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三浦の地野菜と相模湾のしらす
|料理家・飛田和緒の美味しい地元自慢①

2024.4.17
三浦の地野菜と相模湾のしらす<br><small>|料理家・飛田和緒の美味しい地元自慢①<br></small>

真に美味しいものはローカルにあり! 旅の目的にするもよし、取り寄せて自宅で楽しむのもおすすめ。今回は料理家・飛田和緒さんが三浦半島の美味しいオススメを紹介。

飛田和緒(ひだ かずを)
東京都生まれ。相模湾を望む一軒家で暮らす。日々の暮らしから生まれる身近な食材でつくる料理が得意。近著に『お餅の便利帖』(東京書籍)、『台所の相談室』(KADOKAWA)など

しらすは、捕れたてをいかに早くゆで上げ、手早く冷ますかが肝心。釜揚げはふわふわ。天日で干すしらす干しは旨みが凝縮する

20年前に都会を離れて、相模湾を望む海辺に引っ越しをしました。
 
海のそばですから、魚が美味しいであろうことは想像がついていましたが、いざ家の周りをぐるぐるとめぐってみると、野菜の直売所がところどころにあることがわかりました。

子安の里 野菜直売所(小菅青果)
三浦半島で、自ら有機・減農薬で育てた野菜はどれも元気いっぱい。手書きの値札に野菜の説明と美味しい食べ方が書かれている

どこも規模は小さく種類は少ないけれど、その日に収穫した、つやつやして葉がピンピンと元気な野菜が並んでいます。その直売所めぐりが日課になって、今日はあそこまで足を延ばしてみよう、あの店番のお母さんの話はおもしろいぞと直売所にもカラーがあることがわかるように。ブロッコリーはここ、ハーブの入ったサラダ野菜のセットはあそこと、買い出しは2、3軒めぐるようになりました。「子安の里」にある野菜の直売所(小菅青果や軽部さんの店)はそのひとつです。 
 
農家さんたちは地元のシェフに頼まれて、珍しい野菜づくりに挑戦していたり、都会に流通しない昔ながらの野菜も扱っているから、大根だけでも8種類くらい、黒、赤、緑、白と色もカラフルで、大きさも大小さまざま。たのくろ豆、おかのり、はやとうりなどは、知っていた味だけれど家で調理したことはなかったので、旬が待ち通しい。その美味しい食べ方を教えていただくのも貴重な時間になっています。

すかなごっそ
近隣の農家の朝採れ野菜や花、葉山牛をはじめとする国産牛、手づくり惣菜なども並ぶ。関口牧場のソフトクリームもおすすめ

JAよこすか葉山が手掛ける「すかなごっそ」には、近隣の農家さんの野菜がずらりと並びます。数年前、葉山にも地場野菜や地元のお肉、レストランのお惣菜、お弁当、お菓子などが売っている「葉山ステーション」ができました。いくつもの農家さんから集められた野菜があるので、ここにも野菜を目当てに出掛け、コーヒーブレイクしたり、おやつを買って食べたり。高速道路の乗り降りがしやすい場所なので、仕事仲間や友人たちが来るときにはここを紹介すると喜ばれます。

葉山ステーション
地場野菜に海産物、葉山牛、パンにお菓子など葉山名物が勢揃い。駐車場も広く、休憩を兼ねて気軽に立ち寄れる道の駅的な存在

越してきた当初は、撮影前にスタッフを車に乗せて、直売所や魚屋さん、生みたての卵を買いに養鶏所に行くツアーをしてから仕事にかかることもしていました。仕事が終わってからでは直売所などは閉まってしまうので、早朝に集合して皆さんに小旅行してもらったこともありましたっけ。いまはもう皆さんご存じなので、私が行かなくても個々に買い物を済ませて、我が家に集合。地元めぐりを満喫してくださっています。

