すし作家・岡田大介さんの
鮨の米と酢、魚を大解剖①
酢飯と魚の味わいのバランスが大切と説く、すし作家の岡田大介さん。では実際、米、酢、魚、そして薬味をどんな思考で合わせているのか。鰹の藁焼き、シイラ、生コハダ、ケンサキイカ、煮穴子の5つの鮨を例に見てみる。
魚、米、酢などすべての食材、調味料に
選んだ理由がある
1日1組限定、完全紹介制という独自のスタイルを取った「酢飯屋」時代からさまざまな鮨を供してきた。普段なかなか市場に出回らない珍しい魚を使ったり、ネタごとに酢飯を替えたり、江戸前鮨ではタブーとされている生ニンニクを添えたり、時に実験的と称される岡田大介さんの鮨。今回5つの鮨を握ってもらい、米と酢、魚の組み合わせの一例を解説してもらった。米・酢のセレクト理由から、この魚だからこの酢飯にしたという考え方まで、〝なるほど〟な発想尽くしだ。
わかりやすいのが鰹の藁焼きの酢飯に用いた玄米。藁焼きは香りが強いため、玄米特有の風味、食味が生きてくるという考えによるもので、岡田さんの言葉を借りれば「個性があるもの同士をぶつけ合って、お互いのよさを引き立て合うイメージ」。ケンサキイカの組み合わせもおもしろい。酢飯はコシヒカリともち米が6:4の割合。ケンサキイカのねっとりとした食感ともち米のモチモチ感をしっかり咀嚼して感じてほしいという趣向だ。
そして薬味もまた個性を主張してくる。旨み・甘み・酸味・塩味・苦みの基本五味のバランスが大切という考えから、今回の5種の鮨では苦みを薬味で表現。中でも普段口にすることが少ない稀少な海藻の存在感は圧倒的。ひと口目は苦みを感じるものの、ミネラル感たっぷりの旨みがより味わいの層、奥行きを増す。
当然ながら魚、米、酢などすべての食材、調味料に選んだ理由がある。これから出合う鮨を、そんな視点で観察してもおもしろそうだ。
《鰹の藁焼き》
はばのり、ニンニク、あさつきと3種の薬味を添えた一貫。はばのり特有の青っぽい香り、苦みが藁焼きの風味を引き立てる。酢飯は玄米の味わいをしっかり感じられ、プチプチとした食感もいい。
〈使った食材・調味料〉
《シイラ》
脂の含有量が豊富な秋の雌のシイラには、脂分を引き締めるために、3年間熟成させた赤酢「千夜」を。米はあっさりとした食味のササシグレで、あえて米感を主張させない鮨に仕立てている。
〈使った食材・調味料〉
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text: Tsutomu Isayama photo: Seitaro Ikeda
Discover Japan 2024年12月号「米と魚」