暮らす人と自然が共生する
由布院のまちづくり
後編|これから目指すまちの姿とは?
住民主導のまちづくりや生活観光地のパイオニアであり、地域活性化のモデルとされる大分・由布院。豊かな自然と湯煙に包まれたまちはいま、どこを目指しているのか。由布院らしさを守りながら新たな取り組みもスタートさせるなど、進化を続ける現地を訪ね、先代からバトンを受け取った4人の想いをうかがった。
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――芸術交円は、まちの各所を舞台にしたアートイベントですね。どんな変化を期待していますか。

髙田 まちの美意識を育てることで、景観が変わっていけばという提唱ではありますね。
志津野 僕たちに近い世代の人がイベントをきっかけに由布院を知って「おもしろいじゃん」という広がりができたら、由布院の魅力の再認識にもつながるのかな。
伊藤 芸術交円は2025年で3回目を迎え、淳平くんの声掛けで若い子たちが加わってくれて、すごくいい兆候が見えてきています。若い世代独特の、突き進むようなパワーを感じるから。

志津野 淳平は巻き込み上手なんですよ(笑)。たとえば20年後、50代になる方々がまちのことを考えてくれるように、いま若い世代に、由布院の気質をつなげなきゃいけないですからね。
髙田 僕たちが何かアクションを起こすことによって新しい人とつながることができるし、その姿を率先して見せることで、若い世代も気づくことがあると思うんですよね。
堀江 もちろん、皆が芸術交円を求めているわけじゃないし、チェーン店を求めている人もいる。同じ好みの人たちばかり集まるのはかえって危険だし、広がりに限界がくる。いまの由布院に観光の選択肢が多いように、多様化を許容することは必要だと思います。
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――これからの由布院が目指す姿を教えてください。
髙田 皆がまちに対して責任をもつのが一番いいと思います。たとえば田んぼをやっていれば水路、つまり環境を守ることになる。宿なら、弊社だけでなく由布院にとってプラスになるようなやり方に責任をもつ。普段からしていることが由布院の将来に寄与していくという意識ですね。
堀江 僕の場合だと、名刺に「湯守」の肩書を入れているのですが、由布院でも貴重な泉質をできるだけ守っていくという責任に尽きます。温泉をできるだけよい状態で、皆が使えるように守れば、地域のためにもなる。

伊藤 僕の店「CAFE LA RUCHE」でいうと、25年前、店の周りに木が1本もなかったところに植林して、いまは森になって木陰ができています。まさに、昔読んだ中谷健太郎さんの本にあった、まちの景観のつくり方だなと。そういうことを未来に向けて実践できたらいいのかなと思います。
髙田 僕の父親は造園もやっていて、宿をつくるにあたって「建物半分、庭半分」っていう考えをもっているんです。それはまちづくりにも当てはまるかもしれません。
志津野 あと、由布院にはライバルだけれど仲間という気風があって。「うちもいいけれど、あちらの宿にも泊まってみてくださいね」とか。すごくいいまちだな、人が温かいなと思いますし、そうした人間味も受け継がれていくといいですね。
髙田 まさしく、由布院って詰まるところ“人”じゃないかと思います。僕をたずねてお客さまが来たら、できるだけここの3人とも引き合わせる。僕だけでなく4人と会ったら、お客さまも心を“グワシッ!”ってつかまれるんですよ(笑)。そこから何かはじまるのが自然でいい。

堀江 もともと由布院って、ゆっくり温泉で休んで、まちをフラフラすると美味しいコーヒー店があったりするまちづくりの先駆け。いまは由布院がブランド化して、ビジネス目的の流れをもう止められない。この状況でどう動いていくかがこれからの課題だし、この現象は各地の観光地で起こっていることだと思うので、ほかの地域の人たちの見本になれると一番いいよね。
髙田 由布院のまちづくりは住民主導だから、仕掛ける側のスタンスが来る人の“鏡”になりますよね。中谷健太郎さんや溝口薫平さんたちが頑張っていたときは、彼らの気質が表現されてきたように、いまの状況は少なからず僕らの考えが入っていると思います。
志津野 芸術交円など僕たちでつくり上げるイベントを通して、共感してくれる人がどんどん集まっていけばうれしいです。それが 10年続いていくと、もっと見えてくるものがあるかもしれませんね。
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「由布院芸術交円」、2025年もやります!



由布院芸術交円2025
期間|10月初旬~12月下旬
会場|由布院温泉の各旅館、美術館など
Instagram|@geijutsu.kohen ※詳細は順次公開予定
まちの好循環
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text: Aya Honjo photo: Azusa Shigenobu
2025年10月号「行きたいまち、住みたいまち。/九州」



































