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麻布台ヒルズ《Florilège/フロリレージュ》
世界が憧れるフレンチの名店の新展開
川手寛康シェフが考える美味しいニッポン

2024.4.8
麻布台ヒルズ《Florilège/フロリレージュ》<br><small>世界が憧れるフレンチの名店の新展開<br>川手寛康シェフが考える美味しいニッポン</small>

世界でも高い評価を得ている日本のトップシェフ・川手寛康さんが麻布台ヒルズに拠点を移し、新たに展開するフランス料理「Florilège/フロリレージュ」とは? 川手さんがいま考える、日本が誇る“美味しい”についてうかがった。

麻布台ヒルズを新拠点に選んだ理由を環境のよさと語る川手シェフ。「広いキッチン、最新の空調など整った環境はスタッフの働きやすさに、ひいては味につながります」

ミシュランガイド6年連続二つ星、ミシュラングリーンスターを獲得、2023年の「世界のベストレストラン50」では27位にランクインした、川手寛康シェフ率いる「フロリレージュ」。名実ともに日本を代表するレストランが、商業施設やホテル、オフィス、住宅、インターナショナルスクールなどを備えた複合施設「麻布台ヒルズ」に移転オープンした。
 
フロリレージュがあるのは、ヘザウィック・スタジオが手掛けた有機的なデザインが特徴のガーデンプラザD2階。1フロアに1店だけの贅沢なつくりで、中庭のようなレセプションから門をくぐり、細いアプローチを抜けると、ダイニングスペースが広がっている。ダイニングは、ゲストが長さ約15mのひとつの大きなテーブルを囲み、シェフが目の前で料理をつくる「ターブルドット」のスタイル。まるでシェフの邸宅に招かれたような店内の動線や演出に、胸が高鳴る。
 
生まれも育ちも東京の川手シェフが東京の「新たな街」ともいえる麻布台ヒルズで提供するフランス料理は、コースのメインを肉か魚ではなく、肉か野菜から選ぶのが大きな特徴だ。
 
「私たちが掲げるプラントベースは、肉や魚を使わないという意味ではありません。あくまで野菜を中心とした料理。野菜を美味しく食べるために肉や魚が必要であれば添えるし、必要なければ使いません。通常フランス料理では、肉の付け合わせに野菜がありますが、うちでは野菜の付け合わせとして肉や魚を添えるイメージです」 

大根のパイ。煎り酒と生クリームのソース、クレソンオイルでいただく。付け合わせはフレッシュなクレソンのブーケ。合わせたのは、根菜のコクをリンクさせたビーツのノンアルコールカクテル。トレビスを加え、苦みをアクセントに

たとえば、大根のパイ。こちらは大根のコンフィと、ニョッキのように重めに仕上げた大根のペーストをパイに包んで揚げたもので、クレソンのオイルと自家製の煎り酒と生クリームでつくったソースが添えられる。トッピングは、昆布のパウダーに、キャビアならぬとんぶり。ひと皿の中に食材の旨みやコクが複雑に重なり合う。

ほうれん草のタコスと、赤牛のタルタルをビーフジャーキーで挟んだお肉のタコス。沖縄の青唐がらしでつくったサルサ風ソースにディップしながら、手でどうぞ。ドリンクは、山椒やカカオニブの風味を利かせたトマトベース

一方、2種のタコスにはビーフジャーキーや赤牛を、春菊の皿にはあんきもを使用。どちらも主役である野菜のほうが手前に盛りつけられている。

春菊のシートの中には大鰐(おおわに)温泉もやしとジャガイモが。花山椒のピクルスがのった一品は、ショウガゼリーに包まれたあんきも。美しく重ねられた輪花の白皿は、伊万里鍋島焼の畑萬陶苑と川手シェフがコラボしたオリジナル

