TRAVEL

熊本・南小国《喫茶 竹の熊》
里山を未来につなぐ“新嘗祭”
最先端のまちづくりがローカルからはじまる。|前編

2025.2.27 PR
熊本・南小国《喫茶 竹の熊》<br>里山を未来につなぐ“新嘗祭”<br><small>最先端のまちづくりがローカルからはじまる。|前編</small>

緑豊かな田園風景が広がる、熊本・南小国「喫茶 竹の熊」を会場に、この秋も新嘗祭にいなめさいが行われた。自然の恵みに感謝し、皆で喜びを分かち合う祭り。そこには地域の自然、文化、人が一体となり、次の世代へ向けて新しい価値を掘り起こし発信していく、美しい里山の姿があった。

line

「新嘗祭」から未来につなぐ
里山の自然の恵みと文化

フィナーレの餅まきで盛り上がりは最高潮に。水庭の上に建つ板の間から、穴井さんや神楽の舞い手、祭りに携わった方々が、地元のお母さんたちが丸めた2000個の餅をまいた

熊本県の北部、阿蘇外輪山の裾野に位置する南小国町。この地で2024年11月23日、新嘗祭が行われた。新嘗祭とは五穀豊穣や収穫を神さまに感謝する宮中祭祀の中で最も重要なもの。現在も、全国の神社などで執り行われているが、南小国町での開催は2回目という「新しい祭り」だ。

主催するのは「穴井木材工場」の3代目で、林業を基盤にプロダクトや企画を開発する「Foreque」やライフスタイルブランド「FIL」、そして「喫茶 竹の熊」を手掛ける穴井俊輔さん。

(左)穴井俊輔さん (右)穴井里奈さん
2016年、「Foreque」創業。ブランド「FIL」、「喫茶 竹の熊」など、地域の林業や小国杉を循環させるプロダクト開発や活動を行う。中学校での「林業×プログラミング教育」など、地元の子どもたちのための木育にも情熱を注ぐ

祭りをはじめた理由を聞くと、喫茶 竹の熊の上棟式で行った餅まきで、里山の皆と喜びを分け合うことに幸せを感じたこと、さらに小国杉を活用する取り組みが評価され、妻の里奈さんが農林水産大臣賞を受賞し、明治神宮で表彰されたこともきっかけになったという。

「表彰を機に明治神宮へお米を奉納させていただき、元来の新嘗祭へ参列し、恵みへの感謝をかたちにしたいと思うようになりました」と穴井さん。こうして2023年、喫茶 竹の熊で新嘗祭がはじまった。穴井さんは語る。「私たちなりの新嘗祭ですが、自然への敬意を里山の日常として表現し、この地に根づいた信仰や精神を子どもたちに受け継いでいけたらと思います」

line

地域の自然、文化、人を一体に。

演目は、神楽の舞い手が、猿田彦大神を道案内に高天原(現在の宮崎)へ下るという、祝い事で披露される「天之注連(てんのしめ)」

会場は喫茶 竹の熊の前に広がる、刈り取りを終えた田んぼ。ここでは昨年、穴井さん夫妻が地域の子どもたちと一緒に米を栽培した。

瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が高さ10mの竹に上り、天からの恵みとして餅をまくシーンに拍手喝采 

「子どもたちには、お米は食べるだけのものではなく、神さまに捧げる神聖で大切な存在でもあると伝えたくて。それを自らつくることで、南小国や日本を誇りに思ってもらえたらうれしい」と里奈さん。地元の小学生は稲を種から育てる授業があり、穴井さんたちも九州各地の子どもたちと米づくりを実施。この活動はFILが掲げる「本当の豊かさとは何か?」というテーマにも通じる。

子どもたちと育てた新米や新酒なども奉納

そして南小国の吉原集落で130年受け継がれる「吉原神楽」も奉納された。鈴や笛の音が響く中、五穀豊穣への感謝と里山の文化が融合した素晴らしい時間となった。

line

 

≫次の記事を読む

 

text: Nozomi Kage photo: Hiroshi Mizusaki
2025年3月号「ニッポンのまちづくり最前線」

熊本のオススメ記事

関連するテーマの人気記事