谷根千の鼈甲専門店「大澤鼈甲」
大熊健郎の東京名店探訪
「CLASKA Gallery & Shop “DO”」の大熊健郎さんが東京にある名店を訪ねる《東京名店探訪》。今回は鼈甲眼鏡を中心に鼈甲製品を扱う専門店「大澤鼈甲」を訪れました。
大熊健郎(おおくま・たけお)
「CLASKA Gallery&Shop “Do”」 ディレクター。国内外、有名無名問わずのもの好き、店好き、買い物好き。インテリアショップ「イデー」のバイヤー&商品企画、「翼の王国」編集部を経て現職。
www.claska.com
眼鏡の世話になってかれこれ40年近くなる。小学校で毎年行われる視力検査が何より嫌だった。子どもの頃は、目のよかった父親からテレビの見過ぎだとか野菜を食べないからだとか、非科学的なことを散々に言われ続けていたが何のことはない、目が悪かった母親の遺伝である。
かつては単なる矯正器具だったであろう眼鏡もいまやファッションの一部である。眼鏡歴の長いわたくしも、これまで数多の眼鏡をかけ続けて今日まで生きてきた。ただこの歳になっても眼鏡ひとつ自分のスタイルを確立できていないもどかしさを感じている今日この頃、どうやら人生の最後を飾るにふさわしい眼鏡に出合ってしまったようである。
千駄木駅から徒歩2分。昔の街並みが多く残り、東京の下町情緒あふれる場所として人気の「谷根千」エリアに店を構えるのが今回訪ねた鼈甲眼鏡の専門店「大澤鼈甲」である。創業は1956年。製品はすべて店舗2階にある工房でつくる。むろん技術と経験のある職人たちによる手仕事だ。
そもそも鼈甲細工とはタイマイというウミガメの甲羅を加工、細工した製品のこと。正倉院宝物の五弦琵琶にも使われているほどその歴史は古いが、日本で鼈甲細工が盛んになったのは江戸初期に独自の貼り合わせ技術が伝えられ、複雑な造形が可能になってからのこと。あの徳川家康も晩年鼈甲の眼鏡をかけていたという。
鼈甲の眼鏡といえばかつて政財界の大物がかけていた眼鏡、年配の人向きのもの、といったイメージをもつ人も少なくないだろう。「私自身も父親世代がつくるものに対して古臭さを感じていた部分があります。でも時代に合うものを提供できなければこういう仕事は続けられないし、それが結果として伝統になるのではないか」と話してくれたのは、自ら職人でもある代表の大澤健吾社長である。
その言葉通り、大澤鼈甲では時代性を意識したオリジナル商品を開発し、また人気眼鏡ブランドとのコラボレーションなども積極的に行ってきた。
実際に鼈甲の眼鏡をかけさせてもらった。柔らかでつやのある天然素材ならではの色調とデリケートな素材感。肌当たりもこの上なく心地いい。セルの眼鏡とは全然違うこの品格。この気持ちのたかぶりたるや。いやぁ欲しい!
大澤鼈甲
住所|東京都文京区千駄木3-37-15
TEL|03-3823-0038
営業時間|9:00〜18:00、土曜〜17:00
定休日|日曜、祝日
photo:Maki Suzuki
2019年12月号 特集「人生を変えるモノ選び。」