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奈良県立大学からはじまった
新しい「地域創造」の挑戦
はじまりの奈良

2021.2.23
奈良県立大学からはじまった<br>新しい「地域創造」の挑戦<br><small>はじまりの奈良</small>
奈良県立大学のコモンズ棟は、「学習コモンズ制」を核とした“少人数対話型教育”を実践する施設。講義やグループ学習、自習が可能な教室や、学生の交流を促すオープンスペースを備えている

初代神武天皇が宮を造られ、日本建国の地とされている奈良県。連載《はじまりの奈良》では、日本のはじまりとも言える奈良にゆかりのものや日本文化について、その専門家に話を聞いていきます。今回取り上げるのは、いま注目を集めている奈良県立大学の「地域創造研究センター」。どのような機能をもち、研究がはじまっているのか、常務理事・事務局長として運営を支える辻本浩司さんに伺いました。

教えてくれたのは……
辻本浩司(つじもと・ひろし)さん

奈良県宇陀市出身。昭和56年度から平成29年度までの37年間、奈良県庁に勤務。財政や総務を担当。退職後、奈良県立大学へ。現在は常務理事・事務局長として、大学の運営を支えている

地域リーダーを育てる地域創造研究センター

奈良県立大学は、1953年に夜間の県立短期大学として開学した大学だ。2001年に現在の名称に改称し、全国初の地域創造学部を設置した。’07年、夜間から昼間の4年制に移行している。’15年から公立大学法人に移行したことで計画的かつ機動的な大学運営ができ、意思決定などがスムーズになったという。

「キャンパスは奈良市の佐保川沿いにあり、毎年春になると川岸の桜が美しいところです。地域創造学部・地域創造学科という1学部1学科の単科大学で、合計学生数は657名(’20年4月現在)。7割弱が女子学生です。京阪神地域から通う学生が多く、県内出身の学生は1割ほどです」

そう話すのは、常務理事・事務局長の辻本浩司さんだ。教育の特徴は次の2点。ひとつは、学生と教員が集う学びの共同体「学習コモンズ制」である。

「コモンズとは共有地のこと。観光、都市文化、コミュニティ、地域経済という4つの領域を『知』の共有地として定め、学生たちはそれらを横断的にめぐりながら学修しています。その実践の場として、’20年8月、交流と創造の学習空間『コモンズ棟』(右写真)が完成しました」

もうひとつが、学生一人ひとりのコミュニケーション能力を高める「少人数対話型教育」。ゼミやフィールドワークで、学生自らが研究課題を設定し、主体的に現場に出て地域の具体像を学び、解決に取り組んでいる。地域課題を多く抱える奥大和地域もその最前線の現場となっている。

いま注目されているのは、’20年6月に設置された「地域創造研究センター」だ。

「『地域創造』とは、ひとつのまとまりとしての意味をもつ地域において、その魅力を高め、豊かな生活を享受できる社会をつくることです。本センターではこれまでの地域創造活動の営みを継承しつつ、地域リーダーを育成し、奈良から地域創造の可能性を拡大していきたいと考えています」

学生自らが研究課題を設定し、現場に出て地域の具体像を学んでいるゼミやフィールドワーク。現場は、机上とは違う学びにあふれている。ゼミは4年間必修になっている(十津川村谷瀬地区にて)

具体的には、どのような機能をもっているのだろうか。

「大きく分けてふたつあります。ひとつは、『研究推進機能』です。私たちは教員の研究活動をもっと活発にしたいと考え、学外の方々との共同研究を奨励しています。すでにセンター内には10組のプロジェクト研究ユニットが組織され、これからもユニットが増えていくのが楽しみです」

’21年からはリサーチ・アドミニストレーター(URA)という研究支援職員を配置。これによって、研究資金獲得の戦略策定や情報収集など、支援体制を強化する。

「もうひとつが、『コンシェルジュ機能』です。県立の大学として地域にもっと貢献するため、シンクタンクとして県内の自治体や地域創造を担う諸団体のよき相談相手となります。本学教員の多彩な研究領域を活用して、地域からの相談や共同研究などを、積極的に受けていきます」

「連携型地域ライフビジョンin奈良2040」という地域と協働した計画づくりもはじまるところだ。極端な人口減少を招く構造力学などの問題を提起し、コロナによる社会変革も見据えながら、いまを生きる子どもたちが新たに家庭をもつ2040年という時代を展望するという。

建学の精神は「奈良の再発見を通して日本と世界に貢献する」。ここに集い、学んだ人々による今後の展開が楽しみだ。

cooperation: Masayuki Miura edit: Hazuki Nakamori text: Yoshino Kokubo photo: Yuta Togo
Discover Japan 2021年3月号「ワーケーションが生き方を変える?地域を変える?」


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