「強羅花扇 円かの杜」箱根で出会った泊まり心地のいい宿
箱根で極上の贅を味わいたいのなら、まず行くべきは「円かの杜(まどかのもり)」。身も心も癒してくる最高のおもてなしをぜひとも体感してほしい。
人気観光地ならではの、宿選びの難しさ
箱根。首都圏からは、最もアクセスのよいリゾートとして親しまれている。その気になれば、仕事を終えて出立しても、十分愉しめる。
山や湖を擁する景勝地でありながら、あちこちから温泉が湧出していて、それゆえ宿の数も多い。日帰りも可能だが、旅気分を満喫するには、やはり宿に泊まりたくなるのが人情というもの。
しかし、宿が多過ぎて、選ぶのに難渋するという声もしばしば聞く。あるいは高額に過ぎるとも。多くの宿がしのぎを削る箱根は、高い人気を誇ることもあり、ほかの地域に比べて割高に感じることも少なくない。
とは言え、箱根に来たからには、貧相な宿に泊まることも避けたい。かといって、目の玉が飛び出るような事態も避けたい。人気観光地ならではの、宿選びの難しさ。加えて、近年の箱根の宿は偏った特徴を見せ、それゆえ選択肢が狭くなっていることも否めない。
箱根の高級旅館。近年の傾向はスタイリッシュなおこもり宿。多くが客室で過ごすスタイルを提案する。ほかの客とは極力顔を合わさないですむよう、ロビースペースは最小限。大浴場はつくらず、部屋に露天風呂をしつらえる。朝夕の食事も個室仕様のダイニングでとるスタイル。日本旅館に慣れていない向きには、これも新鮮に映るのだろうが、真の旅館好きには、何かしら物足りない。
部屋にこもりっぱなしだと息が詰まる。売店を物色したり、ロビーラウンジでお茶を愉しんだりしてこその旅館だと思う。もちろん部屋に露天風呂が付いていれば、それはそれでうれしいが、眺望もなく、ベランダに大きな壺風呂を置いたようなものなら要らない。
何よりも、手足を存分に伸ばせるような大浴場に入りたい。それに加えての、部屋の露天風呂なら申し分ない。と、しかし、こういう宿にこれまで行き着けなかった。
が、最近になって、頃合いの宿を見つけて、足繁く箱根に通うようになった。それが「強羅花扇」という旅館で、規模も、部屋も、湯も、味も、すべてに過不足のない、極めて泊まり心地のいい宿。その宿が、同じ箱根で新しい宿をはじめたと聞き、早速足を運んだのだが、これが「強羅花扇」に勝るとも劣らない佳宿なのだ。
自然素材を取り入れた心地よい名宿
宿の名は「強羅花扇 円かの杜」。箱根ロープウェイの早雲山駅が最寄駅だ。宿へと続くアプローチを抜けて、駐車場からエレベーターで上る。と玄関先で迎えてくれるのが水車。箱根で水車。意外に思える取り合わせだが、大らかな箱根連山を背景にして、水音を立てて回る水車は、旅人の心を和ませるのに格好の役割を演じている。
水車を背にして宿に入ると、広々としたロビーが迎えてくれる。高い天井に太い梁。ふんだんに使われている木がかぐわしい香りを放ち、心が静かに安らいでゆく。
畳敷きのロビーラウンジに置かれたソファセットやアームチェアは、シンプルモダン。座り心地のよい椅子で一服した後、案内された客室は、箱根の山なみを眺められる、半露天風呂付きの広々とした部屋。ここにも木の香りが満ち、ほっこりと寛げる。
荷を解いたら、まずは大浴場へ。別棟につくられた風呂は2カ所。どちらも、内湯からも露天風呂からも箱根らしい山の眺めが得られる。温泉旅館はかくあるべし。宿に着いてから、ひと風呂浴びるまで、何度もそう思った。ことさらに気取ることなく、上質のしつらえを備えながら、真の安らぎ、寛ぎを与えてくれる。
それは朝夕の食事にも通じる。季節の移ろいを食膳に映しながらも、華美に過ぎることなく、本当に美味しいものだけをうつわに盛る。見るだに新鮮な海の幸、旬を切り取った、あしらいの菜。宿の名物ともいえる選りすぐった飛騨牛。何を食べても美味しい。
部屋も風呂も食事も、すべてが自然体ながら、ほどよく気分を高揚させる宿。故郷に帰ったかのような懐かしさと、ハレの舞台をも感じさせる宿。「円かの杜」はその名が表す通り、心を円く和ませてくれる。
住所:神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-862
Tel:0460-82-4100
客室数:20室
料金:1泊2食4万150円〜(2名1室1名分税込入湯税込)
カード:AMEX、DINERS、JCB、MASTER、VISAなど
チェックイン:14:00/チェックアウト:11:00
www.gorahanaougi.com/madokanomori
文=柏井壽 写真=宮地工
2018年Discover Japan Travel「一度は泊まりたい ニッポンの一流ホテル&名旅館」より
大正ロマンな滞在「翠松園」
「ソラノホテル」