木乃婦/きのぶ 【後編】
時代に合わせて進化する、いまこそ訪れたい京都の料亭
日本文化の担い手である料亭は、長く愛される名物や工夫に富む新味でいつの時代も私たちを楽しませてくれます。外食の価値にあらためて気づかされたいまだからこそ、京の名店に足を運びたいところ。今回は、日本の食文化のさらなる可能性を追求する「木乃婦」を前後編記事にて徹底解剖しました。
細部にまで心を配る個室空間
新町通仏光寺を下がった西側に、昭和10年、畳10畳ほどの仕出し屋をはじめた初代は仕事に精を出し、勢い盛んな近隣の商人の声に応えるかたちで、会食のできる店へと拡大している。2代目の頃にはそれまで畳敷きだった個室の大半を、当時としては珍しい掘りごたつ席に替えた。きっかけは新潟のとある店を訪れた際に利用した個室。「そこの2階に円卓を据えた掘りごたつ席があって、部屋から庭も望めたそうです。父はそこをとても気に入って、現在の離れに再現しました」。2代目が新潟のその一室を気に入ったように、新調した席は客の評判も上々。祇園祭の鉾町に立地する木乃婦は、祭の時期になると毎年多忙を極めるが、それが終わるとすぐに一室、また一室と手を入れた。いまでは多くの店で見られる掘りごたつ席を、どこよりも早く取り入れたのは「フロンティア精神に富んでいたからでしょうか」と高橋さん。江戸時代から続く老舗もある京都で、昭和10年創業の木乃婦はある意味新規性が強みになる。思い立ったら即実行。近年は、陰翳礼讃のごとく照度を落としたテーブル席を新調している。
進取の気性は当代も受け継ぎ、最近は懐石に合う国産ワインをマンズワインと開発。3年がかりで白ワイン「しふく」を完成させている。ヴィンテージをつけないのには訳がある。「お茶席で使うことも想定しているからです。お茶席は素晴らしいお道具が揃いますが、それを見てこのお道具は何年のものですかとは皆さんおたずねになりません。想像を膨らませて楽しむ、そういう日本の文化をこのワインにも反映しました」。ちなみに銘柄の「しふく」は漢字に直すと「仕覆」。茶道具を包む袋の名を冠している。
祖父の代からの仕出しは、昨年から種類がさらに増した。外食がままならない日々が続く中、常連客からの注文は多岐に富み、それらに対応するうちに出汁の種類まで7種に増えたという。手間を惜しまず、客の要望に丁寧に応える姿勢は創業の頃から何ひとつ変わらず、「自宅で楽しめる味を」のリクエストから今夏販売をはじめた瓶詰もその延長線上にある。瓶詰の内容は時期によって異なるが、昆布の佃煮は試行錯誤しながら見出した製法でまろやかな風味に炊き上がっている。
「今後は時代に寄り添う店づくりを、京都の料理人とともに進めたい」と高橋さん。京都の老舗は料理人同士の交流も盛んで、日本の食と文化を守る幹は太い。そんな京都で今秋、美味しいものに触れるひとときを過ごしたい。
時代に合わせた工夫
木乃婦
住所|京都府京都市下京区新町通仏光寺下ル岩戸山町416
Tel|075-352-0001
営業時間|12:00〜15:00(L.O.13:30)、18:00〜21:30(L.O.19:30)
定休日|不定休
※要予約
季節の会席1万5000〜3万円、ミニ会席5000〜7000円、ワイン献立2万5000〜3万5000円(ワイン代別)、京のお弁当(部屋で食事)5000〜1万円、お弁当(持ち帰り)洛中三条3500円、洛中五条5000円、洛中御所7000〜1万円、仕出し2万円〜(京都市内一円)
http://www.kinobu.co.jp/
text: Mayumi Furuichi photo: Toshihiko Takenaka
Discover Japan 2021年10月号「秘密の京都?日本の新定番?」