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《美味しい魚図鑑》 Vol.7 サバ
サバは刺身で食べられない⁉︎

2022.3.5
<small>《美味しい魚図鑑》 Vol.7 サバ</small><br>サバは刺身で食べられない⁉︎
photo by DJ

スーパーに並ぶあの魚、この魚。どんな海に生息し、どこで捕れるものが美味しいのか。本当の旬はいつで、どんな料理が合うのか。魚を知り尽くす小川貢一さん監修のもと、日本人なら知っておきたい魚の基本を詰め込みました。

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小川貢一(おがわ・こういち)さん
956年、東京・築地生まれ。仲卸3代目として築地で育つ。魚を知り尽くし、かつて築地で魚料理店の店主を務めた料理人でもある。著書に『本当に美味しい魚の見極め方』など多数

一年中、食卓を彩る庶民の強い味方

「秋サバは嫁に食わすな」という言葉があるように、マサバは秋から冬にかけてが旬。春に産卵を終えたサバが、イワシなどの獲物をたくさん食べて再び脂肪を蓄えるのが秋で、身が締まって味もよくなり、「秋サバ」、「戻りのサバ」と親しまれている。

夏はマサバの味が落ちる一方、ゴマサバは夏が旬。「トロサバ」と呼ばれるほど脂がしっかりのって、マサバを凌駕する美味しさに。身が柔らかいので塩焼きや煮つけにすると美味しい。

サバは鮮度が落ちやすいため、刺身で食べられるのは漁場が近い限られた場所で、塩や酢で〆るか、加熱して味わうのが一般的。〆サバ、マリネ、味噌煮、竜田揚げなどいくつもの家庭料理があり、一夜干しなど干物も親しまれている。よく見る「サバの文化干し」とは製法の違いではなく、サバの包み方に由来する。それまで新聞紙に包んだり木箱に入れて売っていた干物をセロハンに包んで販売したところ、見た目が美しく先端をいく「文化的」な印象を与えたことから、いまでも文化干しという名が残っている。 

サバ寿司といえば京都土産の定番だ。かつて日本海の若狭(福井・小浜)に揚がったサバに塩をしたものが一昼夜かけて京の都に運ばれた。町に着く頃にいい塩梅に塩が回り、ほどよく締まったサバで寿司をつくったのがはじまりだ。ちなみに〆サバには身が柔らかいゴマサバは向かず、脂がのったマサバがよい。 

青魚を代表するサバは、血をサラサラにして脳の活動を活発にするDHAやEPAなどの必須脂肪酸を豊富に含む。昔もいまも日本人の健康を支える大事な魚である。

<鯖の基礎知識>

マサバ

●科
サバ科

●旬
10〜2月(マサバ)

●名前の由来
背中が青いことから、漢字のつくりは「青」の旧字体。また、斑葉(いさば)の「い」が欠落したもの。つまり体に斑紋がある魚の意

●魚種
マサバ、ゴマサバ、タイセイヨウサバ

●地域名、幼名
アオサバ、ヒラサバ、ホンサバ

●選び方のポイント
目は澄んで盛り上がっているもの。身に丸みがあり、腹を触ると硬いもの

●主な生息地
日本列島近海、世界中の亜熱帯、温帯域

●県別漁獲量ランキング
茨城:6万2300t
長崎:4万8700t
三重:3万3800t
静岡:3万7700t
宮崎:3万2400t

Q:ゴマサバに合う料理ってどんなもの?
A:塩焼きや揚げ物、サバ節にも使われます

ゴマサバは体側にある斑点が名前の由来。マサバに比べて脂肪が少なく、竜田揚げやフライにすると美味しい。身が柔らかいので、夏の脂がのった時期は塩焼きがおすすすめ。また、サバ節にはゴマサバを使う。サバ節はコクがある出汁が取れ、そばつゆなどに好まれる。脂が少ないぶん酸化しにくく、質のいい節になる。

ゴマサバ

Q:サバを刺身で食べないのはどうして?
A:「サバの生き腐れ」というほど鮮度落ちが早いから

漁場が近く新鮮なサバが手に入る地域は刺身で食べるが、鮮度が落ちるとヒスタミンという物質が出て食中毒の原因に。またアニサキスという寄生虫の心配もある。佐賀の「唐津Qサバ」は、徹底した餌の管理による完全養殖でアニサキスのリスクを低減し、刺身で食べられる。

