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「乗る」が楽しいせとうち旅。|SHIP編
いま訪ねたいせとうち

2020.10.28
「乗る」が楽しいせとうち旅。|SHIP編<br><small>いま訪ねたいせとうち</small>

乗り物は、移動の手段だけではありません。船・列車・バス、何に乗るかで、見える景色も、楽しみ方も大きく変わります。せっかくなら「乗る」ことを満喫しないともったいない。瀬戸内ならではの、魅力あふれる乗り物を前後編で紹介する本連載。今回は「船」でめぐる旅を紹介します。

瀬戸内の個性的な島々を存分に楽しむ
「せとうち島たびクルーズ」

息をのむほど美しい瀬戸内の海に浮かぶ島々。そんな島々を存分に満喫できるのが「せとうち島たびクルーズ」だ。山陽新幹線三原駅から徒歩約5分程度の三原港と広島駅から路面電車、バスで約30分の広島港を、約4時間半前後で結ぶこのクルーズは、史跡や古い家並みが多く残る大崎下島や、約900羽のアナウサギが住む大久野島、文化施設が多数ある下蒲刈島など、瀬戸内海の数々の人気の島をめぐることができる。

まずは、美味しいタコ料理が食べられる「タコのまち」三原を出港して25分、見えてきたのはレモンの産地として有名な生口島だ。野外に17の現代アート作品が飾られているこの島は、「島ごと美術館」とも呼ばれるアートの島。瀬戸内には個性的な島が多く、独自の文化を知るだけでもおもしろい。

また船内では生口島の瀬戸田産レモンを使ったレモンケーキ「島ごころ」を味わうことができる。ほかにも、水の郷百選で選ばれた東広島市の天然水に広島レモン果汁と因島のはっさく果汁をブレンドし、伯方の塩で味を調えた「レモン&はっさくサイダー」や広島県江田島市二反田醤油の「だし道楽 カシューナッツ」など、瀬戸内自慢の特産品が船内で購入できるのはうれしい。瀬戸内のきれいな海を見ながら、地元の美味しいものを食べる、最高のシチュエーションに心もお腹も大満足だ。

知れば知るほどその魅力のとりこに

広島県尾道市の生口島と愛媛県今治市の大三島をつなぐ国内最長の斜張橋、多々羅大橋の美しい姿を洋上から望むことができる

生口島を出ると、前方に鳥が羽を広げているような形の橋が見えてくる。幅900mの海峡にかかるこの橋は、国内最長の斜張橋「多々羅大橋」だ。その圧倒的な迫力に心を奪われているのも束の間、次に見えてくる「大三島橋」もまたすばらしい。この大三島付近は「鼻栗の瀬戸」と呼ばれ、伯方島との幅は300mほどしかなく、激しい潮流が渦巻いている。船の難所といわれているこの場所からは、豊かな自然と、東洋一の規模を誇るアーチ状の「大三島橋」という自然美と人口美が融合した、美しい景色を望むことができる。

楽しみはまだまだ続く。次は人気の島に立ち寄り、散策へ。個性の違う島独自の文化やもてなし、特産品に直に触れられるのもこのクルーズの魅力だ。

「せとうち島たびクルーズ」に使用されているのは、高速船「はやしお」。座席はゆっくりとくつろげる赤いソファ席と青いシート席の2種類。ゆったりした船内はとても居心地がいい。2階には風を感じることができる開放的なデッキもある

まず船を降りると、タイムスリップしたような錯覚に陥る。そこは江戸時代から風待ち、潮待ちの良港として栄えた大崎下島の御手洗。古くから人と情報が集まる要衝として発展したこの場所には、江戸から昭和の建物が混在しており、「重要伝統的建造物群保存地区」にも選定され、2017年には日本遺産の認定も受けている。この古い町並みには、江戸時代の建物をいかしたカフェなどもあり、時の流れを感じながらのんびり過ごすのもおすすめだ。

西向き航路で立ち寄ることができる文化施設が多数ある下蒲刈島

次に立ち寄った下蒲刈島では、地元の人々が出迎えてくれるという歓迎ぶりだ。まず目指したのは「松濤園」。美しい庭園と、ユネスコの世界記憶遺産に登録された貴重な歴史的資料などが所蔵されている資料館があり、島の歴史を知ることができる。ほかにも、多くの漢学者が訪れたといわれる「白雪楼」や近代美術作家の作品を展示する「蘭島閣美術館」など、歴史と文化にじっくりひたれる施設が多い。

