FOOD

すし作家・岡田大介さんが考える
酢飯と魚の美味しい関係

2024.12.30
すし作家・岡田大介さんが考える<br>酢飯と魚の美味しい関係

著書を多数上梓するなど、多岐にわたって鮨の魅力を広める、すし作家・岡田大介さん。東京にて「酢飯屋」という鮨店を開き、酢飯と魚の相性、組み合わせの妙をさまざまな角度から試し、実践してきた探究の人でもある。そんな鮨職人に、あらためて酢飯と魚の関係性について問う。

岡田 大介(おかだ だいすけ)
1979年、千葉県生まれ。25歳のときに「酢飯屋」開業。食材、うつわ、道具類など、できる限り産地に足を運び、つくり手との対話を重視。現在は“生きものが食べものになるまで”をテーマに、鮨職人だからこそできる活動に尽力。著書に『おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで』(岩崎書店)など

酢飯と魚、一対一で引き立て合う
関係性を追求する

18歳で和食の世界に飛び込み、その後、志した鮨職人の道。24歳という若さで独立し、2003年に東京で「酢飯屋」を開業した岡田大介さん。現在、岡田さんは店舗を離れ、全国各地で〝すし作家〟という肩書きで、魚から海藻まで広く“海の食べ物”の魅力を広げる仕事にかかわっている。ただ、自身がはじめて開いた店舗に酢飯屋という屋号をつけたことからわかるように、酢飯に強いこだわりをもっているのは明白。

鮨においてシャリ=酢飯が重要な役割を担っているのは言わずもがな。ただ、鮨店で複数のシャリを使い分けることはほとんどない。岡田さんは若くしてそこに疑問を抱いた。「鮨ダネとして使う魚種はさまざまあるのに、合わせる酢飯は1種でよいのか。そう思いをめぐらせたとき、複数あったほうがより美味しい鮨が握れるのではないかと考えました」。

すでに完成と思われている鮨を自分なりに再考し、“もっと美味しい一貫”を目指す岡田さんの探究心。それが複数の酢飯を使い分ける「酢飯屋」という鮨店を生み出した

米、酢、砂糖、塩の組み合わせ、各調味料の量などを調整し、店舗を営む中でおよそ30種のレシピを考案。その中から酢飯屋で、レギュラーで採用するのは最終的に4種程度に絞ったという。この4種の酢飯に共通するものとは何だったのか。

「鮨は酢飯と鮨ダネを一緒に味わう料理ですから、それぞれに優劣をつけてはいけないという答えにたどり着きました。たとえるなら酢飯1:魚1の関係が成り立たないといけない。その考えにのっとると、たとえば淡泊な平目と旨みが強すぎるお米の組み合わせは、お米が主張し過ぎる。逆もしかりで、熟成させて旨みがグッと増したクエに、あっさりとした後味のお米は負けてしまう。一方で玄米黒酢、赤酢など酢が個性的なら、あえてあっさり系のお米と合わせて旨みが強い魚を握るなど、いろいろな考え方ができます。ネタと酢飯のバランスを取るために、握るというかたちをとらない鮨を酢飯屋で出していたこともあります」

美味しい酢飯をつくるのに大切なこと

鮨の多くは、酢飯と魚で構成される。細かくいえば酢飯は米と酢からなるもの。米の品種、酢の銘柄、そして合わせる魚に相性のよし悪し、味づくりのセオリーは存在するか

そんな岡田さんが最終的に最も多用した米の品種がササシグレ。ササニシキの父親にあたり、1952(昭和27)年に開発された比較的昔からある品種。ただ、現在はササニシキに栽培が置き換わり、ササシグレの栽培面積は非常に少なくなっている。「ササシグレの特徴はあっさりとした食味。おそらくご飯単体で食べていただくと多くの人が、旨み・甘みが少ない、物足りないという印象をもたれると思います。ただ、これを酢飯にして、魚に合わせると万能で。つまるところ、酢飯はお米と酢を中心とした調味料とのバランスが大切で、酢飯と魚の関係性と同じく、けんかし合うようでは駄目」。

その考え方を基本にすれば、一般家庭でも美味しい酢飯をつくることは可能だと続ける。「私が今回一部のレシピで使用した『すし酢』のように、すでに調味されている商品を活用するのがおすすめ。酢飯用にお米の品種から替えるのはなかなか難しいでしょうから、ご飯を炊く際に水分量をいつもより少なくするといいでしょう。ご自宅で酢飯をつくる際のよくある失敗例がベチャベチャとした仕上がりになること。特に秋は、一般の市場に出回っているお米は新米であることが多いので、酢飯に適しているとされる古米に比べ水分量が多いのも関係しています」。

岡田さんが愛用している木桶
1887(明治20)年創業、東京・深川の江戸結桶の店・桶栄の作。「10年ほど前、伊勢神宮への江戸前鮨奉納に際し、特別に『桶栄』さんに制作いただいたもの。たががゆるむことはないですし、カビも生じない。素晴らしい手仕事です」

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鮨の米と酢、魚を大解剖①
 
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text: Tsutomu Isayama photo: Seitaro Ikeda
Discover Japan 2024年12月号「米と魚」

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