FOOD

徳川家のお墨付きの
やげん堀《七味唐辛子》
後編|400年続く七味唐辛子の伝統

2026.1.20
徳川家のお墨付きの<br>やげん堀《七味唐辛子》<br><small>後編|400年続く七味唐辛子の伝統</small>

塩やコショウと並んで、食卓の定番の調味料といえば七味唐辛子。実は七味唐辛子こそ、日本で生まれた先駆的な混合スパイスなのだ。しかしそもそも、なぜミックスし、なぜここまで定着したのだろう?今回、元祖として言い伝えられる、400年続く浅草にある老舗・やげん堀を訪ねた。

≪前の記事を読む

七味唐辛子誕生の地 「薬研堀」

薬研堀とは、現在の東日本橋1丁目界隈の地名。「医者町」ともいわれた。ここで商いをしていた、通称からしや徳右衛門が、漢方薬から着想したのが七味(七色)唐辛子とされる

ではなぜ、「やげん堀」という屋号となったのか。謎めいた混合香辛料の歴史をひも解いてみよう。

そもそも、やげん堀が浅草に店を構えたのは太平洋戦争さなかの1942年のことで、創業の地は、両国橋からも近い東日本橋1丁目だった。ここは江戸時代に医者や薬問屋が集まっていたが、町内には大川(隅田川)から引かれた運河があり、その堀底のゆるやかなV字状のかたちが、薬材を細かくひく薬研に似ていたため、「薬研堀」と呼ばれた。やがては、この界隈そのものが薬研堀と呼ばれるようになったと伝わる。

徳川家に献上した、
漢方薬の知識を活かして編み出した
「七色唐辛子」

現在は、薬味のうち、唐辛子2種と黒ゴマは工場で焙煎している。おおよそ10kgが入る大きな釜を直火にかけ、熟練の職人が見守りながら、ゆっくり火を入れて仕上げる

やげん堀の初代は、先の口上で徳川家に七色唐辛子を献上した「からしや徳右衛門」。彼もここ薬研堀で薬種商のような商いをしており、漢方薬の豊富な知識を生かして編み出したのが、七色唐辛子だったといわれているのだ。

言わずもがなだが、七色に欠かせない薬味は唐辛子。唐(中国)経由で伝来したような名称ではあるものの、中国や朝鮮よりも早い天文年間(1532~55年)にポルトガル人によって持ち込まれたという説もあるし、後の文禄の役(1592年)の際に加藤清正が朝鮮から持ち込んだという説もある。いずれにせよ、それまで刺激の強い香辛料を知らなかった日本人にとって、唐辛子は魅力的だったはずであり、栽培しやすいことでも全国に広まった。

ところで、徳川家康は健康オタクとして知られ、駿府城に薬草園を設けて自ら漢方薬を調合していた。孫である家光が2歳で大病したときは、家康が調合した薬で回復したという逸話も残されており、家光も漢方薬に特別な信頼を置いていたからこそ、漢方にヒントを得た七色を気に入ったのでは……などなど、想像は膨らむ。

初代からしや徳右衛門は、焙煎の度合いを違えた2種の唐辛子を使い、配合したのは麻の実、けしの実、粉山椒、陳皮、黒胡麻と、これは当代まで400年変わらない。唐辛子は、朝鮮における肉食中心の食文化に日本以上に根づいたが、対してマイルドな辛味の七色唐辛子は、野菜や魚が中心の日本の食文化によりマッチするミックススパイスだったのだろう。

江戸の「そば人気」で
七色唐辛子が広がった!?

かつて行商に使っていた担ぎ箱。7種の薬味が分かれて収められており、お客の好みの配合を聞き出しては、ブレンドし販売していた

そしてまた、江戸の「そば人気」も七色唐辛子の普及を促した。いまでこそ「関東はそば、関西はうどん」といわれるが、実は江戸初期の人々は専らうどんを食しており、そば優勢となったのは中期から。濃口醤油やみりんが江戸周辺で醸造されるようになり、きりっと濃いそばつゆが生まれると、相性ぴったりの七色も普及していったというわけだ。

「かつては7種の薬味を担ぎ箱に入れて運び、寺社の門前などで調合して売っていたそうです。病の平癒を祈願してお参りする人も多かったでしょうから、漢方的な七色は喜ばれたのでしょう」

