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陶芸家《田村一》のうつわ
|手仕事が生む唯一無二の造形。
「手」というモチーフに込められた思いとは?

2026.5.8
陶芸家《田村一》のうつわ<br>|手仕事が生む唯一無二の造形。<br><small>「手」というモチーフに込められた思いとは?</small>

2025年の春に続き、渋谷PARCOのカウンターを彩る田村一さんの作品。Discover Japan Lab.では2026年5月9日(土)~17日(日)にかけて「田村一 個展」を開催。2026年のテーマは、「手が語る」。見る人に強烈なインパクトを与える、「手」というモチーフに込められた思いをうかがった。

※個展初日の入店について、一部時間帯に整理券が必要です。詳細は公式Instagram(@discoverjapan_lab)、または公式オンラインショップをご確認ください。

Discover Japan公式オンラインショップでは、本展の一部作品を2026年5月12日(火) 20時より順次販売予定です。(店頭の販売状況により日程・内容が変更になる場合があります)

田村一(たむら・はじめ)
1973年、秋田県生まれ。早稲田大学大学院修了後、東京で作家活動を開始。2002年に栃木県益子町へ。2011年に故郷に戻り、自由な造形や秋田の情景が宿る作品を手掛ける。

田村さんがいま、“手”に着目する理由

大学で陶芸部に入り、大学院でアフォーダンスを専攻した田村一さん。アフォーダンスとはアメリカの心理学者が提唱した理論で、環境が人や動物に与える影響に着目したもの。たとえば、カップの側面に穴が開いているものが付いているとそこに指を通したくなるように、物のかたちが人の行為や仕草に影響を与えるとする考え方だ。田村さんは作陶に際し、いまもそのことを感じているという。

それにしても、田村さんがつくる手はなんと表情豊かなことか。

「なぜうつわに手を付けるのかよく聞かれるのですが、手は自分の身体の中でも一番見る回数が多い場所ですよね。それに、手は、持つ、すくう、なでるなどいろいろなことができる。そういう行為の起点としての手があり、手のかたちがうつわの原形だという思いも込めています」

田村さんが「ゆうじろう」と呼ぶワイングラス。添える手はグラスを持つかたちにした。出来上がったとき、子どもの頃から大好きだった俳優·石原裕次郎を思い浮かべたそう

手のシリーズが生まれたきっかけは、東京·神宮球場にほど近い場所での企画展のテーマが「野球」だったこと。そこで球に見立てた丸いうつわを、変化球の握り方の手で持たせた作品をつくった。以来、手のモチーフはどんどん増えていく。もともと影絵が好きだったこともあり、手を重ねてつくるキツネや鳥、指で方向を示すハンドサインがオブジェになったり、うつわやカップに手をからめたり。

そもそも、アート(art)の語源はラテン語のアルス(ars)。人の手が加わる手工芸や職人の技術を指す言葉だと田村さん。アートは手がつくり出すものなのだ。今回の展覧会では、さまざまな「手」が並ぶ。言うまでもなく、世界にひとつだけのアートである。

うつわにからむ手、オブジェとしての手、そして田村さんの手により命を与えられたかのようなうつわ。手の存在を感じる作品はいずれも偶然が重なって生まれた一点もの

一方、田村さんのうつわを特徴づけるのが、ろくろの回転から生まれる円に手を加えた独創的なかたちと、地元の天然灰を用いた揺らぎのある色合いだろう。

十数年前からつくり続けている「単」は、ろくろで成形した素地を軟らかいうちに切り、重ねたシリーズ。重ねたところがスリットになり、切り方やカットの向きで仕上がりのかたちが変わるのがおもしろい。大胆にゆがめた片口は、池から伸び出て開こうとするハスの葉のようだ。故郷の里山を愛し、植物を見ているのが好きだという田村さん。「片口だけつくって生きていたい」と笑う陶芸家の真骨頂である。

天然釉薬ならではの偶然の表情を愉しむ

地元の素材でつくった釉薬を探究する
天然灰は地元の10カ所ほどから譲り受けている。上は無農薬で育てた米のもみ殻灰、下は大根を燻していぶりがっこをつくる際に出た灰。それぞれ色の出方も質感も異なり、作品のイメージに合わせて使い分ける

