「レストラン・ペタル・ドゥ・サクラ」横浜素材と薬膳を融合した独自フレンチ
どんな小さな店でも、どんな辺鄙な場所でも、「ホンモノ」であれば、必ず人は引き寄せられる。レストランジャーナリスト・犬養裕美子さんの《新・ニッポンのレストラン名鑑》。今回は横浜の地元食材と薬膳を融合し、ヘルシーなフランス料理を提供している「レストラン ペタル ドゥ サクラ」を紹介する。
いぬかい・ゆみこ
東京を中心に世界のレストラン事情を最前線で取材する。新しい店はもちろん、実力派シェフたちの世界での活躍もレポート。また、日本国内各地にアンテナを張り、料理や食文化を取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員。
素材と真摯に取り組む
姿勢が新しい料理をつくる
難波シェフの一日は、生産者との電話ではじまる。車で30分圏内に30近くの取引している生産者がいる。その中で誰の畑に何がどんな状態に育っているかを把握しているから、「そろそろ平本さんのカリフラワーが大きくなる頃かな、相澤さんの裏山に金柑があったっけ」など、素材が頭に浮かぶ。状況を確認してから自分で収穫しに出向くというわけだ。
「この車になって3年ですが、もう10万㎞以上走っているんですよ」。朝は5〜6カ所、時には朝昼の2回行くことも。いかにこまめに生産者の元に通っているか。それがきちんと走行距離に出ているのだ。
難波シェフはフランスで2回、計3年間修業、最後はパリの三ツ星レストランで部門シェフを務めた。2009年帰国の際には、三國清三シェフに認められ、「ミクニヨコハマ」の支配人兼料理長を任された。「三國シェフからのリクエストは“素材は地元のものを使ってほしい”でした」。
果たして横浜市に農家があるのだろうか。調べてみると横浜市の農業は意外に盛んだった。難波シェフは時間ができると生産者を訪ね、ヨコハマ素材と生産者との連携を地道に築いていった。同時に取り組んでいたのが、ヘルシーなフランス料理。薬膳に特に注目していた。
薬膳も取り入れた
自由なフレンチ
畑の野菜に毎日接することで難波シェフは野菜が身体にいいことを実感してきた。「食べものから身体の状態を知り、対処する医食同源の考え方をベースに、自分なりに取り入れていました」。そこに知人から、薬膳とヨガを独自の理論で結び付けた深井みほ子さんを紹介された。
「メニューを考えるときの素材の選び方や組み合わせ方など、ヒントがたくさん」。ぜひ、メニュー開発の会議でアドバイスをしてほしいと依頼し、横浜素材と薬膳の融合が実現した。難波シェフの料理は独自のフレンチへと進化していった。
そして2014年12月に独立。場所は泉区の相鉄いずみ野線弥生台駅からすぐ。交通の便がいいだけでなく、シェフが最もこだわった「生産者に近い場所」としても理想的だった。
店名の「ペタル ドゥ サクラ」は“さくらの花びら”という意味。シェフにとって桜は特別な意味をもつ。岡山の実家は、祖父母の代から70年、喫茶店を営んでいた。その店名が「喫茶サクラ」。偶然にも弥生台駅は桜の名所。そこで桜を店名に取り入れたのだ。
店は今年で6年目を迎えた。横浜素材はますます充実し、薬膳フレンチも次々と課題をクリアしている。以前は豆腐のような和の素材は使わなかったが、深井さんの提案で再度挑戦。「クリーム状にすればソースに使っても違和感がない」と、課題をクリアした。
ちなみに8000円のディナーコースはオープン当初10品だったが、いつの間にかひと皿増えて11品に。「ひと皿に盛り込み過ぎたんです。2皿にしてすっきりしました」とシェフ。しかも価格は据え置きという気前のよさ。美味しく身体によく、そして懐に優しい。これこそ誰もが笑顔になる理由!
レストラン ペタル ドゥ サクラ
住所|神奈川県横浜市泉区弥生台5-2
Tel|045-443-5876
営業時間|11:30〜15:00(L.O.14:00)、18:00〜22:00(L.O.21:00)
定休日|月曜
料金|ランチ4000円〜、ディナー6000円〜(税・サ別)
文=犬養裕美子 写真=前田宗晃
2020年4月号 特集「いまあらためて知りたいニッポンの美」