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デザイン大国デンマーク発!
地域をデザインする意味とは?
【ブランディングの流儀編】

2021.3.25
デザイン大国デンマーク発!<br>地域をデザインする意味とは?<br>【ブランディングの流儀編】
ここはデンマーク建築のモダニスト、アルネ・ヤコブセンの自邸。デスクに向かうのは……

地域をデザインし、ブランド化することは、なぜ必要なのか?デンマーク政府や世界一のレストラン「noma」等のロゴデザインを手掛け、日本の企業とも縁が深い、デンマークのブランディング企業「コントラプンクト」のデザインディレクターであるボー・リネマン氏に、海外目線で語っていただきました。そのこだわりや歴史について、前後編記事にてご紹介します。

Bo Linnemann(ボー・リネマン)
1953年、コペンハーゲン生まれ。Kontrapunkt(コントラプンクト)デザインディレクター/代表取締役社長、大学教授、建築家、グラフィク・デザイナー。主に国際的な企業のブランド・アイデンティティ、ブランド・タイプフェイスのデザインに従事し、’80年代より世界のデザインシーンに影響を与え続けている。国際的なデザイン賞の受賞多数。’85年コントラプンクトを共同設立。2015年から日本にもオフィスを構えている

ブランディングの流儀

オアスン海峡の風景が広がる海辺の街・クランペンボー。ここは、海辺の監視塔や集合住宅のベラヴィスタなど、デンマークが誇る巨匠建築家、アルネ・ヤコブセンの名建築が並ぶ、ベルビュービーチというエリアで、その一角に、彼が1951〜’71年を過ごした、自宅兼仕事場が残っている。

2019年より、ここには、ブランドデザイン・エージェンシー「コントラプンクト」の創立パートナーであり、エグゼクティブ・デザイン・ディレクター、ボー・リネマンさんが夫人とともに住んでいる。ボーさんは、お気に入りの1階の仕事部屋で、私たちの質問に答えてくれた。

──まず、コントラプンクト社設立のきっかけは何だったのでしょうか? 

ボー・リネマン(以下、BL) 私はデンマーク王立美大の建築学科卒ですが、デザイン学科もあり、グラフィックやタイポグラフィのデザインも学びました。1980年に卒業し、国連難民高等弁務官事務所のソマリアでの学校建築のプロジェクトに参加。翌年帰国し、グラフィックデザイナーのいとことデザイン会社を立ち上げました。当時はスタッフが1〜2名の小規模なデザイン会社が一般的で、デンマークの大手企業は、外国の会社に依頼するしかなかったのです。私たちは「デンマークのデザイン会社なら、もっとよいものをつくれる」と信じ、積極的にアピールしました。幸い、少しずつ依頼をもらい、’85年のコントラプンクト設立時には、スタッフは20人に増えました。レゴや製薬会社のノボ・ノルディスクなど、デンマークを代表するクライアントとは、現在も協働が続いており、非常に誇りに思っています。また、「コントラプンクト」とはドイツ語の音楽理論で、「複数の旋律が独立性を保ちつつ、調和して重ね合わせる技法」のことです。私たちの仕事に適していると感じ、社名にしました。

ダイニングテーブル、椅子(アントチェア)もヤコブセンのデザイン。ペンダントライトはポール・ヘニングセンの名作
真っ白で明るい2階リビングルーム。1階からの階段の真鍮の手すりは、当時のまま

──ボーさんがブランディングで大切にしていることは?

BL まず、クライアントの本質を正しく伝えること。好ましいイメージ戦略をしても、企業の実態と異なっていたら、よい結果になりません。そのため、依頼を受けたら、要望を聞く前に、企業ポリシーや倫理を探ります。私たちのつくるもので社会貢献もしたいですからね。次に、長く愛されるものをつくること。企業イメージ刷新は高額な出費です。「サイトガイスト(ドイツ語で時代精神の意)」を取り入れつつ、長く親しまれるものをつくりたいのです。

──「サイトガイスト」、時代感のようなものですか? 

