HOTEL

Ento <エントウ> 海士町
地球と人が循環する、未来の島の観光拠点〈前編〉

2021.8.29
Ento <エントウ> 海士町<br>地球と人が循環する、未来の島の観光拠点〈前編〉

むき出しの自然の中に身を置き、そこに暮らす人と触れ合う。壮大な時間の延長線上にポツンと立つ自分を見つめ、地球と人の関係を思い描く……。そんな体験の拠点となるホテル「Ento(エントウ)」がこの夏、島根県・隠岐郡海士町に誕生しました。

海士町(あまちょう)
後鳥羽上皇が配流された島として知られ、隠岐神社などゆかりの史跡がある。「いわがき春香」などの特産品ほか、教育魅力化などの先進的な地域づくりで知られる。
面積|33.44㎢
人口|2247人(2021年4月1日現在)

島の100年後をつくるジオホテル

ジオパークとは?
大地の成り立ちとそこに息づく生態系、その地に暮らす人の営みの関係性を読み解き、持続可能な発展や資源の保全・活用を考える場。そこには過去・現在・未来という大きな流れの中に生きる自分を知るきっかけがある。

フェリーで菱浦港に近づくと、ちょうど正面にEntô がポツンと見えてくる。まさに島前地域、そして地球への玄関口。左の建物が新築の別館NEST、右が本館BASEだ

先進的な町づくりで知られる島根県・隠岐諸島の海士町(中ノ島)に今年7月、新たな観光の拠点「Entô(エントウ)」がオープンした。Entôには「遠島」、「縁島」、「遠灯」など多様な意味を込めている。そして「島流し」という意味をもつ。島唯一のホテル「マリンポートホテル海士」の別館を建て替え、本館も一部リニューアル。宿泊施設と隠岐ユネスコ世界ジオパーク拠点施設のふたつを兼ねた複合施設へと生まれ変わった。

全客室から島前カルデラの絶景が望める。刻一刻と変わる風景をフレームにとらえ、地球にぽつんと生かされていることを実感。この景色を守り続ける観光がはじまる

設計はMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO、ビジュアルアイデンティティは日本デザインセンターの三澤遥氏が担当した。設計コンセプトは「honest(ありのまま)」と「seamless(境目のない)」。余計なものを足さず、飾らない自然のままの姿であること。そして訪れる人と暮らす人が自然に交わる境界のない場所であること。島の一番の魅力である手つかずの自然と人との触れ合いに重点を置き、余計なものは削ぎ落とした。海士町が掲げる「ないものはない(無くてもよい、大事なことはすべてここにある)」の価値観を体現した施設である。

建物、アメニティ、スタッフの装いに至るまで、景観を邪魔しないシンプルなデザインや色遣い、環境への配慮にもこだわって厳選。客室にはテレビも時計も置かず、あるのは窓いっぱいに広がる島前カルデラの絶景と快適に過ごすための最小限の設備だけ。代表の青山敦士さんいわく「ノイズを極力なくすことで、ゲストが島で受けた刺激や交流の余韻を咀嚼し、まっさらな自分に立ち返る時間と空間を提供したい」。「ない」からこそ眼前にあるものに意識が向き、「いま、そこにいること」の価値に向き合う極上の贅沢が味わえる。

関係人口に支えられてきた交流の島で、Entôが起点になって人流を生み出し、新たな営みや事業が興る未来を目指す。島、そしてジオパークの玄関口として、持続可能な地域づくりの一端を担っていく施設になりそうだ。

開放的なワンルームスイート(NEST)

テラス付きの客室は、海からの風が通り抜ける設計。客室にいてもシームレスに島の自然と一体化できる
プレート運動などの変成作用により生まれる片麻岩でできたカウンター。岩に刻まれた地球の歴史を感じることができる

“ないものはない”フロント

新棟NESTと同じCLTでできたフロントカウンター。無駄は削ぎ落とし、必要な機能だけを残した“ないものはない”デザイン

必要なモノしか“ない”空間

ジオラウンジには約4億8000万年前の三葉虫やアパトサウルスの骨などの化石が展示されている
町の取り組み「島まるごと図書館」の分館も設置し、独自にセレクトされた図書を楽しめる。地元の人も利用できるので交流も生まれる

 

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text: Louie Miura photo: Hidemori Watanabe
2021年9月号「SDGsのヒント、実はニッポン再発見でした。」

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