《京都市 京セラ美術館》生まれ変わったアートの発信地へ|後編
1933(昭和8)年の開館以来、京都のアートシーンの一翼を担ってきた京都市美術館。このたびはじめての大規模リニューアルを実施し、通称「京都市京セラ美術館」に。壮麗な歴史的建築に現代的なデザインが加わった、古都の新しい美の拠点へ。
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閉ざされていた中庭
パブリックスペースとして再構築
京都市京セラ美術館が
100年後の京都につなぐものとは?
建物の機能性を向上しつつ、新しいアイデアも柔軟に取り込み変貌を遂げた今回のリニューアル。その狙いとは?
誰もが気軽に利用できる「開かれた美術館」へ
開館以来となる大規模リニューアルの誘因は、建物の老朽化に加え、現代のニーズと乖離してきたハード面も大きかったと同館学芸課担当係長の後藤結美子さんは語る。「展示スペースが狭い、休憩所が少ない、展示室を経由しないとトイレに行けないなど、利用者にとって不便な問題を抱えていました」。それらを解決しつつ、新しい美術館への変貌を遂げるために改修設計を手掛けたのは、建築家の青木淳さんと西澤徹夫さんだ。ともに美術館設計の匠であり、師弟関係にある二人が、今回のリニューアルで注力したのは、歴史的建築の意匠を可能な限り残しつつ、設備をアップデートし、快適な動線をつくること、そして、誰もが気軽に立ち寄れる美術館にすることだ。
既存の建物を生かしながら、新しい動線をつくるために試みられたのは、館を東西に貫く大きな軸線を設けることだった。地下のメインエントランスから大階段を上がれば、各展示室への入り口が集まる中央ホール。そこから東山を望む日本庭園へと一直線に向かう動線がつながる。外から内、そして再び外へと向かうことで、来場者の感覚は美術館を経由して街や自然と同化するようにつながり、溶け込んでいく仕掛けになっている。「中央ホールには、らせん階段やバルコニーを新設。地下から2階へ向かう垂直の動線と、入り口から庭園へ東西に抜ける水平の軸線が交わるハブ空間になりました」。
また、これまで機能していなかった空間も積極的に活用した。本館内にふたつある中庭は、空調室外機などが置かれていたデッドスペースだったが、改修によりガラス屋根を付けて屋内空間化した「光の広間」と、彫刻作品も置くオープンエアーの空間「天の中庭」に変貌。「中庭はスタッフもあまり足を踏み入れたことのない空間でした。『天の中庭』を新たに鑑賞者も入れる空間にしたことで、館のもつ魅力を再確認していただけると思います」。
今回のリニューアルでもうひとつ注目すべきなのが、パブリックスペースの増加・新設だ。かつて来館者を迎えた東西の玄関・広間、大陳列室だった中央ホール、「光の広間」に加え、カフェやミュージアムショップなど、誰でも無料で自由に訪れることができる空間が館の随所に誕生。またパブリックスペースでは撮影が許されているのもうれしい。「カフェ利用だけの来館も大歓迎。観光や散歩の途中にぜひ気軽に立ち寄ってください」。開かれた空間をめぐるうち、作品はもちろん、美術館そのものがひとつのアートであることを実感できるだろう。
50年間のネーミングライツ契約による財政支援を受け、歴史的建築の再整備が実現した。これからも市民のための美術館であり続けたいと後藤さんは語る。「生活に寄り添い、誰もが気軽に利用できる館を目指しています。既存の建築を残してリノベーションをしたのは、古いものを再評価することも大事だと考えているから。それに加え、時代に即したアートに触れられる場でもありたい。世界から人が集う京都だからこそ、新旧のアートを展示し、発信していきます。京都の文化は、伝統を重んじつつ、常に挑戦・発見を重ねていくことでアップデートしてきました。京都市京セラ美術館も、そうした京都の文化のひとつを昔もいまも担うと考えています」。
まだまだある!