店の奥にある調合コーナー。「山椒をちょっと多めに利かせて」など、慣れた様子でオーダーする馴染み客の姿も見られる

そんな七色はやがて全国に広まり、地域色が出てくる。やげん堀とともに「三大七味」と称される店でいえば、京都・清水寺参道にある「七味家本舗」は、粉山椒、白ゴマと黒ゴマ、青海苔、青ジソ、麻の実を使い、香りが立つのが特徴。これは澄んだつゆのうどんにいかにも合いそうだ。一方、長野・善光寺門前の「根元 八幡屋礒五郎」は生姜入りで、寒さ厳しい季節に身体を温めてくれるだろう。

相楽さんに七色のおすすめの使い方を聞くと、「まずはいつものお味噌汁に。脂の多い肉や魚、大根おろし、意外なところではバニラアイスクリームにも合います」。

浅草生まれでそば好きとして知られる作家の池波正太郎は、せいろそばの上に七色をぱらりと振りかけて辛みと風味を楽しんだそうだが、これぞ江戸の流儀。香り高い新そばで、ぜひ試してみては。

line

辛さも調合比率も選べる七味唐辛子
(右)七味唐辛子 大辛

「中辛」と比べ、2種の唐辛子が約2倍量入っており、見た目もかなり赤いが、鼻に抜ける辛みが爽快だ。近年人気の配合だという
価格|540円  内容量|20g

(左)七味唐辛子 中辛
辛みと香りのバランスがよい、スタンダードな配合。「まずはこれを使ってみると、お好みの調合も伝えやすくなりますよ」と相楽さん
価格|540円  内容量|20g
(右)七味唐辛子 小辛
唐辛子がかなり少なめのブレンド。代わりに粉山椒の辛みや香りが際立ち、爽やかな後味だ。ご飯や冷奴、肉料理などに振りかけても
価格|540円  内容量|15g

(左)七味唐辛子 特別調合
ベースの辛みを「大辛」、「中辛」、「小辛」から選び、その上で「山椒増し」、「陳皮増し+麻の実なし」、「辛味増し」など、好みの調合を選べる。通信販売でも調合可能
価格|540~756円  内容量|15~20g
贈り物にしたい、 手づくりの入れ物も
(右)木製容器各種

昔から縁起物とされる、瓢(ひさご)をかたどった入れ物。江戸時代は、中身をくり抜いた瓢箪に七味唐辛子を入れ、湿気を防いでいた。これはケヤキの材をくり抜いてつくられている
価格|2520円 ※七味・一味いずれか一袋付

(左)特製ぬり缶
そば屋で目にするような容器だが、そのほとんどはアルミ製。これは昔ながらのブリキ製で、職人が一つひとつ手作業でつくっている。なめらかで重量感があり、塗りの仕上げも美しい
価格|1310円 ※七味・一味いずれか一袋付

やげん堀 新仲見世本店
住所|東京都台東区浅草1-28-3
Tel|03-3626-7716
営業時間|10:00~18:00
定休日|不定休
https://yagenbori.jp/

 

〈やげん堀の売り口上〉
そもそもやげん堀の七味唐辛子とは
由緒いわれ故事来歴がございます。
今を去ること三百有余年前……
かの徳川の御名君と謳われた
三代将軍家光公の御時代は
寛永二年長月
菊の御宴のみきりに
将軍家に献上奉りますれば
ことのほかの御感に入り
徳川の徳の字を賜って
山徳の商標を付ける事と相成りました。
やげん堀の七味唐辛子とは
何が入っているかと申しますと
まず最初に取り合わせまするは
武州川越の名産で黒胡麻
次は紀州有田名産でみかんの粉
江戸内藤新宿は八ツ房の焼き唐辛子
四国へ参りまして高松の国は唐辛子の粉
東海道を上りまして静岡は浅倉の粉山椒
大和のけしの実
野州日光の名産で麻の実
七色が七色ともに香り
大辛・中辛・小辛に辛ぬき
名にしおう、お江戸のやげん堀
家伝で合わす七色は
世の皆様のお好みに
叶う元祖の匙加減
お江戸のやげん堀の出張販売でございます。

やげん堀の《七味唐辛子》
前編|日本人のソウルスパイスのルーツを探訪
後編|400年続く七味唐辛子の伝統

text: Shiori Kitagawa photo: Atsushi Yamahira

2025年11月号「実は、スパイス天国ニッポン」

RECOMMEND

READ MORE