木下宝さんのボトルオリジン
いま知っておきたい逸品
職人の手仕事で生み出される本当に良いモノを紹介していく《いま知っておきたい逸品》。今回は使い終わったワインボトルを新たな作品へと生まれ変わらせる、富山のガラス作家・木下宝さんのボトルオリジンを紹介します。
木下 宝(きのした・たから)
大阪府生まれ。会社員として勤務後、ガラス制作を学ぶために秋田の美術大学へ。その後ガラス制作が盛んな富山へ拠点を移す。生み出される作品は温かみのあるフォルムの中にミニマルな美しさをもちつつ、実用性も兼ね備える。「Simpleglass.」という名で活動中
繊細でストイック、モダンでミニマルな美しいフォルム。薄くピンと張り詰めたような緊張感と、極限まで無駄な要素が削ぎ落とされたガラス作品。
竿の先の赤く焼けたガラスが刻々と変化していく昔ながらの宙吹きによる作品を手掛ける木下宝さん。彼女がつくる日常使いに心地よいガラスはスタンダードとして愛用する人が多い。
そんな木下さんが昨年から本格的に取り組んでいるのが、富山県にあるワイナリー「セイズファーム」のワインボトルの空瓶を使ったアートピース。最初に手掛けたのは7年前、セイズファームのギャラリーで行ったエキシビションでのこと。
そのきっかけは土地に根差したワインづくりに感動したことと、木下さんにとって身近なガラスでつくられたワインボトルが目の前にあったことだった。
「一本のブドウの樹からワインができるように、1本のワインボトルで何かできないかと思い、丸ごと吹いたことからこの作品が生まれました」。
ワインボトルはデキャンタや花器に生まれ変わる。捨てられるボトルを再利用する単なるリサイクルではなく、木下さんが吹くことで新たな価値をもたらすアップサイクルとなるのだ。
最近は燃料をガスから薪や炭に置き換える方法を考えたり、ガラスの主原料である珪砂に混合する溶融材として、シダや梨の木など地元富山の植物の灰を用い、古代の手法に倣って素材をつくることにも着手している。
「知りたいのはそのものの原点です。燃料を薪で考えるようになってから林業に興味をもちはじめ、いまでは個人の山主さんの下で自伐型林業を学んでいます。山にかかわる頻度が増えるにつれて、山が機能しているからこそ町の暮らしが成り立つのだとしみじみと感じます。後々は自分の山をもって活動するとともに、山とガラスの新たなプロジェクトを発信して、そのつながりを広げていきたいです」。
廃棄されるものが、木下さんの手でアートに生まれ変わる。モノの価値をあらためて問い直し、持続可能なモノづくりを実現する木下さんから目が離せない。
※その他の作品はこちらから
≫スタンダードな魅力あふれるガラス
「木下 宝」
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【DATA】
活動拠点|富山ガラス工房創作レンタル工房
住所|富山県富山市古沢152
https://toyama-garasukobo.jp
URL|https://t-simpleglass.com
text: Takashi Kato photo: Kazuma Takigawa
2019年12月号 特集「人生を変えるモノ選び。」