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文化庁による「CULTURE GATE to JAPAN」プロジェクト始動!
空港やオンラインを舞台に、世界に向けてまだ見ぬ日本文化と出会う喜びを発信。

2021.3.31
文化庁による「CULTURE GATE to JAPAN」プロジェクト始動!<br>空港やオンラインを舞台に、世界に向けてまだ見ぬ日本文化と出会う喜びを発信。

2021年2月、文化庁による新たな文化発信プロジェクト「CULTURE GATE to JAPAN」が始動した。全国7空港(新千歳空港、成田空港、羽田空港、関西国際空港、中部国際空港、福岡空港、那覇空港)と東京国際クルーズターミナルを舞台に、メディア芸術の分野で活躍するアーティストやクリエイターが日本各地の文化を題材にしたアート作品を展示し、日本文化の魅力を発信している。

羽田空港と成田空港の展示テーマは
「VISION GATE」

羽田空港・成田空港では2021年2月27日(土)より、「CULTURE GATE to JAPAN」の一環としての展示「VISION GATE」がスタートした。

羽田・成田空港の展示キュレーターであるパオラ・アントネッリ氏は、日本文化の特徴を「VISION」という言葉で表現。日本文化に通底する過去から未来へと続く「VISION」を伝える、8組の作家によるアート作品を、空港内とウェブサイト上で展示している(参加アーティスト一覧はページ下部参照)。

photo by Marton Perlaki

キュレーター=パオラ・アントネッリ
ニューヨーク近代美術館(MoMA)建築・デザイン部門シニア・キュレーター兼R&D部門創設ディレクター。日常の中に存在する見落とされがちなモノや習慣などにおけるデザインの影響力や、建築、アート、科学や技術の各分野とデザインの融合に関する調査・研究をライフワークとしている。第22回ミラノ・トリエンナーレに続き、2019年にはMoMAで「ブロークンネイチャー」と題した「Restorative design(回復のデザイン)」に注力した展覧会を手掛けており、近年では、建築家のネリ・オックスマンの作品による「マテリアル・エコロジー」展をキュレーション。デザイン評論家アリス・ロースソーンとの共同企画であるインスタグラム・ライブシリーズ@design.emergencyでは、すべての人にとってより良い未来を築く上でのデザインの役割を探求し、高い評価を受けている

Photo by Takashi Kawashima
羽田空港第2ターミナル2階出発エリアD保安検査場前に展示されるインスタレーション作品『Crowd Cloud』(2021)。スズキユウリ / 細井美裕が手掛けた。多数のホーンが空港の到着口で家族や友人を迎える人々のように、お互いに対話しながらサウンドを発し、音を奏でる

「カルチャーとは、過去から現在そして未来へと通じるビジョンである」とパオラ・アントネッリ氏は語る。

「外国の方が日本を訪れた際、一見対立しているように見える概念同士が、不思議な調和のもとに共存している様子に驚くことが多いといいます。その『コントラスト(対立)』と『シンセシスsynthesis(統合体)』が、日本に異国としての魅力を感じる大きな理由のひとつです。

日本は独自のクリエイティビティーで世界に知られ、最先端のテクノロジーと豊かな伝統を併せ持っています。その背景には過去と未来、古きものと新しきものを結びつけ、共存を後押しする力があります。想像力と過去の叡智を掛け合わせることで、未来へのイノベーションをつくり出す力。この『VISION』こそが、日本文化が強みとする『伝統と革新』の原動力になっているのです」

日本各地を旅することで、
多様な「VISION」に出会うことができる

「VISION」という表現で、日本文化の特徴を表現したパオラ・アントネッリ氏。

中でも「新旧の建造物」においては、古きものと新しきものを貫く日本ならではの思想を明確に感じることができる。

ここでは、日本固有の思想として「自然との共生」、「日本独特の哲学(間・道・和)」、「職人と継承(守・破・離)」の3つを例に建築物をピックアップし、日本に息づく「VISION」を垣間見てみたい。

「自然との共生」…
【旧】三佛寺投入堂(鳥取県)×【新】国立競技場(東京都)

三佛寺投入堂
国立競技場

断崖絶壁のくぼみに建つ、不思議な木造建築物・国宝「三佛寺投入堂」。

「役行者が法力により御堂を投入れた」との言い伝えから、8世紀前半に創建されたといわれるが、詳細は現在でも謎に包まれている。

山岳は、西洋では“悪魔の住む場所”とされることに対して、日本ではそこに神仏を見出し、「山岳信仰」を生みだした。三佛寺投入堂のある三徳山も、修験道の聖地。当時の日本人は山の絶壁に神仏を見出し、自然と調和する建築をつくったのである。

ひるがえって現代。
世界的な建築家・隈 研吾氏らが手掛けた、東京オリンピックのメイン会場である「国立競技場」も、実は自然に寄り添い、調和する建築だ。

隈 研吾氏が提唱する「負ける建築」は、建築が主役になるのではなく、その土地や敷地の環境を生かし、建築が寄り添うように心がける考え方である。国立競技場の近隣には、明治神宮があり、その聖域の端に位置することから、隈 研吾氏は明治神宮に敬意を表し、低層建築の競技場に設計した。

