菌を使った豆乳ヨーグルトも好評です。新しい食べ方を提案することで、吉野本葛が次世代にも親しまれるようになったらうれしいですね」と川本さん。葛根のように、掘れば掘るほど大きな魅力が隠れている吉野本葛。高価だ面倒だと敬遠せず、一度、お試しいただきたい。

cooperation : Masayuki Miura text : Tatsuya Ogake photo : Kazumasa Harada
2019年7月号 特集「うまいビールはどこにある?」


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