Q:関さばや金華さば、美味しいサバが育つ条件は?
A:潮の流れが速く、食べ物が豊富であること

「関さば」は、大分と愛媛の間の豊後水道で一本釣りで漁獲され、大分の佐賀関で水揚げされるマサバ。瀬戸内海と豊後水道の潮がせめぎ合う場所で潮にもまれて育つため、身が締まり、味がよい。「金華さば」は、宮城・石巻の沖にある金華山周辺の根つきのマサバで、石巻港に水揚げされる旬の大型のもの。寒流と暖流がぶつかる地点ゆえに獲物が豊富で、よく太って脂がのる。

Q:博多名物「ごまさば」はゴマサバを使っているの?
A:サバの品種ではなく、ゴマをたっぷり加えた料理です

福岡・博多の郷土料理「ごまさば」。薄く切った生のサバを九州の甘い醤油とみりんで漬けにして、いりごまをたっぷり加えたもので、マサバでもゴマサバでもつくられる。そのまま酒のつまみにもなり、ご飯にのせても茶漬けにしても美味しい。

Q:首折れサバってなんだ?
A:鹿児島・屋久島の名物で首を折って血抜きしたもの

屋久島では、500g以上のゴマサバで、捕った後に首を折り、一瞬で活き締めして血抜きを行い氷水で冷やしたものを「首折れサバ」と呼んでいる。鮮度落ちの早いサバを生で食べるために、一湊(いっそう)の漁師たちによって生み出された。

Q:サバ缶はどんなものがいい?
A:水煮か味噌煮があれば、いろいろ応用できます

サバ缶のレシピ本が出るほどサバ缶人気の昨今。味つけタイプもあるが、使い勝手のよさで選べば水煮か味噌煮がおすすめ。選ぶ際は、1缶500円以上を目安にするといい。安いものは小さなサバを使っているので、身が細かく、脂による美味しさが少ない。

Q:ノルウェー産のサバってどんなサバ?
A:脂がのる旬の時期に漁獲した天然物です

ノルウェーサバは、秋は脂肪含有量が30%に達し栄養価も高くなる。ノルウェーでは大型巻き網船で一度に大量にサバを捕り、船上冷凍も可能。資源保護の目的で年間の漁獲量が船ごとに決められているため、この時期に割り当て分のサバを捕る。そんな理由で日本では脂がのったノルウェーサバをいつでも食べられる。

<column>
若狭から京の都へ続く「鯖街道」

福井県の南西部、京都の真北に位置する小浜は、御食国(みけつくに)として朝廷に若狭湾で捕れる海産物を届けてきた。サバもそのひとつ。近代では京都の料理人にも重宝され、若狭で捕れたサバに塩をして京都に運ばれたのだが、その道は鯖街道として親しまれている。若狭は北海道と大阪を結んだ北前船の寄港地でもある。船で運ばれた昆布が地元のサバと出合ったことで、サバ寿司に昆布が巻かれていることも多い。

鯖街道の主なルート

鯖街道にはいくつかのルートがあり、最も一般的なのが、京都への最短距離を通る峠道「若狭街道」。険しさが穏やかな保坂峠で山を越え、小浜から熊川、朽木(くつき)、葛川(かつらがわ)を経て京都に至る。街道沿いには往時の食文化が受け継がれている

滋賀のサバの棒寿司

若狭と京を結ぶ鯖街道には、琵琶湖の西域を通る西近江路があり、街道沿いでさまざまなサバの寿司が生まれた。京都のサバ寿司と同じく、ハレの日のごちそうとして定番の郷土料理。棒寿司のほかにも姿寿司、なれ寿司などサバを使った寿司は数多くある

京都のサバ寿司

江戸時代に誕生したといわれるサバ寿司。若狭から京都に届く間によい塩加減になったサバでつくられ、貴重な青魚を楽しむ文化が生まれた。ひと昔前までは葵祭や正月に各家々でつくり、近所や親戚にも配られるハレの料理。現在も家ごとの味がある

<trivia>
3月8日はサバの日!

サバを専門に扱う大阪の「鯖や」が制定。もちろん、3と8で「サバ」と読む語呂合わせから。また、岩手でサヴァ缶シリーズ「Ça va(サヴァ)?缶」を手掛ける団体が制定した「サヴァ缶の日」でもある。
 

味がいいからアジってホント?
 
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text: Yukie Masumoto 写真提供=国立研究開発法人水産研究・教育機構、
フーズリンク、農林水産省「うちの郷土料理」、小枝圭太(東京大学総合研究博物館)、
標津サーモン科学館、PIXTA
Discover Japan 2022年2月号「美味しい魚の基本」

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