来て発見、読んで発見。
地域を彩る本屋の形
福岡「MINOU BOOKS & CAFE」
福岡県の博多から南東に50km、車でおよそ1時間のところにある、うきは市吉井町の中心部。もともとうきは市は宿場町として栄え、現在は白壁作りの屋敷が数多く残る。白壁通りから少し路地を入った先に、ブックカフェ「MINOU BOOKS & CAFE」はある。
地域をつなぐ文化の発信地を目指して
2015年9月、うきは市にブックカフェがオープンした。築50年くらいの魚屋を改築して建てられたという。コンクリートが打ちっぱなしの壁一面に、大きな窓が印象的だ。そして天井付近にも小窓があり、優しい太陽光がうまい具合に差し込み、店内をやわらかく照らしている。
白を基調とした店内に足を踏み入れると、向かって左側が書店、右側がカフェスペース。店内の書籍は大体1500~2000冊程度を常時取り揃えている。オーナーの石井勇さんは、「新しいジャンルの本を入れたりしながら、冊数は少しずつ増やしていきたいです」と語ってくれた。
そもそもなぜ、石井さんはこの地で本屋をはじめたのだろうか。
地元に帰ってきて、本屋を開業
オーナーの石井さんは、もともと福岡市内のブックカフェで6年間勤務。はじめは、カフェスタッフとして採用されたが、ある日突然、ブックカフェの本や雑貨の仕入れ、物販担当に。
知識ゼロの状態からスタートした石井さんは、独自の知見で少しずつ本の知識を蓄えていくことに。当時から本というよりも、本屋が好きで、いつか自分が生まれ育った土地に帰って暮らしたいと思ったこともあり、ここ、うきは市でブックカフェをはじめた。
6年間のブックカフェ勤務の後、石井さんは旅に出た。行き先は、アメリカ西海岸。
「本屋を始める前に、アメリカの西海岸で本や、音楽に触れる旅をしてきました。向こうはZINE(ZINE(ジン):個人でつくった雑誌のこと)文化が日本よりもはるかに発達していて表現の種類が豊富です。本屋も店ごとに取り扱っている商品が異なるので、ひとつとして同じカラーの本屋はありません。唯一無二の本屋をやりたいと思い、アメリカのスタイルを学びに旅に出ようと思いました」。
そして石井さんは、実は「Autumleaf」という福岡を拠点に活動をされているバンドのギター担当で音楽にも精通されていて、西海岸の音楽にも興味があったことも、そのきっかけになったよう。
石井さんがギターをつとめるバンド「autumleaf」。店内でCD販売中。
http://wood-waterrecords.com/artists/autumnleaf
本を通して、暮らしにエッセンスを
「MINOU BOOKS & CAFE」の選書のテーマは「衣食住」。
暮らしにまつわる本や哲学、アートのジャンルを多く取り揃えているが、中には面白い選書もあり、本のセレクトには石井さんのセンスの良さが感じられる。
「この棚は最近つくりました。地元のお客さんに意見をいただいて」と野草の本のコーナーをさす、石井さん。「地元の人に来てもらいたい」という気持ちもあり、お客さんの声も積極的に取り入れることを意識しているそう。実際、取材中にはオープン当時から通っていらっしゃるという常連客の素敵なご夫婦にも出合った。
カフェでは、手作りのお菓子と地元の食材で作るサンドイッチ、隣の久留米市にあるCOFFEE COUNTYのコーヒーや、地元の新川製茶の紅茶やほうじ茶などが楽しめる。
アイスコーヒー450円/季節のフルーツのマフィン 340円~(※季節のフルーツは時期によって変動あり)
寄り添いすぎないことを大切に
この言葉がMINOU BOOKS & CAFEの店づくり、選書、すべてに生きている。
昨今、その土地の文化、風土が選書に生きている書店は少なく、さらに提案が感じられるお店はなかなか見当たらない。日本全国どこにいても、ほぼみな等しく、情報が得られる環境で暮らしているので、都会だ、地方だ、なんて全く関係がない。
ここ、「MINOU BOOKS & CAFE」は、時代の風潮や流行にとらわれすぎず、地元にしっかりと根を張りながら、独自の目線で開拓していく気概の感じられる書店。
次はどんな本に出合えるのか、どんなことに気づかせてくれるのか、期待がふくらむ。再訪を誓った。
MINOU BOOKS & CAFE
住所:福岡県うきは市吉井町1137
時間:10:00~19:00
Tel:0943-76-9501
http://minoubooksandcafe.com
(text:Discover Japan photo:Kazumasa Harada)