京都市京セラ美術館の見どころ
コレクションルーム
京都の四季に合わせて年間4回の展示替えを行う常設展示室。一部撮影可能な作品もあり。
ミュージアムカフェ「ENFUSE」
京都の四季に合わせて年間4回の展示替えを行う常設展示室。一部撮影可能な作品もあり。
ガラス・リボン
カフェやミュージアムショップが入る全面ガラス張りのファサードは、美術館の新しい顔。
日本庭園
7代目小川治兵衛が携わったとされる庭園。来年1月31日まで杉本博司『硝子の茶室 聞鳥庵(もんどりあん)』を展示。
杉本博司『硝子の茶室 聞鳥庵』2014年
©Hiroshi Sugimoto Architects: New Material Research Laboratory / Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida.
Originally commissioned for LE STANZE DEL VETRO, Venice / Courtesy of Pentagram Stiftung & LE STANZE DEL VETRO.
東山キューブテラス
現代アート等の展示室「東山キューブ」の屋上からは、日本庭園や東山の山並みを一望できる。
北西エントランス
建屋の地下に新進作家を中心に紹介するギャラリー「ザ・トライアングル」を新設。入場無料。
ミュージアムショップ
BEAMS創造研究所監修のオリジナルグッズからスイーツまで幅広いラインアップが魅力。
リニューアルオープンまでの歩み
1933(昭和8)年
1928(昭和3)年に京都で行われた即位の大礼を記念し、「大礼記念京都美術館」として開館
1935(昭和10)年
「京都市美術展覧会」(第1回市展)を開催。市が主催する総合公募展として、全国に先駆けた展覧会となった。左写真は創建当初の展覧会の様子
1944(昭和19)年
戦争中も美術館活動を継続。本土空襲の激化のため、作品の一部を大覚寺などに疎開させる
1945(昭和20)年
「第9回在住作家作品常設展」の開催中に終戦を迎える
1946(昭和21)年
駐留軍が本館を含めた敷地全体を接収。大陳列室がバスケットボールのコートとして使用される
1952(昭和27)年
6年間に及ぶ接収が解除。「京都市美術館」と改称し活動再開
1955(昭和30)年
海外美術館展の先駆けとして「ルーヴル国立美術館所蔵フランス美術展」巡回
1957(昭和32)年
京都の若い美術家による、京都市主催「京都アンデパンダン展」開催。以降、
1991(平成3)年まで毎年開催
1964(昭和39)年
「ミロのヴィーナス特別公開」開催。89万人余りが来場し、開館以来の入場者数記録を樹立
1965(昭和40)年
「ツタンカーメン展」開催。107万人余りが来場し、前年の入場者数記録を更新
1971(昭和46)年
収蔵棟を新設。竣工記念特別展「京都日本画の精華」開催
1989(平成元)年
「京都の美術 昨日・きょう・明日展」シリーズを開始。以降、2008(平成20)年まで全28回開催
2003(平成15)年
開館70周年。記念特別展「うるわしの京都 いとしの美術館」開催
2015(平成27)年
「京都市美術館再整備基本計画」策定。公募型プロポーザルで、青木淳・西澤徹夫設計共同体が基本設計作成者に選出
2017(平成29)年
通称を「京都市京セラ美術館」とする50年間のネーミングライツ契約を京セラ(株)と締結。改修・増築工事のため一時閉館
2020(令和2)年
5月26日リニューアルオープン
京都市京セラ美術館
住所|京都市左京区岡崎円勝寺町124
Tel|075-771-4334
開館時間|10:00〜18:00(入場は17:30まで)
休館日|月曜(祝日の場合は開館)、年末年始
料金|コレクションルーム 一般730円(市外在住者)、企画展・別館は展覧会ごとに異なる
アクセス|京都市営地下鉄東山駅から徒歩約8分
https://kyotocity-kyocera.museum
text: Yasunori Niiya, Yuki Sawai (Arika Inc.) photo: Mitsuyuki Nakajima
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