FOOD

冬野菜の王様といえば……やっぱり大根!
美味しい「おでんの大根」の魅力に迫る

2020.12.5
冬野菜の王様といえば……やっぱり大根!<br>美味しい「おでんの大根」の魅力に迫る
透明感を大切にしている大多福の大根は、まず水だけで下ゆでする。その後、おでんの具材から出る旨みの詰まったダシに入れ、弱火でじわじわと時間をかけて煮込まれる

大根の旬をご存じですか? 今では通年手に入る大根ですが、最も美味しい季節は12月から2月。夏場の大根は繊維が太くて少ないけれど、冬大根は繊維が細くて多いのです。つまり、おでんには冬大根が最適!というわけで、「おでんの大根」の魅力に迫ります。

大根の中心に向かって網の目のように張りめぐらされた繊維の部分をすべてむくようなイメージで厚めに包丁を入れる。この部分が残っているとダシが芯まで染み込みにくい

「おでん屋の大根は、鮨屋でいうところの卵焼きと同じです」と語るのは、東京・浅草で大正4年(1915)の創業以来、一世紀近くおでんひと筋で営業を続けている「大多福」の五代目、船大工栄さん。

初代は、大阪・道頓堀にほど近い法善寺横町から東京に移り住み、ここ浅草に関西おでんの店を開業した。その後、関東大震災や東京大空襲に見舞われながらも、兄から弟へ、親から子、そして孫へと、暖簾は受け継がれてきた。

店の一番人気はなんといっても大根だ。その店の味を知るなら、ダシがよく染みた大根を頼むのが一番だそう。

「大根にはジアスターゼ(別名:アミラーゼ)という消化酵素が含まれていて、胃に優しく、消化不良を防ぐ働きがあります。食べてもお腹に“あたらない”ことから、日の目を見ない役者さんを大根にたとえて“大根役者”なんて言ったんですね。“役者ちょうだい!”と注文する常連さんもいますよ」と、優しい語り口で話す船大工さんは、旦那衆から教わってきた粋筋の話なども、おでんのネタとともに語り継いでいけるような語り部でありたいと話す。

透明感のあるこだわりの大根ができるまで

芯までダシが染み込んだ大根は、箸をすうっと入れるだけで崩れずに割れる。2日半じわじわと火を入れた証

大多福の大根には、つやつやとした独特な透明感がある。思わず箸を入れてみたい衝動に駆られるその透け感はどのように生み出されるのか?

まず「大根の皮を厚くむく」。中心に向かって網の目のように繊維が張りめぐらされた部分を取りのぞくように思い切って包丁を入れる。網状の部分が残ると、食感としては筋が残り、ダシが芯部まで染みにくく、透明感が出ない。次に「下ゆで」。一般的には、大根の苦みやアクを取るために米の磨ぎ汁でゆでるとよいと聞くけれど、大多福ではシンプルな水煮。米の磨ぎ汁でゆでると糠の香りが残ってしまい、独特の透明感が出ないのだそう。大切なのは、ゆで上がったらすぐに水にさらすこと。温度を急激に下げることで透明感が増す。その後は「2日半、弱火で煮込む」。煮込むときに使うダシは、おでん鍋に残る旨みが凝縮されたダシを濾したものに、昆布と鰹でひいたダシを白醤油で味つけしたもので、のばしていく。「おでんダシの場合、調味料の仕事は半分以下です。特有の味わいのほとんどは具材から染み出す旨みです。具材の相乗効果でひとつの味になります」と、語る船大工さん。

おでんダシは具材から染み出す旨みの集合体。行儀よく並べられた具材は通年平均35種類、冬場は40種類ほど

最後に、家庭でおでんをつくる場合の大根の仕込み方についてうかがってみた。

「まず、煮崩れしない大根を選ぶこと。繊維が細くて柔らかいものがいいですね。大根自体はあまり細くないものを選んでください。次に、大根の皮を厚めにむき、水から入れて、沸いてから5〜8分の下ゆでをしてからすぐに水にさらす。そこから2日間かけてダシで煮込みます。少し面倒ですが、前々日の晩ごはんの後に、大根と卵とこんにゃくだけは仕込んでおくといいでしょう。そのほかの具材は、次の日でも間に合います。調味料は2〜3回に分けて注ぎ足してください。土鍋はいったん加熱すると熱が下がりにくいので火加減が難しく、おでんには不向きです。香りがうつりにくいステンレス製の鍋がおすすめです」

今からが、最も大根が美味しくなる季節。宴席も多い年末年始、大根を食べて、胃袋を優しく守ってもらおう。

昭和のはじめごろから変わらない土産用の壷はオリジナル
木が生い茂る入り口と提燈の明かりに迎えられ、扉を一歩入ると長いカウンターが。おでんダシの香りがぷうんと嗅覚に語りかけてくる

船大工さんの理想の大根

右は薄めにむいた5㎜厚の皮。左は本来のむき方で8㎜厚程度

青首大根(北海道・千葉県)
全国の大根を試してみて、一番よかったのが北海道産と千葉県産の青首大根。繊維が柔らかくて煮崩れせず、甘みもある。商売なので、安定供給も最大の条件。

大蔵大根(東京都)
水分が少なく、煮崩れしにくいので、おでんによく向いている大根。ただし、一年の収量が決まっていて、手に入る絶対量が少ないので、安定供給は困難を極める。

青首大根の上部は繊維が柔らかく、下部は硬め。おでんには中央部がベスト

大多福(おたふく)
住所|東京都台東区千束1-6-2 
Tel|03-3871-2521
営業時間|10〜3月/17:00〜23:00、日曜・祝日16:00〜22:00、4〜9月/17:00〜23:00、12:00〜14:00、日曜・祝日17:00〜22:00
定休日|12〜2月/なし、3〜10月/月曜
www.otafuku.ne.jp/

text:Hiroko Shiraishi photo:Megumi Hirano
2012年12月号 特集「冬の味覚でおもてなし」


≫究極に暮らしに寄り添う土鍋「圡楽窯」

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