FOOD

木乃婦/きのぶ 【前編】
時代に合わせて進化する、いまこそ訪れたい京都の料亭

2021.11.8
木乃婦/きのぶ 【前編】<br><small>時代に合わせて進化する、いまこそ訪れたい京都の料亭</small>
鱧の木屋町焼き。伝統的な鱧料理の調理法を見直し、ハモの旨みが染み込んだすり身のような食感に焼き上げている。新たな名物として注目を集め、秋は一度炊いてから揚げた渋皮栗を添えて季節感を出している

日本文化の担い手である料亭は、長く愛される名物や工夫に富む新味でいつの時代も私たちを楽しませてくれます。外食の価値にあらためて気づかされたいまだからこそ、京の名店に足を運びたいところ。今回は、日本の食文化のさらなる可能性を追求する「木乃婦」を前後編記事にて徹底解剖しました。

背景のあるコースの顔ぶれ

コースの一品目として供される無花果と菱蟹のジュレ掛け。先付の野菜や果物の量が、魚介とほぼ同量なのも最近の傾向とか。無花果本来の風味をより強く感じるように調理されている

ハレの日の和食を代表する懐石は、伝統的な料理のイメージをもたれがちだが、実は世間の耳目を集めるムーブメントがこれまで何度も起きている。木乃婦の3代目当主・高橋拓児さんはその旗振り役の一人。東京の「吉兆」で5年修業を積み、その間にフレンチの名店を食べ歩きながらワインを独学、家業に戻ってからは当時の京都になかったワインに合う懐石を考案している。試行錯誤の末、味醂を控え油分を取り入れた料理はワインとうまく調和。ひとつの献立として確立している。いまから四半世紀前に懐石の可能性を広げたのは、その後業界に起こる変化ののろしだったのかもしれない。看板料理である「フカヒレと胡麻豆腐の鍋」は、鰹と昆布で出汁をとるのが当たり前の世界に、その基本にさえテコ入れをする柔軟さをもたらし、水物はそれまで主流だった生の果物のみから、見栄えのよいデザートへとさま変わりした。

賀茂なすと淡路雲丹を焼いたもの。賀茂なすは一度真っ黒になるまで焼いて甘みを引き出し、皮をむいてから再度焼き上げる。淡路雲丹はソースのような役割を果たす。うつわは乾山の錆び絵絵替わり角皿
向付はスズキとマグロの2種盛り。氷を張ったうつわで涼やかに供している。夏の間生い茂る葛の葉を盛りつけに用いたのは、市井の一隅にある日向と日陰を表現して。京焼のうつわに緑が映えている

2005年頃から京都の老舗料亭の主人らとともに、フランス人シェフと交流をもちはじめたことは、現在の献立に少なからず影響を与えている。たとえば9月の先付として供する「賀茂なすと淡路雲丹」は、フレンチがベースにあるという。「みずみずしい淡路ウニをフレンチのソースのように使おうと思いました。塩をあて、旨みを凝縮して、賀茂なすに合わせています」と高橋さん。肉厚の賀茂なすは油で揚げてから焼くのが一般的だが、最近は和食が世界も評価する健康的な料理であることに、より意識を向けていることから、油は使わず、炭火で二度焼きする調理を試みている。同じく先付の「無花果と菱蟹のジュレ掛け」にもフレンチの技法が用いられ、内側に空洞のある無花果は脱気して中に出汁を含ませている。「素材の旨みを凝縮する脱気はフレンチから学んだ技法です。ジュレ掛けもフランス人シェフとの交流から生まれました」。

この日の煮物椀は椀種に焼いたノドグロと松茸。主役の松茸を美味しくいただくために、油分となるノドグロを小さく切って添えている。松茸の軸に細かく包丁を入れて束ねた仕事も丁寧
フカヒレと胡麻豆腐の鍋は当初、炊合せの一品として出していたそう。鍋料理へと変更するときに最高級の葛で自家製ゴマ豆腐をつくり上げ、その後に出汁を金華ハムなど動物性食材に改良している

他国の料理に影響を受け、さまざまな調理法をダイレクトに反映した時代は「いったん落ち着いた」と高橋さん。「いまはそれらをして、技術、要素、雰囲気を取り入れた新たな懐石をつくる段階に入っているように思います」。新味を創出する上でのフレームは明確にあるという。先達が感覚的に継承してきた懐石は、近年のさまざまな分析から、そのアウトラインが数値化できるようになったそうだ。総熱量1000〜1200㎉程度、コース全体の重量1㎏程度、水分量80%。これが高橋さんいわく懐石のフレーム。そこに今秋もまた食の喜びに浸れる料理が描かれる。2005年頃から京都の老舗料亭の主人らとともに、フランス人シェフと交流をもちはじめたことは、現在の献立に少なからず影響を与えている。たとえば9月の先付として供する「賀茂なすと淡路雲丹」は、フレンチがベースにあるという。「みずみずしい淡路ウニをフレンチのソースのように使おうと思いました。塩をあて、旨みを凝縮して、賀茂なすに合わせています」と高橋さん。肉厚の賀茂なすは油で揚げてから焼くのが一般的だが、最近は和食が世界も評価する健康的な料理であることに、より意識を向けていることから、油は使わず、炭火で二度焼きする調理を試みている。同じく先付の「無花果と菱蟹のジュレ掛け」にもフレンチの技法が用いられ、内側に空洞のある無花果は脱気して中に出汁を含ませている。「素材の旨みを凝縮する脱気はフレンチから学んだ技法です。ジュレ掛けもフランス人シェフとの交流から生まれました」。他国の料理に影響を受け、さまざまな調理法をダイレクトに反映した時代は「いったん落ち着いた」と高橋さん。「いまはそれらをして、技術、要素、雰囲気を取り入れた新たな懐石をつくる段階に入っているように思います」。新味を創出する上でのフレームは明確にあるという。先達が感覚的に継承してきた懐石は、近年のさまざまな分析から、そのアウトラインが数値化できるようになったそうだ。総熱量1000〜1200㎉程度、コース全体の重量1㎏程度、水分量80%。これが高橋さんいわく懐石のフレーム。そこに今秋もまた食の喜びに浸れる料理が描かれる。

鮎のご飯。田舎風の野趣あふれるだだ茶豆のご飯に、内臓を取り除いて塩焼きにした鮎を添えている。鮎が放つキュウリのような香りと、だだ茶豆の風味を楽しむ趣向。蓼酢は重湯で伸ばしている
〆の水物は杏仁で風味づけしたアイスクリーム、フレッシュな桃と巨峰、桃のコンポートのシャーベット。桃の種と杏仁から同じ香りがすることに着想を得たデザートは黄交趾に盛りつけ和の顔に

 

≫後編を読む

 
 

木乃婦
住所|京都府京都市下京区新町通仏光寺下ル岩戸山町416
Tel|075-352-0001
営業時間|12:00〜15:00(L.O.13:30)、18:00〜21:30(L.O.19:30)
定休日|不定休
※要予約
季節の会席1万5000〜3万円、ミニ会席5000〜7000円、ワイン献立2万5000〜3万5000円(ワイン代別)、京のお弁当(部屋で食事)5000〜1万円、お弁当(持ち帰り)洛中三条3500円、洛中五条5000円、洛中御所7000〜1万円、仕出し2万円〜(京都市内一円)
http://www.kinobu.co.jp/

text: Mayumi Furuichi photo: Toshihiko Takenaka
Discover Japan 2021年10月号「秘密の京都?日本の新定番?」

京都のオススメ記事

関連するテーマの人気記事