「日本独特の哲学(間・道・和)」…
【旧】龍安寺石庭(京都府)×【新】神勝寺 禅と庭のミュージアム『洸庭』(広島県)

龍安寺石庭 2012年8月撮影
神勝寺 禅と庭のミュージアム『洸庭』

石や砂などによって山水の風景を表現する日本庭園の様式「枯山水」は、禅の心から生まれた日本固有の美意識である。

枯山水庭園で最も有名な場所といえば、龍安寺の「石庭」。1975年にエリザベス女王が来日したときに見学をして絶賛したことから世界的にも有名になった。

庭には15の石が配置されているが、すべての石を一望することはできないようになっている。15には「完全」の意味があり、“すべて見えない=不完全”という禅の心が、石庭には体現されている。

いっぽうで、現在における禅の心を表現する庭は、“現代アートとテクノロジーが融合した庭”である。その場所は、2019年、NYタイムズの「世界で行くべきディスティネーション」7位に選ばれた「瀬戸内の島々」を眼前に位置する、広島県福山市にある「神勝寺 禅と庭のミュージアム」だ。

2016年9月、神勝寺 禅と庭のミュージアムにオープンした『洸庭』(こうてい)は、建物の外観に伝統的なこけら葺きを応用し、全体を木材でやわらかく包んだ舟型の建物が、石のランドスケープ上に浮かぶアートパビリオン。石の海を通り抜け、ゆるやかなスロープを上がり、小さな入口から舟の中へ入ると、暗がりの奥には海原が広がり、波間にはかすかな光が反射している。

建物を手掛けたのは、日本を代表する彫刻家・名和晃平氏が率いる京都のスタジオ「SANDWICH」の設計。このアートパビリオンの内部のインスタレーションは、名和晃平氏と、同じく世界でも注目されるビジュアルデザインスタジオ「WOW」と音楽家・原摩利彦氏のコラボレーションによるものだ。

暗闇の中の光。不完全かつ抽象的。現代アートとテクノロジーが実現させた体験は、最先端の禅を表現した作品である。

「職人と継承(守・破・離)」…
【旧】法隆寺五重塔(奈良県)×【新】東京スカイツリー(東京都)

法隆寺五重塔
東京スカイツリー

日本の古都・奈良にある法隆寺の「五重塔」は、7世紀初頭につくられた世界最古の木造建築として、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。

日本各地の寺院にも同様の木造建築様式による五重塔や三重塔があるが、実は、地震による倒壊例がほとんどない。まだその秘密は解き明かされてはいないものの、中心にある心柱と塔は別の造りになっていて、お互いが競り合うことで揺れに強い構造になっていると考えられている。1300年の職人技が高層建築を可能にし、現在まで受け継がれる塔を実現させたのである。

そして、五重塔の建築とよく似た仕組みを持つのが、2012年に開業した、自立式の電波塔では世界一の高さを誇る「東京スカイツリー」だ。

断面図を見ると、東京スカイツリーの構造は、五重塔の心柱構造とよく似ている。東京スカイツリーの制振構造は、五重塔になぞらえて「心柱制振」と名付けられている。

法隆寺を訪ねて、東京スカイツリーを訪ねると、日本がいかに知恵にあふれた国であるか、サスティナブルな国であるかを体感できるかもしれない。

いまこそ、
まだ見ぬ文化と出会う驚きと喜びを

いま世界は、新型コロナウイルスの影響を受け、新しい文化や人々との出会いが困難な状況になっている。しかし、だからといって、芸術と人、文化の交流が途切れてしまうべきではない。

文化庁による文化発信プロジェクト「CULTURE GATE to JAPAN」を通じて、そして羽田・成田空港の展示「VISION GATE」を通じて、まだ見ぬ文化と出会う驚きと喜びを再発見してほしい。

羽田・成田空港の開催概要
日時|2021年2月27日(土)〜
会場|インスタレーション作品/羽田空港第2ターミナル 2階出発エリア D保安検査場前
映像作品/羽田空港第3ターミナル 2階到着コンコース、羽田空港第1・第2ターミナル出発コンコース、成田空港各ターミナル内デジタルサイネージ
※羽田空港における映像展示に関しては、すべて保安区域内
入場料|無料
作品テーマ|VISION GATE
キュレーター|パオラ・アントネッリ
参加アーティスト(50音順)|
スズキユウリ / 細井美裕『Crowd Cloud』(2021)(インスタレーション作品)
acky bright『テーマパーク東京』(映像作品)
井上純『一勝負』(映像作品)
児玉幸子『重力の庭』(映像作品)
PARTY『TSUGI』(映像作品)
茂木モニカ『満月の日』(映像作品)
森万里子『Kojiki – Amenomanai』(映像作品)
主催|文化庁「令和2年度空港等におけるメディア芸術日本文化発信事業」
公式ウェブサイト|https://culture-gate.jp/ja

text:Discover Japan 写真=井原完祐(三佛寺投入堂)、独立行政法人日本スポーツ振興センター(国立競技場)、橋本正樹(龍安寺石庭 2012年8月撮影)、中村政秀(神勝寺 禅と庭のミュージアム『洸庭』)、便利堂/提供(法隆寺五重塔)、TOKYO-SKYTREE(東京スカイツリー)


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