国内はもちろん海外のゲストも注目する新生「フロリレージュ」において、野菜を中心にするコンセプトにした理由を川手シェフにうかがった。
 
「海外でイベントをしたときに、『日本らしい食材とはなんだろう?』と考える機会がありました。というのも、大きな都市であれば、前日の発注で豊洲市場から日本の食材を仕入れることができるので、日本と同様のメニューをつくることは可能です。ただ、手に入れられず困った経験があるのが野菜。野菜は世界中どこにでもあるので現地調達が基本です。もちろんどの国の野菜も美味しく、その土地らしい野菜の味がしますが、僕の料理にはフィットしないことがありました。それを考えると、野菜こそ日本らしい食材ではないかと考えました。日本の野菜は本当に美味しい。味やバリエーションを含めてこんなに野菜が豊かな国はほかにないと思います」
 
野菜中心というと、素材に寄り添った“シンプルさ”を連想しがちだが、川手シェフの料理はシンプルやナチュラルとは対極にある。膨大な手間と時間をかけ、テクニックを費やし、丹念に丹念につくり上げていく、ある意味で「食材に寄り添わない」料理だ。
 
「日本では手をかけ過ぎないシンプルな料理が美徳とされる傾向がありますが、僕はそのタイプの料理人ではありません。シンプルに見えるけれど、裏では一生懸命手間暇をかけた料理。そこに料理人としてのプライドをもっています」

アルコールだけでなく、ノンアルコールのペアリングにも定評がある。プラントベースの料理に合わせてクロモジやユズといった日本の風土を醸す食材を重ねる、奥行きのある味わいのノンアルコールカクテルを提供

使用する野菜は、産地や生産者をあえてうたっていないが、川手シェフ自ら地方に足を運んで直接取引をすることも多い。スタッフにも常に「いま、美味しい野菜は何?」と問い、野菜からインスピレーションを得てメニューを組み立てていくという。
 
いま江戸料理にも興味があるという。江戸のグルマンたちを楽しませた江戸料理は、全国から集まった食材と醤油や味噌、みりんといった加工された調味料を使い、料理人がその腕を振るって、手間をかけ仕事されたもの。料理人の技により、食材そのまま以上の美味しさを追求したものだ。
 
「誰でも食べたことがある食材を使って、誰も想像したことのない味をつくりたい。だから、僕の料理に皆さんが知らない食材はひとつも出てこないと思います。ローカルのレストランなら、その場所でしか味わえない特別な食材を提供することが特徴になりますが、東京のレストランである我々が同じことをしても意味がない。馴染みのある食材に『フロリレージュ』というフィルターを通し、感動の味に仕上げることができれば、ゲストの記憶に残るのではないかと。それが最大の強みになると考えました」 
 
常に進化を続け、東京のいまを体現するフロリレージュ。川手シェフが提供する感動体験は、国境を越えて多くの人の心を惹きつけている。

内装は、移転前の店舗や台湾の「logy」も担当した「エスキス」の甲斐晋介さん。落ち着きのあるインテリアにゆったりと席が配置されている。ほかに4名掛けのテーブル席がふたつ

フロリレージュ
住所|東京都港区虎ノ門5-10-7 麻布台ヒルズ ガーデンプラザD 2階
Tel|03-6435-8018
営業時間|ランチ12:00・12:30〜15:00、ディナー18:00・18:30〜22:00
定休日|月曜、火曜ランチ、日曜ディナーほか不定休あり
料金|ランチコース1万円(税込、サ別)、ディナーコース2万円(税込、サ別)※予約はオンラインにて
www.aoyama-florilege.jp

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川手寛康(かわて ひろやす)
1978年生まれ、東京都出身。西麻布「ル・ブルギニオン」、フランスの「ル・ジャルダン・デ・サンス」、白金台「カンテサンス」を経て、2009年、南青山に「フロリレージュ」オープン。その後神宮前に移転し、2023年から麻布台ヒルズへ

text: Akiko Yamamoto photo: Maiko Fukui
Discover Japan 2024年3月号「口福なニッポン」

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