丸吉商店
プロの料理人からも信頼が厚い鮮魚店。目の前の佐島漁港で水揚げされたばかりの魚介類に、春先は生ワカメ、夏は地ダコも並ぶ

魚は、近所にタコで有名な佐島港があるので、新鮮な魚を手に入れることができます。「丸吉商店」さんはそのひとつ。でもはじめは地元の魚屋さんで買うことに慣れませんでした。鰹やメバチマグロ、鯛、金目などの大きな魚は丸ごと、または半身で店先に並び、さすがにこの大きさの魚はお願いすれば三枚おろしまではしてくれますが、切り身では売ってくれません。小ぶりな鯵や鰯は何本かで買い、自分で三枚におろしたりしなければなりません。最初は新鮮な魚ってこういうことかと、珍しがって頑張ってさばいていました。生タコをゆでたり、ナマコをさばいてみたり、はじめて尽くし、驚きの連続でした。
 
それでも毎日さばくわけではないので、なかなか魚の扱いがうまくいかずに困っていた頃、いろいろ希望を聞いてくれる魚屋さんが見つかりました。といってもこちらも切り身は売っていませんが、刺身用にさばいてくれたり、うろこと内臓だけ取ってほしいという頼みを聞いてくれたり、何より感動したのはさばいた後の中骨や頭なども一緒に袋に入れてくれたこと。無駄なく美味しく食べることを日々学んでいます。

紋四郎丸
しらす漁、加工、販売までを行う創業120年以上の網元。一番人気の釜揚げしらす540円は、ふわっとした食感と甘みがたまらない

そして最後にしらす屋さんとの出会い。野菜の直売所で「この甘長唐がらしと『紋四郎丸』のしらすを一緒に炒めて食べたら美味しい」と聞いて、「紋四郎丸???」。そこから私のしらす店めぐりがスタートしました。何軒も食べ歩いた結果、私好みは紋四郎丸のしらすと納得して、いまも毎日通うくらい大好き。我が家では、炊きたての白米に釜揚げしらすをご飯よりもたっぷりとかけて、まずそのまま。次はネギやショウガなどの薬味を添えたり、醤油をほんの少し垂らしたり、ゴマ油やオリーブオイルをかけたりもします。そして最後は「釜玉」。釜揚げと卵。ひつまぶしのように、味変えしながらたっぷり食べます。
 
しらすは同じ海で捕れたものでも加工によって味が違います。それもこの地で知ったことのひとつ。塩加減や干し具合が違うので、しらす店めぐりもおもしろいのです。海が荒れれば漁はないし、時には「今日のしらすは赤腹だけどいい?」なんて聞かれて、「なんですか赤腹って」となり、たくさん小海老を食べているからお腹が赤いと教わります。しらすは白いと思っているお客さんには嫌がられるとも聞きました。紋四郎丸さんは、大漁の日はしらすが新鮮なうちにいったん作業場に運んで、また漁に出るそうです。家族総出でしらすをゆでて、粗熱を取って、タコやイカの赤ちゃんが混ざっていることもあるから、干しながらそれらを一つひとつ取り除いていく。そんな様子を見ていると、しらすってこんなに丁寧に扱われているんだと胸が熱くなります。
 
地野菜も地魚も、いつ行ってもまったく同じものはありません。海や山の景色と同じで、毎日新しい姿と味を届けてくれます。

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子安の里 野菜直売所(小菅青果)
住所|神奈川県横須賀市秋谷3984-1
営業時間|9:30(火・金曜は11:00)〜16:00
定休日|月・木曜

すかなごっそ
住所|神奈川県横須賀市長井1-15-15
Tel|046-856-8314
営業時間|9:30〜18:00(11〜2月は17:00)
定休日|水曜(祝日の場合は営業)

葉山ステーション
住所|神奈川県三浦郡葉山町長柄1583-17
Tel|046-876-0880
営業時間|9:00〜19:00
定休日|水曜

丸吉商店
住所|神奈川県横須賀市佐島2-14-7
Tel|046-857-2727
営業時間|8:00〜16:00頃(天候などにより変動)
定休日|火曜(祝日は営業、前後に代休)

紋四郎丸
住所|神奈川県横須賀市秋谷1-8-5
Tel|046-856-8625
営業時間|9:00〜16:00
定休日|不定休

text: Kazuo Hida
Discover Japan 2024年3月号「口福なニッポン」

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