ART

《ザ・ガーデンオリエンタル・大阪》
“おもてなし”の場を受け継ぐ
|体験できる近現代名建築

2026.5.12
《ザ・ガーデンオリエンタル・大阪》<br>“おもてなし”の場を受け継ぐ<br><small>|体験できる近現代名建築</small>

既存の建築を生かしつつ、用途を変化させて活用する「コンバージョン」。育まれてきた歴史と現在の営みが重なる空間に滞在することで、その地域の風土に出合う。そんな建築の再生・活用事例を建築史家の倉方俊輔さん監修のもとご紹介。今回は、大阪府にある「ザ・ガーデンオリエンタル・大阪」を紐解いていく。

文=倉方俊輔
大阪公立大学大学院工学研究科教授。日本近現代の建築史の研究と並行して、建築イベント「東京建築祭」の実行委員長を務めるなど、建築の価値を社会に伝える活動を行う。『建築を楽しむ教科書』(ナツメ社)など著書多数。

≪前の記事を読む

みる方向によって
「建築の顔」が異なるモダンな建築

大阪市の街中を流れる大川に近い緑地に、落ち着いた佇まいの建物が姿を見せる。現在は「ザ・ガーデンオリエンタル・大阪」として知られるこの建築は、1959(昭和34)年、大阪市の迎賓館として建てられた「旧大阪市公館」だ。戦後復興を経て、国際都市としての存在感を高めようとしていた大阪が、世界からの賓客を迎えるために用意した場だった。

〈改修前〉お客をもてなす気品をまとう外観
大阪市公館として建設された当時は、2階に市長執務室や応接室などを擁しており、正面にはお客を迎え入れる車寄せも。「迎賓館」としての役割を担っていたことが見て取れる。施設の裏手には芝生が育つ庭園も広がる

正面に立てば、祝祭の日にふさわしい構えが感じ取れる。外観は真四角なビルではなく、外壁が出たり入ったりして豊かな表情をつくり出している。バルコニーと手すりが抑揚を与え、クリーム色のタイルも瀟洒な邸宅を思わせる。長く延びた車寄せも、迎賓施設としての性格を明確にしている。

方向によって「建築の顔」が変化する
約1万3000㎡のガーデンには、芝生が生い茂り、都市部にいるとは思えない開放的な空間が広がる。ガーデン側からは、横に延びるバルコニーや、心地よい風と眺めを楽しむことができるルーフトップの存在も確認することができる

背後へ回ると、また異なる印象に出合う。芝生の庭の向こうに大川が流れ、横に延びるバルコニーが、その風景と穏やかに呼応する。向き合う場所や機能に応じて建築の「顔」をつくり分ける姿勢は、明治以来の洋館にも通じるが、本作ではそれが戦後らしいモダンな感覚で更新されている。

戦後の迎賓施設としての性格を端的に示すのが、階段である。特別にデザインされた照明器具が下がり、それを取り巻く階段の手すりが、玄関ホールから屋上テラスまで優雅なカーブを描く。ただし、照明器具の最上部に控えめに添えられた白鳥のレリーフを除けば、過度な装飾は見られない。工業製品ながら質の高い工芸性を備えたしつらえが、戦前の洋館とは異なるもてなしの感覚を生み出している。

大阪市の迎賓館から
ラウンジ・ブライダル・イベント施設へ

〈改修後〉迎賓館時代の華やかさが残る「ザ ボールルーム」
日本庭園を望む「ザ ボール ルーム」。日本の伝統的な天井様式である「格天井」に、幾何学模様の装飾・アール・デコの照明を組み合わせた、モダンジャパニーズな雰囲気が特徴。パーティや会議など、幅広く活用できる

大阪市公館としての役割が薄れると、この建築は次第に人々の記憶から遠ざかっていった。転機となったのは、民間による再生・活用の選択である。現在は結婚式場やレストランとして使われ、一般の人々が日常的に足を運ぶ場所へと姿を変えている。現在の使われ方においても、建築の骨格は生かされている。間取りやインテリアには手が加えられているが、その基調は1959年当時の感覚を踏まえたものだ。「モダンな迎賓館」という全国的にもまれな個性が、ここならではの雰囲気を支えている。

車寄せを入るとホールがあり、屋上まで延びる階段へと続く。右手部分は2層吹き抜けのザ ボールルームで、大阪市公館時代から現在まで、最大のレセプション空間として使われてきた。その他の主室は庭に面して連なり、2階のバルコニーがそれらを結んでいる

戦前からの勘所を押さえつつ、戦後にふさわしい迎賓館を設計したのが建築家・竹腰健造である。1933(昭和8)年、建築家の長谷部鋭吉とともに長谷部・竹腰建築事務所を創業し、現在の日建設計の前身である日本建設産業の初代社長を務めた建築家だ。世界からの賓客を迎え、都市としての存在感を示そうとした当時の大阪市の意図に、設計で応えたのだ。

大阪市内にはほかにも、竹腰と長谷部がかかわった、戦前の「三井住友銀行大阪本店ビル」や「大阪証券取引所ビル」、「日本生命保険相互会社本館」などが残っている。併せてめぐることで、この建築の位置づけが、より明確になる。

line

〈概要〉
日米市長及び商工会議所会頭会議が1959年に大阪市で開催されることを機に、迎賓館、大阪市公館として建設された。

〈建築データ〉
竣工年|1959年
改修年|2014年
設計|竹腰健造
改修|飛島建設
構造形式|鉄骨造、鉄筋コンクリート造

〈施設データ〉
住所|大阪府大阪市都島区網島町10-35
Tel|06-6353-8810
営業時間|ラウンジ/平日11:00~17:00、土・日曜、日祝12:00~
定休日|火曜 ※館内メンテナンスによる定期休業日あり
料金|入場無料(ラウンジ、施設利用は有料)
www.gardenoriental.com

text: shunsuke kurakata
2026年3月号「訪ねる建築 暮らす建築」

大阪のオススメ記事

関連するテーマの人気記事