BL そうですね。私たちが手掛けた、DONGのブランド・アイデンティティについて、お話ししましょう。DONGはデンマークオイルとナチュラルガスの会社ですが、Ørsted (デンマークの物理化学者、H.C. Ørstedが由来)という名称とともにリニューアルされました。社名変更の告知だけでなく、未来に向かって、人に優しいグリーン・エネルギーを推進していく会社の意思を明確に伝える必要がありました。そこで、ヴィジュアル面では、ヤコブセンから受け継いだ、人間的、かつ機能的なデンマーク機能主義をヒントに、ブランド・アイデンティティとして伝えることができました。

暖炉脇のタイル貼りのテーブルは、取り付けの花壇だったが、天板を敷いて机に改装
リビングルーム。建築を邪魔しないように、インテリアは主に白と黒で統一されている

──コントラプンクト社はデンマーク政府のデザインもされていますね。旧ロゴからはずいぶん印象が変わりましたが、その背景や意図は何だったのでしょうか? 

BL 1989年にデンマーク外務省と国立博物館のヴィジュアル・アイデンティティを刷新するコンペがあり、弊社が担当することになりました。デンマークは王国なので、公的機関に王冠をシンボルに使う伝統があります。そこで、王冠をコーポレート・アイデンティティの一部としながら、役割の違いが明確なイメージを試み、モダンなデザインに仕上げました。心掛けたのは、コンテンポラリー、モダン、親近感です。「公的機関は権威主義で近寄り難い」という印象を取り去り、人々のために存在し、よりよいサービス提供をアピールしつつ、職員のモチベーションも上がるという、相互作用を目指しました。

──コロナ禍でデンマークでも首相の会見や国会での討論に関心が集まっています。コントラプンクト社はデンマーク国会のプロジェクトも担当されたそうですが、お話を聞かせてください。

BL デンマーク国会のデジタルプラットフォームの刷新は2018年のことですが、もともとデンマークでは、高校生から支持政党について語るほど、国民の政治への関心が高いので、デジタル化の進行に合わせて、幅広い世代に対応するように工夫しました。歴史的なライオン3頭のロゴを部署ごとに色分けしましたが、国会に使われているクリスチャンスボー城内の装飾から色を選びました。タイプフェイスは、女性が参政権を獲得した1915年の文書からです。伝統を基に、ジェンダー、オンラインという現代を反映させ、新旧の融合を図りました。

──以前はたびたび来日し、地域を旅されていたとか。日本のデザインをどのように見ていましたか?

BL 日本とデンマークのデザインの共通点は「謙虚」だと思います。コントラプンクトがデンマークで培ってきた経験や知識でどのように貢献できるかを考えつつも、「このケースにはこのやり方」のように規格化せず、クライアントとのよいダイアログから、独自のストーリーを組み立てていきます。行政デザインについても同様なのではないでしょうか? デンマークの地方行政は、個性をアピールしつつ、地域の特色や情報を伝えます。たとえば、コペンハーゲン市のウェブサイトは自転車都市であることを写真で表現していますが、それは市民の日常で、外に向かってアピールしているのではありません。日本の行政はご当地キャラを使っていますが、その後ろに何があるのかわかりにくいです。観光客向けではなく、住民の日常が改善されることに視点を置き、「ここに住んでよかった」と思ってもらえるストーリーがつくれたらよいですね。

ダイニングルーム。階段のミントグリーンはヤコブセンが住んでいた頃からのオリジナル
ヤコブセンの元のアトリエ。キャビネットはオレゴンパイン材で、ラジオ等がビルトイン
2階から見た庭。ヤコブセン自ら庭もデザイン。奥に広がる海の景色は飽きることがない

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text: Chieko Tomida, Discover Japan photo: Jesper Palermo
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