島散策を終え、下蒲刈島を出港するとこのクルーズの旅もいよいよ終盤だ。前方に見えてきたのは、平清盛が1日で切り開いたという伝説が残る美しい海峡「音戸の瀬戸」。四季折々の表情を見せる豊かな自然と真っ赤な橋が織りなす景色は必見。その後、呉湾に停泊する艦船や潜水艦、江田島沖の多数の「かきいかだ」を過ぎると、終着地広島港に着船。この旅も終わりを迎える。

小学校がウサギ8羽を島に放したことからはじまり、大久野島には約900羽のウサギが生息している

今回は、午後に三原港を出港する「西向き航路」を紹介したが、朝、広島港から三原港に向かう「東向き航路」では、また少し違った印象の瀬戸内海を見ることができるかもしれない。こちらの航路は大崎下島のほか、国内外から人気の高い自然豊かなウサギの楽園、大久野島に立ち寄ることができる。

2020年夏には、同エリアに新しい観光型高速クルーザー「SEA SPICA」が就航。瀬戸内の島めぐりをより贅沢に楽しめる新クルーズにも注目だ。

せとうち島旅クルーズ航路マップ

はやしお
総トン数|52t
全長|21.12m  全幅|6.3m  速度|27ノット
定員|97名(募集定員|88名) 運航|瀬戸内海汽船

専用設備が充実! 自転車と一緒に船で海を渡る。
「サイクルシップ ラズリ」

2019年に定期便として就航した、自転車を載せられる船、サイクルシップ ラズリ。デッキにはサイクルスタンドを完備しており、階段には自転車用のスロープが付いてゆるやかな傾斜角度になっている。大切な自転車を安全に載せるための工夫が満載の船なのだ。航行ルートは、尾道から島々を渡り瀬戸田港で折り返すので、自転車でしまなみ海道を走破する自信がない初心者や、同じ道を引き返したくない人にもうれしい。おすすめは、尾道から生口島までサイクリングを楽しんで、帰りは生口島の瀬戸田港からラズリに乗って尾道へ戻るコース。しまなみ海道サイクリングと瀬戸内海の多島美を眺める船旅、その両方を体験できる、ぜいたくな楽しみ方だ。

船内モニターで航行の様子が見られるので、客室にいながらクルージング気分が味わえる
展望デッキに設置したサイクルスタンドには保護シートが用意されているので、航行中に隣り合った自転車同士がぶつかって傷つく心配がない

サイクルシップ ラズリ
総トン数|19t 全長|17.70m 全幅|5.80m
速度|20ノット 旅客定員|75名
運航|瀬戸内クルージング
Tel|0848-36-6113(瀬戸内クルージング)

公園のような開放的な空間でゆるやかな時間を堪能。
「シーパセオ」

デザインコンセプトは「瀬戸内海の移動を楽しむ、みんなの公園」。「シーパセオ=海の散歩道」という名の通り、まるで航路を散歩するような航海が楽しめる。なんといっても目を引くのは、そのデザイン性。コンセプトの通り、風を感じることができる屋外空間が多く、船内自体がまるで公園のような仕掛けであふれている。海と風と太陽を感じられる人工芝のグリーンテラスや、心地よいそよ風と太陽の日差しを感じる船上のパティオ、ごろ寝しながら海を眺められるGORONEエリアなど、まさに海の上の公園という非日常を味わえる最高のリラックス空間ばかり。船は広島港・呉港と松山観光港を運航。穏やかなさざ波と心地よい風、柔らかな陽光につつまれた穏やかな時間が、身体も心も解放してくれる。

「ひき波のHANARE」は、後方に描く引き波の景色を楽しむことができる展望リビング。子ども連れや団体でも気兼ねなく寛げる
「しお風のガゼボ」。日差しを遮るガゼボ(あずまや)が特徴。瀬戸内の海と潮風を独り占めできるくつろぎの空間

シーパセオ
総トン数|902t 全長|61m 全幅|13.6m
速度|15ノット 定員|300名
車両積載台数|35台(乗用車換算)
運航|瀬戸内海汽船

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edit・text: Yuki Irie Akiko Yamashita photo: Shintaro Miyawaki
2019年12月号 増刊「プレミアムせとうち案内」


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