いまにも膨らみそうなほど植物の息吹を感じるのは、天然灰の釉薬によるところも大きい。田村さんは、地元で出る木灰やもみ殻の灰を釉薬に用いてきた。灰といっても、出どころによってまるきり個性が違うそうだ。

「地元で原種の大根を育てている農家の友人がいます。大根を燻していぶりがっこをつくる際に出る灰を譲り受け、釉薬に使ってみたら、ものすごくよく溶けるんです」

溶けるとは、焼成の段階でガラス質となって溶けるということ。つるつるとした質感になる。反対に、溶けにくい灰は焼成するとマットな表情に。溶けにくくて白濁したピンクに発色する、溶けやすくて青磁のような表情が出るなど、灰ごとに固有の特性がある。

火花が散ったような錆色の斑点は、地元の鉱山の発掘場に残されたカラミ(銀や銅を精錬した後の廃棄物)を砕いて焼成時に混ぜ込んだもの。鉄やマンガンが溶けて模様となる

「いぶりがっこの灰は、畑に小屋を建てて地面で燻しているだけに、土が混ざっています。土は鉄分が多いので釉薬として溶けやすいのです。もう化学の世界ですね」

ほんのりピンクがかった色合いは、天然灰の銅の成分が反応してのこと。計算では生まれないグラデーションや不規則なリズムは「結果オーライ」だ。

性質の異なる天然灰を混ぜるのも興味深いと田村さん。さらにそこに、銅、鉄、マンガンなどの金属(市販の釉薬)を加えて色をつけることにも挑戦している。

自由なフォルムはろくろの確かな技術から
ろくろは手のかたちがそのまま出ると田村さん。指跡を消したり、削って落とすことはほとんどせず、どう生かすかを考える。素地は、熊本·天草の磁器の土と、より光を通す信楽陶土を混ぜたもの

「2025年秋に、薪を放り込める小さなガス窯を買ったので、火入れの仕方もいろいろ試したくて」

田村さんの楽しい実験はまだまだ続きそうだ。

 

作品ラインアップ

価格|1万6000円 サイズ|W90×D50×H130㎜ 重量|113g

灰の手
手をよく見てみると、親指とほかの4本の指は付き方や向きが異なる。それは物を持つなどの働きのために進化した人間の手のかたちであり、そこに造形美が宿る。

価格|4万円 サイズ|φ110×H130㎜ 重量|387g

グラス“ゆうじろう”
ワイングラスのかたちは、ヨーロッパのアンティークを模したもの。ろくろで成形したステムは空洞で、中に小さな磁器の球を忍ばせてあり、振るときれいな音が鳴る。

価格|1万6000円 サイズ|W120×D70×H85㎜ 重量|108g

黒の手
白と黒のツートーンカラーになると、白一色とは趣が異なる。オブジェとして飾るだけでなく、指にアクセサリーを掛ける、ガラスの筒を持たせて花を挿すなど自由に愉しんで。

価格|1万2000円 サイズ|W100×D80×H60㎜ 重量|167g

単 舟
ろくろ成形でありながら丸くないものをつくりたいという発想で生まれた「単」シリーズ。切って重ねた部分のスリットがさまざまな表情を生む。季節の花を生けても。

価格|1万5000円 サイズ|W180×D100×H75㎜ 重量|298g

葉の片口
ダイナミックな曲線と繊細な注ぎ口が印象的な片口。ろくろで成形する際、バーナーで熱を加えて水分を飛ばし、その場で手を加え、即興でかたちを決めていく。

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個展作品がオンラインで買える!

公式オンラインショップ
 

田村 一 個展
会期|2026年5月9日(土)~17日(日)
会場|Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00~21:00
定休日|不定休
※詳細は公式Instagram(@discoverjapan_lab)にてご確認ください。 
※サイズ・重量は掲載商品の実寸です。同じシリーズでも個体差があります。

text: Yukie Masumoto photo: Shiho Akiyama
2026年6月号「ウェルネス入門」

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