発酵のチカラを生かした
モダンフレンチ《TOUMIN》
東京だからこそ生まれる料理づくり|前編
吟味した食材に手間暇をかけることで、産地で食べるよりも美味しいひと皿に。新しい味わいを追求するシェフの井口和哉さんに、料理に込める想いをうかがった。
井口和哉(いぐち かずや)
「タテル ヨシノ 銀座」、「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」などでキャリアを磨き、野菜を軸にした「REVIVE KITCHEN THREE AOYAMA / restaurant RK」でシェフを務めた
東京・西麻布に昨年10月にオープンした「TOUMIN」。これまで数々のフレンチの名店でキャリアを積み、野菜を軸にしたフレンチレストランでも腕を振るってきたシェフ・井口和哉さんがたどり着いたテーマが、日本の旬の食材と発酵だ。食材はもちろん、うつわ、グラス、カトラリーなど細部に至るまで、日本のものにこだわっている。
「他店でシェフをしていた頃はキャビア、フォアグラ、トリュフといったフランス料理の定番食材も使っていましたが、お客さまから『フォアグラが美味しかった』と言われたときに、実はどこまで喜んでいいのか腑に落ちなかったんです。僕はずっと日本で修業してきたので、生産過程を見ていない異国の食材よりも、訪れたことのある畑の野菜を褒められたほうがうれしい。胸を張って美味しいと言えますから」
月替わりの11品のおまかせコースでは井口さんの地元・兵庫から届く魚介や、修業先や青山ファーマーズマーケットで出会った生産者の野菜をふんだんに使用。生産者との交流も多く、時にはスタッフと畑へ行くことも。
「食材選びは食感と香りを意識しています。東京・青梅市にある『Ome Farm』は固定種の野菜をつくっていて、とてもエレガント。神奈川・小田原市に畑がある『グリーンバスケットジャパン』の野菜はシンプルだけど美味しい。ロジカルに野菜をつくっていて、味を決定するものは何かなど、とことん話を聞くことで食材の理解度を深め、メニューを考える判断材料にしています」
そして料理をする上で井口さんが大切にしている信条が、手間暇をかけて食材がもつ個性や魅力を最大限に引き出すこと。 コースには多彩な野菜が登場するが、生の状態で提供することはほとんどないという。
「わざわざ東京で食べてもらうからには、ローカル食材を現地で食べるよりも美味しくしないと意味がありません。自分たちの畑をもっていた『ミシェル・ブラス』での経験から、生の野菜は畑で食べる瞬間が一番美味しいことを実感していて。東京は全国から素晴らしい食材が集まりますが、配送に時間がかかるので、一番いい状態にするために加工する。それが東京で料理をするひとつの答えだと思っています」
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旬の食材のピュアな味わい
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text: Rie Ochi photo: Maiko Fukui
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